令和7年年金制度改正法の主な改正点と施行時期を徹底解説

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令和7年年金制度改正法の主な改正点は、厚生年金の適用拡大、基礎年金の底上げ、在職老齢年金制度の緩和、標準報酬月額上限の引き上げ、遺族年金制度の男女差解消の5つです。この法律は2025年(令和7年)6月に成立し、2026年4月から順次施行されます。正式名称は「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」であり、1961年の国民皆年金制度創設以来の大きな転換点となる改正といえます。

今回の改正は、従来の「夫が働き、妻が専業主婦」という標準世帯モデルを前提とした設計思想から、共働きや単身世帯、高齢期就労が一般化した現代社会に対応する「全世代型社会保障」への構造的な転換を目指すものです。「106万円の壁」と呼ばれる賃金要件の撤廃や、企業規模要件の段階的廃止など、働き方の多様化に対応した改革が数多く盛り込まれています。この記事では、令和7年年金制度改正法の具体的な内容と各改正項目の施行時期について詳しく解説します。パートタイム労働者の社会保険加入要件の変更、年金受給額への影響、企業が対応すべき事項など、私たちの生活に直結する情報を網羅的にお届けします。

目次

令和7年年金制度改正法とは

令和7年年金制度改正法とは、少子高齢化が進む日本社会において公的年金制度の持続可能性と給付の十分性を両立させるため、2025年(令和7年)6月に成立した法律です。この改正法は、2024年(令和6年)夏に公表された「公的年金財政検証」の結果を踏まえて策定されました。

財政検証とは、少なくとも5年に1度行われる公的年金制度の健康診断のようなもので、今後100年間の人口動態や経済状況をシミュレーションし、年金財政の均衡と給付水準の見通しを点検するものです。2024年の検証結果では、女性や高齢者の労働参加が進んだことや積立金の運用状況が好調であったことから、前回(2019年)の検証時よりも財政基盤が改善していることが確認されました。しかし同時に、現行制度のまま推移した場合、将来の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金受給額の比率)が低下し続けること、とりわけ基礎年金部分の実質的な購買力が大きく目減りするリスクも明らかになりました。

今回の改正は、これらの構造的な課題に対して先送りせず正面から向き合い、能力のある人は年齢にかかわらず支え手側に回り、真に支援が必要な人に給付を重点化するという「応能負担」の考え方を強化するものとなっています。

令和7年年金制度改正法の施行時期一覧

令和7年年金制度改正法の各改正項目は、2026年から2035年にかけて段階的に施行されます。改正内容ごとの施行時期を把握しておくことが重要です。

改正内容施行時期
在職老齢年金の支給停止基準額引き上げ(50万円→62万円)2026年4月
賃金要件(月額8.8万円以上)の撤廃2026年10月頃
企業規模要件を36人以上に拡大2027年10月
標準報酬月額上限を68万円に引き上げ2027年9月
遺族年金制度の男女差解消2028年4月
標準報酬月額上限を71万円に引き上げ2028年9月
企業規模要件を21人以上に拡大2029年10月
個人事業所の非適用業種解消2029年10月
標準報酬月額上限を75万円に引き上げ2029年9月
企業規模要件を11人以上に拡大2032年10月
企業規模要件の完全撤廃2035年10月

このように、約10年をかけて段階的に改正が進められます。特に企業規模要件の撤廃については、中小・零細企業の経営体力や事務負担に配慮したロードマップが組まれています。

被用者保険の適用拡大による改正点

令和7年改正法の中で最も多くの国民と企業に直接的な影響を与えるのが、厚生年金保険・健康保険(被用者保険)の適用拡大です。この改正は長年の課題であった「年収の壁」問題に対する抜本的な解決策となります。

106万円の壁となる賃金要件の撤廃

これまでパートタイム労働者が社会保険に加入する義務が生じる要件の一つに、「月額賃金8.8万円以上(年収換算約106万円)」という基準がありました。この基準があることで、多くの労働者が保険料負担を避けるために労働時間を調整する「働き控え」が発生し、深刻な人手不足の一因となっていました。

今回の改正では、この賃金要件(月額8.8万円以上)そのものが撤廃されます。これにより、新たな加入要件は基本的に「週の所定労働時間が20時間以上であること」に集約されます。時給や月収の多寡にかかわらず、週20時間以上働く労働者は原則として全員が社会保険の加入対象となります。

