賃貸住宅にお住まいで、介護が必要になった際に「住み慣れた自宅で安全に生活を続けたい」と考える方は多いでしょう。介護保険制度では、要介護・要支援認定を受けた方が自宅での自立した生活を継続できるよう、住宅改修費の支給制度が設けられています。
賃貸住宅の場合、「自分の家ではないから住宅改修はできない」と諦めてしまう方もいらっしゃいますが、実は適切な手続きを踏めば、賃貸住宅でも介護保険を利用した住宅改修が可能です。ただし、持ち家とは異なる特有の要件や注意点があり、特に家主の承諾や原状回復義務といった賃貸特有の課題をクリアする必要があります。
2025年7月時点の最新情報では、労務単価の改定により工事費用が上昇傾向にある一方で、支給限度額は20万円で据え置かれているため、事前の計画と適切な申請手続きがより重要になっています。本記事では、賃貸住宅における介護保険住宅改修の申請方法から成功のポイントまで、実践的な情報を詳しく解説いたします。

賃貸住宅でも介護保険を使った住宅改修はできるの?家主の承諾は必要?
結論から申し上げると、賃貸住宅でも介護保険を利用した住宅改修は可能です。ただし、持ち家の場合と大きく異なる点があります。
まず、家主(賃貸人)の書面による承諾が絶対に必要です。これは法的要件であり、口頭での承諾では不十分で、必ず「住宅改修承諾書」または「同意書」という書面での正式な承諾が求められます。家主の承諾が得られなければ、どれだけ身体状況に改修が必要であっても、介護保険を利用した改修工事は一切実施できません。
承諾書には、改修する住宅の所在地、建物名称、改修の概要(施工場所や内容)などが具体的に記載されます。例えば「浴室にL型手すり1本設置」「トイレ入口の段差解消工事」といった詳細な工事内容を明記する必要があります。
家主が承諾を渋る場合もありますが、これは将来の原状回復費用への懸念や、物件価値への影響を心配されるケースが多いです。そのため、ケアマネジャーや信頼できる工事業者と連携し、介護保険制度の趣旨(利用者の自立支援と在宅生活の継続)、改修内容の必要性(転倒防止や日常生活動作の改善効果)、そして原状回復に関する具体的な取り決めについて丁寧に説明することが重要です。
実際の成功例では、改修内容を「比較的可逆性の高い工事」に限定することで家主の理解を得やすくなっています。例えば、壁に穴を開ける手すり設置よりも、既存の柱や枠を活用した設置方法を提案したり、将来的に取り外しが容易な工法を選択したりする工夫が効果的です。
また、賃貸借契約書の事前確認も欠かせません。契約書に改修に関する特約や禁止事項が記載されている場合があるため、申請前に必ず内容を確認し、必要に応じて家主と追加の取り決めを交わすことが賢明です。
賃貸住宅での介護保険住宅改修の申請方法と必要書類は何?
賃貸住宅での介護保険住宅改修の申請は、工事着工前の事前申請が絶対条件です。事前申請なしで工事を進めてしまうと、後から支給申請をすることは一切できませんので、この点は特に注意が必要です。
申請の流れ
1. ケアマネジャーへの相談
まず担当のケアマネジャーに相談し、利用者の身体状況や生活環境、改修の必要性について詳細に検討します。ケアマネジャーは利用者の状態に合わせた適切なプランを提案し、必要に応じて医師や理学療法士、作業療法士などの専門職とも連携します。
2. 住宅改修事業者との打ち合わせ
ケアマネジャーも同席のもと、施工事業者と具体的な工事内容や見積もりについて打ち合わせを行います。複数の事業者から見積もりを取得することが強く推奨されており、工事内容、費用、工期、アフターサービスなどを比較検討しましょう。
3. 家主承諾の取得
賃貸住宅特有のステップとして、家主からの書面による承諾を取得します。この段階で、将来の原状回復についても可能な限り具体的な取り決めを行うことが重要です。
事前申請に必要な書類
賃貸住宅の場合、持ち家よりも多くの書類が必要になります:
- 介護保険居宅介護(介護予防)住宅改修費支給申請書
- 住宅改修が必要な理由書(ケアマネジャーが作成)
- 介護保険住宅改修に係る見積書
- 住宅改修施工計画書
- 施工前の写真(撮影日付が写し込まれているもの)
- 住宅改修に関する承諾書(家主の承諾書)
- 賃貸借契約書の写し
- 口座振替申出書(償還払い方式の場合)
これらの書類準備は、多くの場合ケアマネジャーや住宅改修事業者がサポートしてくれます。提出後、市区町村による審査が行われ、通常1週間から10日程度で審査結果が郵送されます。
工事実施と支払い方法
承認通知が届いてから工事を開始します。支払い方法には「償還払い」と「受領委任払い」の2種類があります。
償還払いは、利用者が工事費用の全額をいったん施工業者に支払い、その後支給対象工事費用の9割~7割が後から振り込まれる方法です。一時的にまとまった資金が必要となります。
受領委任払いは、利用者が自己負担分(1割~3割)のみを施工業者に支払い、残りは市区町村から直接施工業者に支払われる方法です。ただし、この方法を利用できるのは市区町村と受領委任契約を結んでいる登録事業者に限られます。
事後申請
工事完了後は、事後申請書類の提出が必要です。主な書類は、請求書、領収書、工事内訳書、施工後の写真、事前申請書の写しなどです。審査完了後、支給決定通知書が郵送され、多くの場合、事後申請した月の翌月末に保険給付が振り込まれます。
介護保険の住宅改修で賃貸住宅ではどんな工事ができる?支給限度額は?
