宮崎県の民生委員が危機的状況|充足率89.6%で過去最低に

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宮崎県における民生委員のなり手不足は、充足率89.6%という過去最低の数値に表れており、地域福祉の根幹を揺るがす深刻な問題となっています。県内の民生委員の平均年齢は70歳に達し、全国平均の66歳程度を大きく上回る高齢化が進行しています。この危機的状況に対し、都城市のDX推進や延岡市・日南市の組織改革など、県内各地で先進的な取り組みが始まっており、地域福祉を持続可能なものにするための模索が続いています。

民生委員とは、民生委員法に基づいて厚生労働大臣から委嘱される非常勤の地方公務員であり、同時に児童福祉法に基づく児童委員も兼務しています。地域住民の生活状態の把握から相談対応、福祉サービスへの橋渡しまで、多岐にわたる役割を担っているにもかかわらず、給与は一切支給されないボランティアという特殊な立場にあります。この記事では、宮崎県の民生委員制度が直面している課題の全容と、各地域で展開されている解決策について詳しく解説していきます。

目次

民生委員制度とは何か

民生委員制度は、1917年に岡山県で創設された「済世顧問制度」を起源としています。当時の笠井信一岡山県知事が、貧困状態にある県民を救済するため、地域の名望家を顧問として任命したことが始まりでした。翌年には大阪府で「方面委員制度」が発足し、その後全国へと広がっていきました。1948年に民生委員法が制定され、現在の形へと定着しています。

民生委員の職務は「7つのはたらき」として体系化されています。担当区域内の住民の生活状態を把握する社会調査、住民の相談に応じて助言を行う相談活動、福祉サービスを適切に利用できるよう行政や施設につなぐ情報提供・連絡通報・調整、そして必要に応じて自ら支援を行う生活支援などが含まれます。これらの活動は、住民のあらゆるライフステージに関与することを意味しており、まさに「揺りかごから墓場まで」をカバーする地域福祉の要となっています。

しかし、制度創設から100年以上が経過し、民生委員に求められる役割は劇的に変化しています。かつての貧困救済という経済的課題中心の活動から、現代では社会的孤立、児童虐待、認知症、8050問題といった複雑で不可視化された課題への対応へとシフトしています。8050問題とは、80代の親が50代のひきこもりの子を支える問題を指し、こうした現代特有の課題に対応するには高度な知識と判断力が求められます。この役割の高度化・複雑化が、無報酬のボランティアである民生委員に過重な負担を与えている現状があります。

宮崎県における民生委員の現状

宮崎県の民生委員の充足状況は、全国平均と比較しても極めて深刻な水準にあります。充足率89.6%という数字は過去最低を記録しており、定数に対して約1割の欠員が生じていることを意味しています。この欠員が生じている地域では、住民にとって「担当の民生委員がいない」という状況が発生し、地域福祉のセーフティネットに空白地帯が生まれています。

高齢化の問題も深刻です。宮崎県内の民生委員の平均年齢は70歳に達しており、全国平均の66歳程度を大きく上回っています。民生委員の任期は3年で、3年ごとに一斉改選が行われますが、2025年の改選では現職委員の高齢化による大量退任が予測されていました。多くの自治体では民生委員の定年を75歳程度に設定していますが、後任が見つからないために特例で延長を重ねているケースも多く見られます。

都市部と中山間地域で異なる課題

宮崎県内の課題は、都市部と中山間地域で質的に異なる様相を呈しています。宮崎市などの都市部では、オートロックマンションの増加や共働き世帯の拡大により、住民同士の顔の見える関係が希薄化しています。「隣に誰が住んでいるか分からない」という環境下では、民生委員の候補者を見つけるための情報網が機能せず、自治会による推薦機能が麻痺しています。宮崎市内の新興住宅地では定数割れが常態化し、一人の委員が複数の区域を兼務するなどの無理な運用を強いられるケースも散見されます。