この賃金要件の撤廃は、2026年(令和8年)10月頃の施行が見込まれています。政府は最低賃金の引き上げとセットでこの施策を進める方針であり、全国加重平均の最低賃金が1,000円を超え、さらに1,500円を目指す動きの中で、週20時間働けば自然と月収8.8万円を超える地域が増えています。仮に最低賃金が1,016円を超えれば、週20時間労働で月収は約8.8万円に達するため、実質的に賃金要件は意味をなさなくなります。改正法は、この経済実態を法制度として追認したものです。

企業規模要件の段階的撤廃スケジュール

もう一つの大きな障壁であった「企業規模要件」も撤廃されます。現行法(2024年10月時点)では、短時間労働者の社会保険加入義務は従業員数(厚生年金の被保険者数)が「51人以上」の企業に限定されていました。50人以下の小規模企業で働くパート労働者は、週30時間未満であれば社会保険の対象外でした。

今回の改正により、企業規模要件は以下のスケジュールで段階的に引き下げられ、最終的には完全に廃止されます。2027年(令和9年)10月には適用対象が従業員数「36人以上」の企業へ拡大されます。2029年(令和11年)10月には従業員数「21人以上」の企業へ拡大されます。2032年(令和14年)10月には従業員数「11人以上」の企業へ拡大されます。そして2035年(令和17年)10月には企業規模要件が完全撤廃され、従業員数1人の事業所でも適用対象となります。

この約10年をかけたロードマップにより、「小さな会社だから社会保険に入らなくていい」という時代は終わりを告げ、事業所の規模にかかわらずすべての労働者が社会的なセーフティネットに守られる時代が到来します。

個人事業所における非適用業種の解消

個人経営の事業所に関する規定も見直されます。これまでは、常時5人以上の従業員を雇用していても、飲食業、理美容業、旅館業、宿泊業、クリーニング業、法務・会計事務所などの「法定17業種」以外の業種(非適用業種)であれば、社会保険への加入は任意とされていました。

改正法では、この例外規定が撤廃されます。2029年(令和11年)10月以降、業種を問わず、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所はすべて社会保険の強制適用事業所となります。ただし、施行時に既に事業を行っている既存の事業所については、当分の間適用を猶予する経過措置が設けられる見通しです。

適用拡大の影響を受ける労働者数

厚生労働省の試算によれば、これらの一連の適用拡大により、新たに約200万人の労働者が厚生年金・健康保険の加入対象になると見込まれています。

労働者にとっての最大のメリットは、将来受け取る年金額の増加です。国民年金のみの場合に比べ、厚生年金に加入することで報酬比例部分が上乗せされ、将来の年金受給額が生涯で数百万円単位で増加する可能性があります。また、障害厚生年金や遺族厚生年金といった保障も手厚くなり、健康保険の傷病手当金(病気休職中の所得補償)や出産手当金も受け取れるようになります。

一方で、短期的には社会保険料の負担が発生するため、手取り収入が減少します。年収106万円の労働者が社会保険に加入した場合、年間で約15万円から16万円程度の保険料(本人負担分)が発生し、手取りは90万円程度に落ち込みます。政府は「手取りの逆転」を防ぐために年収125万円程度まで働くことを推奨するとともに、激変緩和措置としての助成金(キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」等)の活用を呼びかけています。

基礎年金の給付水準底上げに関する改正点

令和7年改正法の第2の柱は、国民全員の老後資金にとって最も重要な意味を持つ「基礎年金(国民年金)の底上げ」です。この改正は制度の専門性が高く分かりにくい面がありますが、将来の年金受給額に大きな影響を与えます。

45年納付期間延長案の見送り

改正の議論過程で注目を集めたのが、国民年金の保険料納付期間を現行の「20歳から60歳までの40年間」から「65歳までの45年間」に延長する案でした。これにより、満額の基礎年金を増額し、老後の所得保障を強化することが期待されていました。

しかし、この案は最終的に見送られました。その主な理由は、自営業者やフリーランスなどの第1号被保険者からの反発です。彼らにとって納付期間が5年延びることは、単純計算で約100万円(月額約1.7万円×60ヶ月)の追加負担を意味します。物価高騰などで経営環境が厳しい中、さらなる負担増は受け入れがたいとの声が強く上がりました。また、基礎年金の半分は国庫負担(税金)で賄われているため、給付が増えれば必要な税財源も増えますが、その財源確保の目処が立たなかったことも要因です。

