就労移行支援と就労定着支援は、障害のある方の就労を支える障害福祉サービスですが、目的・内容・利用期間がまったく異なります。就労移行支援は就職前の準備段階で職業訓練や就活サポートを提供するサービスであり、就労定着支援は就職後に職場で長く働き続けるための支援を行うサービスです。両者の違いを正しく理解し、就職後7ヶ月目という移行タイミングを意識して手続きを進めることで、就職から職場定着までを切れ目なくサポートしてもらうことが可能になります。この記事では、就労移行支援と就労定着支援それぞれのサービス内容や利用期間の違い、移行タイミングの具体的な流れ、さらに職場定着が困難になる原因とその対策まで詳しく解説していきます。

就労移行支援とは?一般就労を目指すための障害福祉サービス
就労移行支援とは、障害のある方が一般企業などへの就職を目指すために必要なスキルを身につけるための障害福祉サービスです。利用者は就労移行支援事業所に通いながら、職業訓練プログラムや就職活動の支援を受けることができます。就労移行支援の大きな特徴は、単なるスキルアップにとどまらず、利用者一人ひとりの状態に合わせた個別支援計画が作成される点にあります。スタッフが入所直後に丁寧なヒアリングを行い、本人の強みや課題を把握した上で最適なカリキュラムが組まれます。
就労移行支援の主な対象者は、障害または難病があること、一般就労を希望していること、就労が可能と見込まれること、そして18歳以上65歳未満であることという条件を満たす方です。身体障害、知的障害、精神障害(うつ病、双極性障害、統合失調症、不安障害、適応障害、発達障害など)、難病(多発性硬化症、潰瘍性大腸炎など)と幅広い障害種別の方が利用できます。障害者手帳がない場合でも、医師の診断書があれば利用できる場合があります。就労移行支援の利用期間は原則として最長2年間(24ヶ月)です。
就労移行支援で受けられる訓練内容とサービスの詳細
就労移行支援では、就職に必要なさまざまなプログラムが提供されています。カリキュラムは大きく「社会スキル」「ビジネススキル」「専門スキル」「就活スキル」の4つで構成されています。
社会スキルトレーニングでは、職場でのコミュニケーション能力や対人関係スキル、生活管理能力などを養います。ロールプレイやグループワークを通じて実践的に学ぶことができます。ビジネススキルの習得では、パソコン操作(Word、Excel、PowerPointなど)やビジネスマナー、タスク管理、報連相(報告・連絡・相談)のやり方など、実際の職場で求められる実務スキルを身につけます。
事業所によっては、デザインやプログラミング、経理、清掃、農業など、特定の職種に特化した専門スキルを習得できるコースを用意しているところもあります。さらに、就労移行支援事業所内での模擬的な業務体験や、提携企業での現場実習も行われます。本番に近い環境で働く経験を積むことで、就職後のギャップを小さくする効果が期待できます。
就職活動支援としては、履歴書の書き方や自己PR文の作成、模擬面接など、就職活動に必要なスキルを習得できます。障害者雇用求人の活用方法についてもサポートが受けられます。そして就労移行支援のサービスには、就職後6ヶ月間の職場定着支援も含まれています。就職してすぐの不安定な時期に、支援員が定期的に連絡を取ったり企業との調整を行うことで、安定した就労の継続をサポートします。
就労移行支援の利用料金と費用負担の仕組み
就労移行支援は、利用者の前年度の世帯収入に応じた応能負担方式が採用されています。生活保護受給世帯と市町村民税非課税世帯は無料で利用できます。市町村民税課税世帯で年収約600万円未満の場合は月額上限9,300円、それを超える世帯は月額上限37,200円となっています。実際には、生活保護受給世帯または市町村民税非課税世帯に該当する方が多く、約9割以上の利用者が無料または低額で利用しているとされています。
就労定着支援とは?就職後の職場定着を支えるサービス
就労定着支援とは、就労移行支援などを経て一般就労を果たした障害のある方が、職場に長く定着して働き続けられるよう支援する障害福祉サービスです。2018年4月に始まった比較的新しいサービスで、就職後の「定着率向上」を目的としています。就労移行支援の目的が「就職すること」であるのに対し、就労定着支援の目的は「就職した後も長く働き続けること」です。この点が両者の最も大きな違いとなっています。
就労定着支援の対象者は、就労移行支援、就労継続支援、自立訓練、生活介護などの障害福祉サービスを利用して一般就労した方で、かつ就職後6ヶ月を経過した方(就職後7ヶ月目から利用開始可能)です。