一方、日之影町や西米良村などの中山間地域では「人口そのものの減少」が壁となっています。高齢化率が40%を超えるような集落では、住民のほとんどが支援を必要とする側であり、支援を提供する側となれる適齢者が物理的に存在しません。日之影町などでは、もはや集落単位での民生委員の選出が不可能になりつつあり、制度の維持そのものが限界集落の存続問題と直結しています。

なり手不足を招く構造的な要因

民生委員のなり手不足には、複数の構造的な要因が絡み合っています。かつて民生委員は地域の名士が務める名誉職としての側面が強かったのですが、現在は実務的な負担が極めて重い状況に変容しています。高齢者の見守り訪問、共同募金の集金、行政広報誌の配布、敬老会への招待状の手配など、物理的な作業量が膨大です。さらに災害時には避難行動要支援者の個別計画策定への協力も求められるなど、責任の重さは年々増しています。

宮崎県民児協の調査においても、多くの委員が配布物や行政からの協力依頼事項の多さを負担として挙げています。自分の生活や仕事を犠牲にしてまで、なぜ行政の事務代行を無償で行わなければならないのかという根本的な疑問が、なり手確保の大きな障壁となっています。

個人情報保護法の壁も活動を困難にしている要因の一つです。民生委員法には守秘義務が明記されており、正当な業務として住民情報を扱う権限があるはずですが、実際には自治体や地域住民自身からも情報の提供を拒まれるケースが後を絶ちません。宮崎県内の民生委員へのアンケートでは、54.8%が「プライバシーにどこまで踏み込んでいいのか戸惑う」と回答し、約2割が「支援に必要な情報が提供されない」ことを課題に挙げています。どこに支援が必要な人がいるか分からないのに見守れと言われるという矛盾が、現場の士気を低下させています。

住民意識の変化も問題を複雑にしています。権利意識の高まりとともに、民生委員を便利屋あるいは公務員なのだから奉仕すべき存在とみなす住民が増加しています。理不尽な要求や苦情、昼夜を問わない電話相談など、カスタマーハラスメントに近い扱いを受ける事例も報告されています。訪問先で「放っておいてくれ」「監視に来たのか」と罵倒されることもあり、善意で活動している委員が精神的に疲弊し、任期途中で辞任に追い込まれるケースも少なくありません。

民生委員になると自動的に社会福祉協議会の支部役員、老人クラブの顧問、防災組織の役員など、数多くの役職を兼務させられる「あて職」の問題もあります。本来の民生委員活動以外の会議や行事への参加に時間を奪われ、多忙を極めることになります。この「一つ引き受けると全部押し付けられる」という構造が、現役世代や忙しい住民が委員就任を拒む強力な理由となっています。

都城市のDXによる負担軽減策

宮崎県内でも危機的状況を打破しようとする革新的な取り組みが始まっています。都城市の取り組みは全国の自治体の中でもトップクラスの先進性を誇ります。市は「高齢者見守り活動DX支援事業」として約1億7800万円規模の予算を投じ、民生委員活動のデジタル化を推進しました。

都城市では民生委員にタブレット端末を配布し、専用の「高齢者見守り台帳システム」を導入しています。従来は紙の台帳で管理されていた要支援者の情報が、セキュアな環境下で地図上に可視化されるようになりました。住所、年齢、介護度、緊急連絡先などの情報をタブレットで確認でき、訪問記録もその場で入力できます。紙の報告書を作成して毎月社協や市役所に持参する必要がなくなり、特に就労している民生委員にとって画期的な負担軽減策となっています。

このシステムは救急医療とも連携している点が特筆されます。救急隊が現場に到着した際、タブレットを通じて傷病者の基礎情報を即座に把握し、医療機関との交渉に活用することで、搬送決定までの時間を短縮する仕組みが構築されています。民生委員の日々の活動が住民の命を救う直接的なデータ基盤となっており、委員にとって大きなモチベーションとなっています。