マクロ経済スライド調整期間の一致による底上げ

45年延長案の代わりとして導入されたのが、「基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライド調整期間の一致」という手法です。

日本の公的年金は、少子高齢化に合わせて給付水準を自動的に下げる「マクロ経済スライド」という仕組みを持っています。これまでの財政検証では、財政基盤が比較的強い「厚生年金(報酬比例部分)」はマクロ経済スライドによる調整が早く終了する一方、財政基盤が弱い「基礎年金」は調整が長く続き、その分だけ給付水準が大きく低下すると予測されていました。具体的には、基礎年金の所得代替率が現在の水準から3割近く低下する恐れがありました。

今回の改正では、厚生年金の財源(積立金や将来の保険料収入の余力)の一部を実質的に基礎年金側へ回すことで、基礎年金のマクロ経済スライドの調整期間を短縮します。具体的には、厚生年金の調整期間を少し延長し、その分基礎年金の調整期間を早めに終わらせることで、両者の終了時期を「一致」させます。

これにより、基礎年金の将来の給付水準が「底上げ」されます。2024年財政検証のオプション試算によれば、この措置を講じることで、将来の基礎年金の月額は措置がない場合に比べて数千円から1万円程度高くなる(実質価値として維持される)と見込まれています。

この改革は、国民年金のみを受給する人や、厚生年金の加入期間が短く基礎年金の比重が高い人(低所得者層)にとって非常に大きな恩恵があります。これは公的年金制度における「所得再分配機能」を強化するものであり、格差の拡大を防ぐための重要なセーフティネット強化策と位置づけられています。

標準報酬月額の上限引き上げによる改正点

社会保険の適用拡大と並び、年金財政の持続可能性を高めるための財源確保策として、厚生年金保険料の計算基礎となる「標準報酬月額」の上限が引き上げられます。これは高所得層への応能負担を求める改正です。

段階的な上限額引き上げの詳細

現在の厚生年金の標準報酬月額の上限は「32等級・65万円」です。これは月給が65万円の人も、100万円の人も、200万円の人も、保険料は一律「月額65万円」をベースに計算され、それ以上は上がらないことを意味しています。健康保険の上限(139万円)と比較しても低い水準にあり、高所得層の負担能力に応じた負担になっていないとの指摘がありました。

改正法では、この上限を段階的に引き上げ、最終的に「35等級・75万円」とします。2027年(令和9年)9月には上限が68万円(33等級)に引き上げられます。2028年(令和10年)9月には上限が71万円(34等級)に引き上げられます。2029年(令和11年)9月には上限が75万円(35等級)に引き上げられます。

影響を受ける対象者と負担額の変化

この改正の影響を受けるのは、月収(標準報酬月額)が63万5,000円を超える会社員や公務員です。厚生労働省の推計では、被保険者全体の約5%から10%程度が該当すると見られています。

現在、標準報酬月額65万円の人の厚生年金保険料は、月額118,950円(労使合計)です。これを労使で折半するため、本人負担は約59,475円です。上限が75万円に引き上げられた場合、標準報酬月額75万円の人の保険料は月額137,250円(労使合計)となります。本人負担は約68,625円となり、月額約9,000円強、年間で約11万円程度の負担増となります。

重要な点は、これは「税金」ではなく「保険料」であるため、負担が増えた分、将来受け取る年金額(老齢厚生年金・報酬比例部分)も確実に増えるということです。日本の厚生年金は数理的に公平に設計されており、高所得者が一方的に払い損になるわけではありません。

企業への影響

この改正は、高所得の従業員を多く抱える企業にとって法定福利費の直接的な増加を意味します。IT企業、コンサルティングファーム、総合商社、金融機関、医療法人など、平均給与が高い業種では、2027年以降、人件費予算が膨らむことになります。企業はこのコスト増を見込んだ中期経営計画の策定や、賃金体系の見直しを迫られる可能性があります。

在職老齢年金制度の見直しによる改正点

「働くと年金が減らされる」という仕組みが高齢者の就労意欲を阻害しているとして長年批判されてきた「在職老齢年金制度」についても、大きな緩和措置が講じられます。

支給停止基準額の引き上げ内容

現行制度(2024年度)では、65歳以上の老齢厚生年金受給者が働き、賃金(ボーナス込みの総報酬月額相当額)と年金(基本月額)の合計が「月額50万円」を超えると、その超えた分の半額が年金から支給停止(カット)されます。