就労定着支援の具体的なサービス内容と支援の流れ
就労定着支援では、利用者が職場で安定して働き続けられるよう多角的な支援が行われます。
まず、支援員が利用者と月に1回以上の定期的な面談を実施します。面談の場所は職場、事業所、利用者宅などさまざまで、職場でのコミュニケーションに関する悩みや心身の状態、家族との関係性など、就労継続に影響する課題を把握し、適切なアドバイスを行います。
職場との調整・連携も重要な支援内容です。利用者だけでなく職場の担当者とも連絡を取り合い、業務内容の見直しや職場環境の改善を働きかけます。利用者と職場の間に立つ「仲介役」としての役割を担い、誤解や摩擦の解消を図ります。必要に応じて、利用者・企業担当者・支援員の三者が同席する面談も実施されます。
さらに、医療機関(主治医・精神科など)やハローワークなどの関係機関とも連携し、利用者を多方面からサポートします。体調の変化や生活上の課題が職場定着に影響している場合は、早期に対応策を講じることができます。生活リズムの乱れや体調管理、金銭管理の課題なども就労定着支援の対象であり、仕事を長く続けるために不可欠な生活面の安定もサポートします。
就労定着支援の利用料金と負担額
就労定着支援の利用料金も、就労移行支援と同様に応能負担方式が採用されています。生活保護受給世帯と市町村民税非課税世帯は無料で利用でき、それ以外の世帯は月額5,000円以下の負担となっています。就職後1年目は前年度の所得が低いケースが多いため、無料で利用できる場合が多いです。ただし、2年目以降は前年度の就労収入に応じて自己負担が発生する場合があります。
就労移行支援と就労定着支援の違いを比較表で整理
就労移行支援と就労定着支援の主な違いを以下の表にまとめました。
| 比較項目 | 就労移行支援 | 就労定着支援 |
|---|---|---|
| 目的 | 一般就労の実現 | 就職後の職場定着 |
| 利用開始時期 | 就職前 | 就職後7ヶ月目〜 |
| 最大利用期間 | 2年間(24ヶ月) | 3年間(36ヶ月) |
| 支援の対象 | 就職を目指す障害者 | 一般就労した障害者 |
| 主な支援内容 | 職業訓練・就活支援 | 職場定着・生活支援 |
| 利用場所 | 事業所に通所 | 面談・訪問・電話等 |
このように、就労移行支援と就労定着支援はそれぞれ異なる時期に異なる目的で利用するサービスです。就労移行支援が「就職するための力」を育てる段階であるのに対し、就労定着支援は「働き続ける力」を支える段階として位置づけられています。
就労移行支援から就労定着支援への移行タイミングと手続きの流れ
就労移行支援から就労定着支援への移行は、就職後のタイムラインに沿って段階的に進みます。
就職から就職後6ヶ月間は、就労移行支援事業所による「職場定着支援」の期間です。この期間は就労移行支援の一部として提供されるもので、支援員による定期的な連絡・面談、職場への訪問と環境調整、企業担当者との情報共有などが行われます。この6ヶ月間は就労定着支援とは区別され、あくまでも就労移行支援の枠組みの中での支援です。
就職後7ヶ月目になると、正式に就労定着支援のサービスが開始されます。就労移行支援と就労定着支援は別のサービスですが、多くの就労移行支援事業所が就労定着支援も同時に提供しているため、同じ事業所のスタッフが引き続きサポートしてくれるケースが一般的です。
就労定着支援の利用には新たに受給者証の申請が必要です。申請から利用開始まで2週間〜1ヶ月程度かかる場合があるため、就職後6ヶ月が経過する前に早めに準備を進めることが大切です。手続きの流れとしては、まず就労移行支援事業所のスタッフに相談し、次に市区町村の障害福祉課に相談・申請を行います。その後、支給決定と受給者証の交付を受け、就労定着支援事業所との契約を経て、就職後7ヶ月目以降にサービスが開始されます。
就労定着支援は就労移行支援事業所とは別の事業所でも利用できますが、すでに関係のできているスタッフが引き継ぐ方が本人の状況を理解しているため、スムーズに支援が継続できます。
就労定着支援の利用期間と終了後のサポート体制
就労定着支援は、就職後7ヶ月目から最大3年間利用できます。つまり、就職後7ヶ月目から3年6ヶ月目まで利用可能です。利用期間は1年ごとに更新審査が行われ、引き続き支援が必要と認められれば継続されます。