介護保険で支給対象となる住宅改修工事は、厚生労働省が定める6つの基本工事に限定されています。これらは単なる利便性向上ではなく、利用者の身体状況の変化に対応し、日常生活動作の改善に直接貢献するものです。
支給対象工事の詳細
1. 手すりの取付け
転倒防止や身体支持のための手すり設置が対象です。玄関、廊下、トイレ、浴室、階段など、利用者の動線に沿った場所への設置が認められます。手すりを取り付けるための壁の下地補強も、付帯工事として支給対象となります。
2. 段差の解消
屋内外の段差をなくすための工事です。敷居の撤去、スロープの設置、床のかさ上げなどが含まれます。浴室の床のかさ上げに伴う給排水設備工事も対象となる場合があります。
3. 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
転倒リスク軽減や車いす移動の容易化を目的とした床材の変更が対象です。例えば、滑りやすい畳から滑りにくいフローリングへの変更などです。
4. 引き戸等への扉の取替え
開き戸から引き戸への変更、アコーディオンカーテンへの変更、扉の撤去、ドアノブの変更などが含まれます。車いす移動の容易化や、握力低下による開閉負担の軽減が目的です。
5. 洋式便器等への便器の取替え
和式便器から洋式便器への取替えが対象です。立ち座りの負担軽減と転倒リスクの低減を図ります。
6. その他付帯工事
上記の主要工事に付随して必要となる工事も支給対象となります。
支給限度額と自己負担
支給限度額は1人につき生涯で20万円(利用者負担額を含む総額)です。この限度額は原則1回限りですが、要介護状態区分が3段階以上上がった場合や転居した場合には、再度20万円までの支給限度額が設定されます。
20万円の範囲内であれば、複数回に分けて住宅改修を行うことも可能です。例えば、まず手すりを設置し、後日段差解消を行うといった利用方法もできます。
自己負担割合は、利用者の所得に応じて1割、2割、または3割となります。例えば、負担割合が1割の方が20万円で住宅改修を行った場合、18万円が支給され、2万円が自己負担となります。
賃貸住宅での工事選択のポイント
賃貸住宅では、原状回復義務を考慮して工事内容を選択することが重要です。比較的可逆性が高く、建物の構造に大きな影響を与えない工事が選ばれる傾向があります。
成功例としては、トイレのバリアフリー化(段差解消、手すり設置)、廊下の開口部拡張(既存引戸からアコーディオンカーテンへの変更)、浴室の出入り口段差解消などがあります。これらは取り外しが比較的容易で、家主の理解も得やすい改修内容です。
一方、昇降機の設置、新築・増築時のバリアフリー化、単なる老朽化による修理、趣味・趣向に関する改修は支給対象外となりますので注意が必要です。
賃貸住宅の住宅改修で注意すべき点は?原状回復義務はどうなる?
賃貸住宅での住宅改修には、持ち家にはない特有のリスクと注意点があります。最も重要なのが原状回復義務の問題です。
原状回復義務の重要性
退去時に発生する原状回復のための費用は、介護保険の支給対象外です。これは全額利用者の実費負担となるため、改修を検討する際の重要な判断材料となります。
この原状回復義務は、賃貸住宅における介護保険住宅改修の普及を阻害する潜在的な要因となっており、事前の十分な検討が不可欠です。改修内容によっては、将来の原状回復費用が当初の改修費用を上回る可能性もあります。
事前対策の重要性
賃貸借契約書の詳細確認は必須です。原状回復義務に関する特約や、改修に関する規定がないかを必ず確認しましょう。契約書によっては、「借主の都合による改修は一切認めない」といった条項がある場合もあります。
家主との間で、将来の原状回復について事前に合意形成を図ることが強く推奨されます。例えば、改修内容によっては原状回復が不要となるケースや、費用負担に関する取り決めを契約書に特約として追加することも可能です。
支給対象外となるケースへの注意
以下のケースでは支給対象外となるため、特に注意が必要です:
工事関連の注意点
- 事前申請なしの工事(最重要)
- 要介護認定申請前の工事
- 新築・増築時のバリアフリー化
- 昇降機の設置
- 単なる老朽化や修理
賃貸住宅特有の注意点
- 賃貸住宅の共用部分の改修
- マンションの共有部分への改修
- 店舗兼居宅の店舗部分の改修
同居世帯での注意点
同一世帯に複数の被保険者がいる場合、同一の工事に重複して申請することはできません。例えば、1本の廊下手すりを夫婦でそれぞれ半分ずつ申請するといった按分は認められません。
他の助成制度との併用ルール
国の補助金との併用は原則不可です。同一の工事内容に対して、介護保険と他の国費が充当される制度の併用はできません。
一方、地方自治体の補助制度との併用は、国費が充当されていない場合に限り可能なケースがあります。ただし、自治体によって併用可否の規定が異なるため、事前に確認が必要です。
リスク軽減のための実践的アドバイス
工事内容の慎重な選択:取り外しが容易で、建物への影響が最小限の工事を優先的に検討しましょう。
書面での記録保持:家主との協議内容、承諾の条件、原状回復に関する取り決めなど、すべて書面で記録し保管してください。
専門家との連携:ケアマネジャー、信頼できる工事業者、必要に応じて建築士などの専門家と十分に相談し、リスクを最小化した改修計画を策定しましょう。
賃貸住宅での住宅改修を成功させるコツと多職種連携のポイントは?