改正法では、この基準額(支給停止調整額)が現行の50万円から62万円に引き上げられます。施行時期は2026年(令和8年)4月1日です。

この改正により、月収と年金を合わせて62万円までは年金が全額支給されることになります。例えば、年金が月15万円、給与が月40万円(合計55万円)の人の場合、これまでは5万円分が調整対象となり年金の一部がカットされていましたが、改正後は全額受給できるようになります。

制度緩和がもたらす効果

この改正により、専門的なスキルを持ち高収入を得られるシニア層が、「年金が減るから」という理由で労働時間を抑えたり給与の低い仕事に甘んじたりする「就業調整」を行う必要性が薄れます。人手不足が深刻化する日本経済において、経験豊富な高齢者の労働力を最大限に活用するためのインセンティブとして機能することが期待されます。

当初、経済界(経団連など)は制度の「完全撤廃」を求めていました。しかし、制度を廃止すると高所得の高齢者に年金が満額支給されることになり、年金財政への影響が大きく現役世代の納得感が得られないとの判断から、基準額の引き上げという現実的な着地点となりました。それでも62万円という水準は大半の働く高齢者をカバーできる設定であり、実質的な撤廃に近い効果を持つとも評価されています。

遺族年金制度の改革による改正点

遺族年金制度は、昭和の時代の「夫が働き、妻は専業主婦」という家族モデルを色濃く反映しており、男女間で給付内容に大きな差がありました。今回の改正では、この不公平を是正し、共働きが標準となった現代に即した制度へと再構築されます。

男女差の解消と給付の有期化

これまでの制度では、夫を亡くした妻は年齢や子の有無にかかわらず手厚く保護される一方、妻を亡くした夫に対する給付は非常に限定的でした(55歳以上などの要件あり)。また、「子のない若年・中年の妻」に対しても、夫の死亡後、生涯にわたり遺族厚生年金が支給される(30歳未満は5年有期)点は、女性の就労が進んだ現代において合理性を欠くとの指摘がありました。

改正法では、性別による受給要件の違いがなくなり、夫を亡くした妻も、妻を亡くした夫も、同じルールで給付を受けられるようになります。これにより、これまで対象外だった若年の夫も遺族年金の対象となります。

また、子(18歳到達年度末まで)のいない20代から50代の配偶者(男女とも)については、配偶者の死亡後、遺族厚生年金の支給期間を原則5年間とします。これまでは子のない妻であれば30歳以上はずっと受け取れましたが、これが5年で終了することになります。なお、60歳以降の高齢期に配偶者を亡くした場合は、男女問わず生涯支給されます。

施行時期と経過措置

この変更は個人のライフプランに大きな影響を与えるため、十分な周知期間と既存の期待権を保護するための経過措置が設けられました。施行時期は2028年(令和10年)4月1日です。

重要な経過措置として、施行日(2028年4月1日)の前日において既に40歳以上である妻については、現行制度の期待権を保護するため改正前のルール(無期給付)が適用されます。具体的には、1988年(昭和63年)4月1日以前に生まれた女性は2028年時点で40歳に達しているため、今回の改正による「5年有期化」の対象外となり、従来通り要件を満たせば生涯にわたり遺族年金を受け取ることができます。

逆に言えば、1988年(昭和63年)4月2日以降に生まれた女性(2028年4月時点で40歳未満)は、将来、子のない状態で夫と死別した場合、遺族年金が5年間で打ち切られる新制度が適用されることになります。この世代の女性にとっては、夫の年金に頼るのではなく、自ら厚生年金に加入して受給額を増やしたりiDeCoなどで私的年金を準備したりする自助努力の重要性が一層高まります。

iDeCoなど私的年金制度の拡充による改正点

公的年金を補完する私的年金制度についても、高齢期の資産形成を支援するための重要な改正が行われます。

iDeCo加入可能年齢の70歳への引き上げ

現在、iDeCo(イデコ)の加入可能年齢は原則「65歳未満」ですが、これが「70歳未満」に引き上げられます。

この改正の背景には、65歳以降も働く人が増えていることや、公的年金の受給開始を70歳や75歳まで繰り下げる人が増えていることがあります。国民年金の被保険者(任意加入を含む)または厚生年金の被保険者であることが条件となりますが、会社員であれば70歳まで働きながらiDeCoで積立を続け、受給額を増やし、かつ掛金の全額所得控除という税制メリットを享受し続けることが可能になります。