就労定着支援の3年間が終了した後も、就労継続を支援する仕組みがあります。就労定着支援終了後は、障害者就業・生活支援センター(通称:なかぽつ)が継続的な支援を担います。なかぽつは国や都道府県から委託を受けた法人が運営しており、職場でのトラブルの相談や日常生活の自己管理など、長期的な就労に必要なさまざまな支援を無料で提供しています。事業所によっては、3年の期限終了後も自費での就労定着支援継続を提供しているところもあります。また、転職や離職を経て別の職場に再就職した場合など、条件を満たせば就労定着支援を再度利用できる場合もあり、市区町村の窓口に相談することで確認できます。
就労定着支援の利用で職場定着率は向上するのか
就労定着支援を利用することで、職場への定着率が高まることが調査データから明確に示されています。就職後3ヶ月時点の定着率は、就労定着支援を利用した場合が90.3%であるのに対し、利用しなかった場合は71.0%です。就職後1年時点では、利用した場合が73.2%、利用しなかった場合が52.6%となっています。
| 時点 | 就労定着支援あり | 就労定着支援なし |
|---|---|---|
| 就職後3ヶ月 | 90.3% | 71.0% |
| 就職後1年 | 73.2% | 52.6% |
このデータから、就労定着支援を利用することで就職後1年時点での定着率が約20ポイント以上向上していることがわかります。障害者の就職後1年以内の離職率は依然として高く、特に精神障害のある方は1年定着率が49.3%にとどまっています(身体障害60.8%、知的障害68.0%、発達障害71.5%)。こうした背景から、就労定着支援の重要性はますます高まっています。
就労移行支援の就職率と事業所選びのポイント
就労移行支援の全国平均就職率は約58.8%(令和5年度)で、就職を希望する2人に1人以上が一般就労を実現しています。これは就労継続支援A型(約26.9%)やB型(約11.2%)と比較すると非常に高い水準です。事業所によっては80〜90%超の就職率を実現しているところも多く、事業所選びが就職の成否に大きく影響します。
就職率は事業所のホームページや「障害福祉サービス等情報公表システム」で公表されているため、事前に確認することが重要です。就職率だけでなく「就職後の定着率」も重要な指標となります。せっかく就職できても早期に離職してしまっては意味がないため、事業所の選定では就職率と定着率の両方を確認するようにしましょう。
職場定着が困難になる主な原因と就労定着支援による対策
障害のある方が就職後に離職してしまう背景には、さまざまな要因があります。就労定着支援はこれらの問題に対処するために設計されたサービスです。
コミュニケーションの課題は最も多い離職理由の一つです。上司や同僚との意思疎通がうまくいかない、報告・連絡・相談のタイミングがわからない、指示が複数あると混乱してしまうなど、職場でのコミュニケーションに困難を感じる方は多くいます。就労定着支援では支援員が間に入り、職場との意思疎通を円滑にする役割を果たします。
体調管理の問題も大きな要因です。精神障害のある方は特に、疲労が蓄積しやすかったり体調の波が大きかったりする場合があります。定期的な休暇の取り方や疲れの早期サインへの対応など、自己管理スキルの向上が課題となります。就労定着支援では定期面談を通じて体調の変化を早期に把握し、必要に応じて医療機関とも連携して対応します。
業務内容や職場環境への不適応も離職につながるリスクがあります。就職前の想定と実際の業務にギャップが生じることがあり、業務量やスピード、複雑さが本人の特性に合っていない場合があります。就労定着支援では企業との調整を通じて業務内容の見直しや職場環境の改善を働きかけます。
障害への理解が不十分な職場では、本人が必要な配慮を求めにくい環境になっていることがあります。2024年4月から民間企業にも合理的配慮の提供が義務化されましたが、実際には職場の理解度にばらつきがあります。就労定着支援では三者面談などを通じて職場の理解促進を図ります。
生活リズムの乱れも就労継続を困難にする要因です。睡眠、食事、服薬などの生活習慣が乱れると仕事に支障が出ます。特に通勤が始まった当初は生活リズムが大きく変わるため、就労定着支援による生活面のサポートが重要な役割を果たします。
就労移行支援に向いている人の特徴と利用前に知っておきたいこと