このDX化の効果として、若い世代の参画障壁が下がったことが挙げられます。都城市では37歳の県内最年少民生委員が誕生しました。フルタイムの仕事をしながら、隙間時間にタブレットを活用して効率的に活動を行っています。「デジタルツールがあれば、仕事と両立できる」という実例が生まれたことは、今後のリクルート戦略において極めて重要な意味を持ちます。

延岡市・日向市における組織文化の変革

延岡市や日向市では、アナログな組織運営の見直しによる負担軽減が進められています。延岡市では定例会におけるお茶出しなどの接待係を廃止し、各自が飲み物を持参するスタイルに変更しました。些細なことのように思えますが、こうした昭和的な慣習が特に現役世代や男性にとって参入障壁となっていたため、その効果は大きいものがあります。

委員の選出方法についても改革が行われています。従来のような自治会長からの推薦待ちという受動的な姿勢を改め、地区民児協の会長が主体となって退職予定者や適任者をリストアップし、自治会長と連携して戦略的にアプローチする攻めのリクルートへと転換しています。定例会の開催時間を有職者が参加しやすい時間帯や曜日に変更するなどの柔軟な対応も行われています。

日向市では定例会を行政からの伝達の場とするだけでなく、事例検討や学習の場として機能させています。社会福祉協議会の職員が定例会に参加し、困難事例についてその場で相談に応じる体制をとることで、民生委員が一人で問題を抱え込まない仕組みを作っています。「安心カード」の配布事業などを通じて住民との接点を作る具体的なツールを提供し、訪問活動の心理的ハードルを下げる工夫も行われています。

日南市における多機関連携の推進

日南市では民生委員単独での活動の限界を認め、多様な主体との連携を深めています。市内の高齢者施設や障害者施設と民生委員が連携し、地域貢献活動を進めています。専門職のノウハウを民生委員活動に取り入れることで対応の質を向上させるとともに、施設側にとっても地域とのつながりができるというメリットがあります。

日南市ではにちなんフードバンク事業やこども宅食など、貧困家庭への食料支援事業において民生委員がその配送や情報提供の役割を担っています。見守りという抽象的な目的で訪問するよりも、食料を届けるという具体的な目的がある方が対象者との関係構築が容易であるという現場の知恵に基づいた取り組みです。日南市社協と連携した心配ごと相談所の開設など、相談機能の専門化・外部化も進められています。

民生委員として活動する人々の声

民生委員として活動する人々からは、苦悩と充足感の両面が語られています。多くの現職委員が口を揃えるのは「1期目の最初の3年間が一番辛かった」という事実です。地域のことや制度のことを何も知らない状態で、いきなり地域の相談役という看板を背負わされるプレッシャーは計り知れません。何をしていいか分からない、地域の人に顔を知られていないという不安の中で手探りの活動を強いられ、この時期に十分なサポートが得られないと再任を拒否して辞めてしまうケースが多くなっています。

一方で活動を継続している委員は、住民とのつながりに喜びを見出しています。一人暮らしのお年寄りの家に行くと逆に自分の体を心配してくれる、子どもたちが登下校中に挨拶してくれるといった些細な交流が活動の原動力となっています。人のためだけど自分自身のためにやっているという声もあり、社会参加による自己肯定感の向上や自身の健康維持、生活の張り合いといった利点も制度を持続させる重要な要素となっています。

経験を重ねるにつれて負担感の質が変化するという興味深い傾向もあります。初期の業務が分からないという負担から、徐々に解決できない重い課題に直面する無力感へと変わっていきます。虐待や貧困など深刻な問題に向き合う中で、行政や専門機関がいかに親身になって相談に乗ってくれるかが委員の燃え尽きを防ぐ鍵となります。都城市や日向市で見られた社協職員の定例会同席は、この孤立感を防ぐための有効なセーフティネットとして機能しています。

高齢者の孤独死と見守り機能の課題

警察庁が発表した2024年の推計によれば、全国で年間約6万8000人の一人暮らし高齢者が自宅で亡くなっているとされ、いわゆる孤独死の問題は宮崎県内でも深刻度を増しています。県内の孤独死発生状況を見ると、発見までに長期間を要するケースも散見され、地域による見守り機能の低下が如実に表れています。