賃貸住宅での介護保険住宅改修を成功させるには、多職種の専門家が連携し、利用者を中心とした包括的なサポート体制を構築することが不可欠です。
ケアマネジャーを中心とした連携体制
ケアマネジャーは住宅改修プロジェクトの司令塔として機能します。利用者の身体状況、生活動線、介助方法などを詳細に把握し、その情報を基に適切な改修内容を検討します。
効果的な連携のためには、サービス担当者会議の開催が重要です。医師からは病歴や予後、日常生活での留意点の情報提供を受け、理学療法士は起居動作や移動能力を評価し、機能面からのアドバイスを提供します。作業療法士は日常生活動作の改善方法を、建築士は構造的な安全性を、工事業者は施工の実現可能性をそれぞれ検討します。
信頼できる工事業者の選定基準
複数業者からの相見積もり取得は基本中の基本です。価格だけでなく、以下の要素を総合的に評価しましょう:
資格・許可の確認:建設業許可の有無、専門資格の保有状況を確認します。
保険・保証体制:瑕疵保険への加入、工事保証の内容、アフターサービスの充実度を評価します。
介護保険制度への理解度:制度の目的や制限事項について適切に説明できる業者を選択します。
透明性:見積もり内容が詳細で明確であり、追加工事の可能性についても事前に十分な説明がある業者が望ましいです。
悪質業者を避けるための注意点
「その場契約」の強要:「今日契約すれば特別価格」などと契約を急かす業者には絶対に応じず、必ず家族やケアマネジャーと相談する時間を確保しましょう。
「介護保険で無料」という誘い文句:介護保険には自己負担があり、全額無料になることはありません。このような勧誘には十分注意してください。
訪問販売への警戒:突然の訪問で住宅改修を勧める業者は避け、信頼できるケアマネジャーや地域包括支援センターからの紹介業者を優先しましょう。
家主との効果的な交渉術
改修の必要性を具体的に説明:医師の意見書や理学療法士の評価書など、専門職からの客観的な根拠を示すことで説得力が増します。
改修内容の可逆性をアピール:将来的に取り外しが可能な工法や、建物価値の向上につながる改修内容であることを強調します。
原状回復に関する具体的提案:費用負担の方法や、改修内容によっては原状回復を不要とする条件など、具体的な提案を用意します。
法的根拠の説明:介護保険制度の社会的意義や、高齢者の在宅生活継続支援という公益性を説明します。
利用者・家族の主体的関与
早期の情報収集:介護が必要になったと感じた段階で、速やかに制度について学び、将来の住宅改修の可能性を検討しておきます。
明確な要望の整理:日常生活での困りごとや危険を感じる場面を具体的にリストアップし、専門職に的確に伝えられるよう準備します。
予算計画の策定:20万円の支給限度額と自己負担割合を考慮し、現実的な改修計画を立てます。
継続的な関係構築:ケアマネジャーや信頼できる工事業者との長期的な関係を築き、将来の状態変化にも対応できる体制を整えます。
成功事例から学ぶポイント
実際の成功事例では、以下の共通点が見られます:
段階的な改修アプローチ:一度にすべてを改修するのではなく、最も緊急性の高い箇所から段階的に進める方法が効果的です。
地域資源の活用:地域包括支援センターや社会福祉協議会など、公的な相談窓口を積極的に活用しています。
家族全体での合意形成:利用者本人だけでなく、家族全体で改修の必要性と内容について十分に話し合い、合意形成を図っています。
アフターフォローの重視:改修後の使用状況を定期的に確認し、必要に応じて微調整や追加改修を検討する継続的なサポート体制があります。
これらの要素を総合的に組み合わせることで、賃貸住宅であっても安全で快適な住環境を実現し、利用者の自立した在宅生活を支えることが可能になります。









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