就労移行支援の利用を検討するにあたり、自分がこのサービスに向いているかどうかを事前に確認しておくことが大切です。一般就労を強く希望しているがどう進めてよいかわからない方、障害特性に合った働き方を模索したい方、ビジネスマナーや職場でのコミュニケーションに自信がない方、就職活動の経験が少なくサポートが必要な方は、就労移行支援の活用が効果的です。特に発達障害(ASDやADHD)の方には就労移行支援が有効な場合が多いとされています。職場での暗黙のルールを明文化して学んだり、感覚過敏への対処法を習得したり、コミュニケーションのパターンを体系的に練習したりすることができるためです。
一方で、体調が不安定で週に4〜5日の通所が難しい状況にある方や、就労への意欲がまだ十分ではない方は、まず医療機関でのリハビリや就労継続支援B型などを利用して生活リズムを整えることが先決となる場合もあります。また、就労移行支援利用中は原則として収入がないため、生活費の確保についても事前に検討しておく必要があります。
就労移行支援の利用開始までの手続きと必要な準備
就労移行支援を利用するには、障害福祉サービス受給者証の取得が必要です。申請から利用開始まで通常1週間〜2ヶ月程度かかるため、早めに動き始めることが大切です。
最初のステップは情報収集と事業所見学です。就労移行支援事業所のホームページや見学・体験を通じて複数の事業所を比較し、自分の障害特性に合ったプログラム内容か、通所しやすい立地かなどを確認します。多くの事業所では無料の見学・体験利用を受け付けています。
利用したい事業所が決まったら、市区町村の障害福祉担当窓口に就労移行支援の利用申請を行います。申請書のほか、障害者手帳や医師の診断書、マイナンバーなどが必要になることが多いです。その後、市区町村の担当者による認定調査が行われ、生活状況や心身の状態、就労に関する希望などについてのヒアリングが実施されます。
認定調査の後、相談支援専門員が本人の状況とニーズをもとに「サービス等利用計画案」を作成します。セルフプランとして本人が計画を作成することも可能です。申請内容と計画案をもとに市区町村が支給を決定し、障害福祉サービス受給者証が交付されます。受給者証の交付後、就労移行支援事業所と正式に利用契約を結び、サービスの利用が開始されます。
障害者雇用をめぐる最新の動向と制度の変化
障害者の就労支援をめぐる制度は、近年大きく変化しています。令和6年度(2024年度)の障害福祉サービス等報酬改定では、就労移行支援・就労定着支援に関する報酬体系が見直され、就労定着支援の質の向上と利用促進が図られました。
また、2025年10月には「就労選択支援」という新たなサービスが開始されました。これは、就労移行支援や就労継続支援を利用するにあたって、ハローワークと連携しながら本人の適性に合った就労先・支援の形態を選択できるよう支援するものです。就労移行支援・就労定着支援とは異なる新しい支援の枠組みとして位置づけられています。
さらに、2024年4月から合理的配慮の提供が民間企業にも義務化されたことで、障害のある方が職場で必要な配慮を求めやすい環境が整いつつあります。就労移行支援事業所でも、合理的配慮の申請方法を学ぶプログラムを取り入れているところが増えています。
就労移行支援と就労定着支援を活用するための心構え
就労移行支援と就労定着支援を最大限に活用するためには、いくつかの心構えが大切です。
まず、自己理解を深めることが重要です。自分の強みと苦手なことを客観的に把握することは、就職活動と職場定着の両方において欠かせません。支援員との面談を通じて、自分の特性や働き方のクセを明確にしていくことが就労成功への第一歩となります。
就職後に問題が生じたとき、一人で解決しようとして無理をした結果、体調を崩して離職してしまうケースは少なくありません。小さな悩みでも支援員に相談することが早期対処につながるため、積極的にコミュニケーションを取ることが大切です。
障害を開示して就職するオープン就労と、開示しないクローズ就労の選択も重要なテーマです。オープン就労は合理的配慮を受けやすいというメリットがあり、クローズ就労はキャリアの選択肢が広がるメリットがあります。就労移行支援では、それぞれのメリット・デメリットを踏まえた選択をサポートしてもらえます。
そして、就職はゴールではなくスタートであるという長期的な視点を持つことが大切です。就労移行支援と就労定着支援を通じて、3年後、5年後、10年後にどのようなキャリアを歩みたいかを少しずつ考えていくことが、安定した就労継続につながります。障害のある方が安心して長く働き続けられるよう、これらのサービスを上手に活用していきましょう。支援制度についてわからないことがあれば、市区町村の障害福祉課や相談支援専門員に相談してみることをおすすめします。