従来この見守りの役割を一手に引き受けてきたのが民生委員でした。しかし89.6%という充足率や70歳という平均年齢を考慮すれば、全世帯をくまなく見守ることは物理的に不可能です。日南市などで進められているように、郵便局、新聞配達、宅配業者、ライフライン事業者と協定を結び、ゆるやかな見守りネットワークを構築することが不可欠となっています。民生委員はそのネットワークが集めた情報の集約点あるいはつなぎ役として機能すべきであり、直接の監視役としての負担は軽減されるべきです。

持続可能な制度への再生に向けた方向性

宮崎県における民生委員制度を再生させるためには、まず民生委員を地域福祉における機能的専門ボランティアとして再定義することが重要です。無報酬である建前は維持しつつも、活動費を現状より増額し、通信費やガソリン代、消耗品費を十分にカバーできるようにすることで、持ち出しが生じない環境を整備する必要があります。

社会福祉協議会の会費集めや行政配布物のポスティング業務など、民生委員の本質的業務である相談・支援・つなぎ以外の雑務を削減することも求められます。「これならできる」と思える業務量まで圧縮することで、新たな担い手の参入障壁を下げることができます。

都城市の成功事例を県内全域へ波及させることも重要な課題です。ただし高齢の委員にいきなりデジタル化を強いるのは逆効果であるため、タブレットの操作をサポートするICT支援員を各地区に配置し、デジタルに不慣れな委員を支える体制を作る必要があります。デジタルが得意な委員はタブレットで、苦手な委員は紙で活動し、その入力を事務局が代行するといった柔軟なハイブリッド運用も有効です。

多様な人材の確保も欠かせません。定年後の男性に偏重したリクルート戦略を根本から見直し、大学生のインターンシップ制度の導入や、企業のCSR・SDGsとの連動による従業員の活動支援など、新たなアプローチが求められています。民生委員一人では抱えきれない業務を補佐する協力員やサポーターを制度化し、責任の重い民生委員本体にはなれないが手伝いならできるという層を取り込むことも有効な施策です。

最後に住民の意識改革も欠かせません。民生委員が隣人のボランティアであることを繰り返し周知し、過度な要求を控えるよう啓発するとともに、住民自身が地域の見守り手となる我が事・丸ごとの地域づくりを進める必要があります。

宮崎県の地域福祉が向かうべき未来

宮崎県における民生委員制度の危機は、日本の地方自治システムが抱える構造的な課題の表れです。平均年齢70歳、充足率89.6%という数字は、精神論や個人の奉仕精神だけでは支えきれない現実を突きつけています。

しかし都城市の果敢なDXへの挑戦や、延岡市・日向市・日南市における地道な組織改革は、変化への兆しを感じさせます。必要なのは民生委員を聖人君子として崇めることでも、行政の下請けとして使い潰すことでもありません。彼らを地域福祉というチームのキャプテンあるいはハブとして位置づけ直し、テクノロジーと組織力で徹底的に支えることが求められています。

地域主な取り組み特徴
都城市DX推進・タブレット配布約1億7800万円規模の予算投入、救急医療との連携
延岡市お茶出し廃止・攻めのリクルート昭和的慣習の撤廃、定例会時間の柔軟化
日向市社協職員の定例会同席事例検討・学習の場としての活用
日南市多機関連携・フードバンク事業食料支援を通じた関係構築

2025年の一斉改選は制度崩壊のトリガーとなるか、再生への転換点となるかの分水嶺です。行政、地域社会、そして住民一人ひとりが、この地域の守り人をどう支え、共に歩むかが、宮崎県の地域福祉の未来を決定づけることになります。民生委員制度の持続可能性を高めるためには、従来の発想にとらわれない柔軟な改革と、地域全体での支え合いの精神が不可欠です。困った時はお互い様という互助の精神を現代に蘇らせ、地域福祉の新たな形を築いていくことが求められています。

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