高齢化社会の進展とともに、在宅での療養や介護を希望する人が増加しています。その中で重要な役割を果たすのが訪問看護サービスです。しかし、多くの方が「介護保険と医療保険のどちらが適用されるのか」「費用はどの程度違うのか」といった疑問を抱えています。
訪問看護は、医師の指示のもと看護師などが利用者の自宅を訪問し、病状観察、医療処置、リハビリテーション、ターミナルケアなどを提供するサービスです。適用される保険制度によって、利用条件や費用、サービス内容に大きな違いがあるため、正しい理解が欠かせません。
本記事では、訪問看護における介護保険と医療保険の違いについて、2024年度の最新制度改正を含めて詳しく解説します。利用者の年齢や疾病、要介護認定の有無などによる適用条件の違いから、具体的な費用比較まで、実践的な情報をお届けします。

訪問看護で介護保険と医療保険はどちらが優先されるの?適用条件の違いを教えて
訪問看護における保険適用の最も重要なポイントは、介護保険と医療保険を同時に併用することは原則としてできないということです。利用者の年齢や状態に応じて、どちらか一方の保険が適用されます。
介護保険が適用される条件は以下の通りです。65歳以上で要支援・要介護認定を受けている人が基本的な対象となります。また、40歳以上65歳未満の人でも、厚生労働省が定める特定疾病16疾病に該当し、要支援・要介護認定を受けている場合は介護保険の対象となります。
特定疾病には、がん、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脳血管疾患、糖尿病性神経障害・腎症・網膜症などが含まれています。介護保険を利用する場合、ケアマネジャーが作成する居宅サービス計画(ケアプラン)に基づいてサービスが提供されます。
一方、医療保険が適用される条件は、40歳未満の人や、40歳以上65歳未満で特定疾病に該当しない場合、要支援・要介護認定を受けていない場合などです。重要なのは、要支援・要介護認定を受けている人でも、特定の条件下では医療保険が優先されることです。
厚生労働大臣が定める疾病等(末期の悪性腫瘍、多発性硬化症、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病関連疾患、人工呼吸器を使用している状態など19疾病と1状態)に該当する場合は、介護保険よりも医療保険が優先されます。また、急性増悪等により主治医が特別訪問看護指示書を交付した場合は、最大14日間医療保険での訪問看護が可能となります。
介護保険と医療保険の訪問看護、利用回数や時間に違いはある?
介護保険と医療保険では、訪問看護の利用回数や時間に大きな違いがあります。この違いは、急性期の医療的ケアと慢性期の継続的ケアという異なるニーズに対応するための制度設計によるものです。
医療保険の場合、利用回数は週3回まで、1回につき30分から90分以内という制限があります。ただし、厚生労働大臣が定める疾病等に該当する場合や、特別訪問看護指示書が交付された場合は、週4回以上、1日2〜3回の訪問も可能となります。これは、重篤な疾患や急性増悪時により集中的な医療的ケアが必要な場合に対応するためです。
介護保険の場合は、利用回数に制限はありません。1回の訪問時間は20分、30分、1時間、1時間半から選択でき、利用者の状態や必要性に応じて柔軟にサービスを組み立てることができます。ただし、要介護度に応じて設定された支給限度額の範囲内でサービスを利用する必要があります。
例えば、要介護1の支給限度額は月167,650円、要介護3では270,480円、要介護5では362,170円となっており、この範囲内で訪問看護を含む各種介護サービスを組み合わせて利用します。
この違いにより、急性期の集中的な医療処置が必要な場合は医療保険で対応し、慢性期の継続的な健康管理や生活支援が必要な場合は介護保険で対応するという役割分担が明確になっています。利用者の状態変化に応じて、適切な保険制度を選択することで、最適なケアを受けることができます。
訪問看護の費用はどちらの保険が安い?自己負担額を比較したい
訪問看護の費用は、利用する保険の種類によって自己負担割合と料金体系が異なります。どちらが安いかは、利用者の年齢、所得、利用頻度によって変わるため、個別の状況を考慮した比較が重要です。
医療保険の自己負担割合は、年齢や所得に応じて決定されます。75歳以上の後期高齢者は原則1割負担ですが、一定以上の所得がある場合は2割または3割負担となります。70歳以上75歳未満の前期高齢者は1〜3割負担、69歳以下は原則3割負担となっています。
医療保険の具体的な費用は、基本療養費として週3日まで1回につき5,550円、週4回以上1回につき6,550円となっています。これに管理療養費として月の初日7,400円、2日目以降2,980円が加算されます。
介護保険の自己負担割合は、原則1割ですが、一定以上の所得がある場合は2割または3割負担となります。2021年8月からは、年収が340万円以上(単身世帯)の人は2割負担、年収が383万円以上(単身世帯)の人は3割負担となっています。
介護保険の訪問看護費は、地域区分や要介護度によって単価が異なりますが、訪問看護ステーションの基本部分は、20分未満で313単位、30分未満で469単位、1時間未満で816単位、1時間半未満で1,118単位となっています。1単位の単価は地域によって異なりますが、概ね10円程度です。
月額費用の比較例として、1週間に1回1時間のサービスを受ける場合、介護保険で1割負担の人は1ヵ月約4,000円程度、医療保険で1割負担の人は1ヵ月約4,400円程度となり、大きな差はありません。
重要な違いは、医療保険の場合は高額療養費制度を利用できることです。例えば75歳以上の一般所得世帯では月額上限額12,000円、非課税世帯では8,000円となり、この金額を超えた医療費は還付されます。一方、介護保険の場合は支給限度額を超えてサービスを利用した場合、超過分は全額自己負担となるため注意が必要です。
要介護認定を受けていても医療保険が適用される特別なケースとは?