企業型確定拠出年金の規制緩和

企業型確定拠出年金(企業型DC)についても、事業主掛金の拠出限度額に関する規制が見直され、より柔軟な設計が可能になります。また、運用の「見える化」を進めるため、企業年金の運用実績などの情報開示が義務付けられることになります。これにより、従業員が自分の年金資産の状況をより把握しやすくなり、金融リテラシーの向上にも寄与すると考えられます。

令和7年年金制度改正法が企業に与える影響

今回の改正は企業経営にも大きな影響を与えます。特に中小企業は早めの準備が求められます。

社会保険料負担の増加

企業にとっては、保険料の「事業主負担分」が直接的なコスト増となります。従業員1人あたり年間約15万円から16万円の負担増は、特に利益率の低い中小企業にとっては死活問題となりかねません。試算では、適用拡大による企業全体の負担増は数千億円規模に達するとも言われています。

しかし、人手不足が深刻化する中、「社会保険完備」は求人における必須条件となりつつあります。パートタイム労働者にも正社員と同等の福利厚生を提供することで、人材の定着率を高め、優秀な人材を確保するチャンスと捉える視点も重要です。今後は、労働時間を抑制して社会保険を避けるのではなく、生産性を向上させて賃金を上げ、社会保険料を払っても十分な手取りを確保できるような経営モデルへの転換が求められます。

業種別の対応の必要性

特に労働集約型の産業(飲食、小売、介護など)では、保険料負担の増加が価格転嫁(値上げ)圧力となる可能性があります。また、賃金要件の撤廃により最低賃金近傍で働く労働者のコストが上昇するため、企業は生産性向上投資(DX、自動化)を加速させるか、あるいは事業の縮小・統廃合を迫られるかもしれません。

該当する個人事業主(飲食店のオーナーや税理士事務所の所長など)は、2029年10月以降の非適用業種解消を見据え、将来的なコスト増を見込んだ経営計画の策定が不可欠です。

今後の課題と次期財政検証に向けて

今回の改正では対応が見送られた課題もあり、今後の議論の行方が注目されます。

第3号被保険者制度の行方

今回の改正では、会社員の扶養に入っている配偶者(第3号被保険者)の制度そのものの廃止には踏み込みませんでした。政治的に極めて敏感なテーマであり、慎重な議論が求められたためです。

しかし、適用拡大が進むことで第3号被保険者の対象者は自然減していくことが確実です。「106万円の壁」が撤廃されれば、週20時間以上働く人はすべて社会保険に入ることになり、第3号として留まれるのは「週20時間未満の労働者」に限られていきます。これは実質的に第3号制度の適用範囲を外堀から埋めていくプロセスであり、将来的な制度廃止に向けた布石とも解釈できます。

国民年金納付期間の45年延長問題

今回見送られた「国民年金納付期間の45年延長」は、消えたわけではありません。基礎年金の水準をさらに盤石にするためには拠出期間の延長が不可欠だとする専門家の意見は根強く残っています。2029年の次期財政検証に向け、このテーマは再び議論の最前線に浮上するでしょう。その際には、第1号被保険者の負担軽減策や新たな財源確保策がセットで検討されることになるはずです。

令和7年年金制度改正法への個人の対応

今回の改正は、私たちの「働き方」と「老後」の設計図を書き換えるものです。個人としてどのように対応すべきかを考えることが重要です。

パートタイムで働く方にとっては、「扶養内で働く」という選択肢が狭まり、「社会保険に入って将来の年金を増やす」という方向に背中を押されることになります。これは一時的な手取り減を伴いますが、長い人生を見据えれば、自立した経済基盤を築く好機でもあります。

現役世代のすべての人にとって、公的年金は老後生活の「柱」ではあっても「すべて」ではないことが今回の改正で改めて明確になりました。iDeCoやNISAを活用した自助努力、長く健康に働き続けるためのスキルアップ、そして共働きによる世帯収入のリスク分散など、能動的なライフプランの構築がこれまで以上に重要になります。

この改正法が施行される2026年から2030年代にかけて、日本の社会は大きく変わります。その変化を恐れるのではなく、制度の仕組みを正しく理解し賢く活用することが、豊かな未来への第一歩となるでしょう。

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