一般的に要支援・要介護認定を受けている人は介護保険が優先されますが、特定の医療的ニーズが高い場合には医療保険が優先適用される重要な例外があります。これらのケースを正しく理解することで、適切な保険制度を利用できます。
厚生労働大臣が定める疾病等に該当する場合は、要介護認定の有無に関わらず医療保険が優先されます。具体的には、末期の悪性腫瘍、多発性硬化症、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病関連疾患、多系統萎縮症、プリオン病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、後天性免疫不全症候群、頸髄損傷、人工呼吸器を使用している状態など、19疾病と1状態が指定されています。
これらの疾病は、高度な医療的管理が継続的に必要で、一般的な介護サービスの範囲を超える専門的な医療処置やモニタリングが求められる特徴があります。例えば、末期がんの場合は疼痛管理や症状緩和、人工呼吸器使用者の場合は24時間体制での機器管理と緊急時対応が必要となります。
急性増悪時の特別訪問看護指示書による医療保険適用も重要なケースです。主治医が利用者の病状が急激に悪化したと判断し、特別訪問看護指示書を交付した場合、最大14日間(月1回まで)医療保険での訪問看護が可能となります。この期間中は介護保険の週回数制限を超えて、より頻回な訪問看護を受けることができます。
精神科訪問看護も医療保険が適用される特別なケースです。精神疾患を有する人に対して、精神科医または精神科訪問看護に関する適切な研修を受けた看護師等が行う訪問看護は、要介護認定の有無に関わらず医療保険での対応となります。
小児の訪問看護(40歳未満)も医療保険が適用されます。医療的ケア児や先天性疾患を持つ子どもなど、成長発達段階にある小児への訪問看護は、介護保険制度の対象外となるため、医療保険での対応となります。
これらの特別ケースでは、医療保険の利点である週4回以上の訪問、1日複数回訪問、高額療養費制度の適用などを活用することで、より集中的で専門的なケアを受けることが可能となります。
2024年度制度改正で訪問看護の保険適用はどう変わった?
2024年度(令和6年度)には、診療報酬改定と介護報酬改定が同時実施され、訪問看護に関しても重要な変更が行われました。これらの改正により、より質の高いサービス提供と利用者ニーズへの対応が強化されています。
介護報酬改定の主要な変更点として、専門性の高い看護師による計画的な管理を評価する新たな加算が創設されました。認定看護師や専門看護師などの専門資格を持つ看護師が、訪問看護の実施に関する計画的な管理を行うことで、より専門性の高いケアが提供されることになります。
円滑な在宅移行支援として、看護師による退院当日訪問の推進が図られました。病院から在宅への移行をスムーズに行うため、退院日当日から訪問看護を開始できる体制が整備され、利用者の不安軽減と安全な在宅移行が促進されています。
業務継続計画(BCP)未策定事業所に対する減算の導入も重要な変更点です。災害時や感染症流行時においても継続的にサービスを提供するため、BCP策定が義務化され、未策定の事業所には報酬が減算される仕組みが導入されました。
高齢者虐待防止の推進として、虐待防止委員会の設置や従事者への研修実施が義務化されました。また、24時間対応体制の充実により、緊急時対応加算の要件が見直され、より確実な緊急時対応体制の確保が求められています。
診療報酬改定の変更点では、在宅医療の推進と質の向上を図る観点から、訪問看護の基本療養費や各種加算の見直しが行われました。特に、重症度の高い利用者や医療的ケア児等への対応を評価する加算が充実され、より手厚いケアが必要な利用者への支援が強化されています。
情報通信技術(ICT)の活用推進も重要な改正点です。電子カルテシステムの導入促進、タブレット端末を活用した効率的な記録管理、テレビ電話を利用した遠隔相談体制の整備などが評価され、業務効率化と質の向上が同時に図られています。
多職種連携の強化として、医師、ケアマネジャー、薬剤師、リハビリ専門職等との連携を評価する仕組みが充実されました。これにより、チーム医療としての訪問看護の位置づけがより明確になり、総合的なケア提供体制が強化されています。
これらの制度改正により、利用者はより質の高い専門的なケアを受けることができるようになり、事業所はより安定的で継続的なサービス提供が可能となりました。2025年に向けて地域包括ケアシステムの更なる推進が図られる中、訪問看護の役割はますます重要になっています。









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