就労移行支援事業所の工賃について多くの方が疑問に思われているのではないでしょうか。障害のある方が一般就労を目指すための重要な制度である就労移行支援ですが、「工賃がもらえるのか」「生活費はどうするのか」といった経済面での不安を抱える方も少なくありません。実際のところ、就労移行支援事業所の多くでは工賃の支給はありませんが、これには明確な理由があります。一方で、例外的に工賃を支給している事業所も存在し、その平均額は月額18,628円程度となっています。しかし重要なのは、工賃の有無ではなく、将来の安定した就労に向けた効果的な支援を受けることです。就労移行支援を利用した方の54.7%が一般就労を実現し、就職後の平均給与は工賃の3〜4倍以上となるケースが多いのが現実です。本記事では、就労移行支援における工賃の仕組みから生活費の確保方法、そして制度を最大限活用するためのポイントまで、詳しく解説していきます。

Q1:就労移行支援事業所では工賃がもらえるの?基本的な仕組みを教えて
結論から申し上げると、就労移行支援事業所では基本的に工賃はもらえません。これは就労移行支援の制度設計に深く関わる重要な特徴です。
就労移行支援は、障害者総合支援法で定められている就労系の障害者福祉サービスの一つで、2013年に施行されました。この制度の最大の特徴は「就職するための学校のような場所」だということです。一般企業などへの就労を目指すために必要な知識や能力を身につける訓練の場として位置づけられています。
工賃が支給されない理由は、就労移行支援が「作業を通じた収入を得るための場」ではなく、「一般就労を目指すための支援を提供する障害福祉サービス」だからです。利用者は事業所と雇用契約を結んでいないため、最低賃金の適用もありません。あくまでも訓練としての位置づけであり、就職活動の支援事業所という性格を持っているのです。
ただし、例外的なケースも存在します。全国の就労移行支援事業所を調査した結果、工賃を支給している事業所は「わずか1割程度」ですが、これらの事業所では以下のような目的で工賃を支払っています:
- 責任感ややりがいを感じてもらうため:実際に生産活動を行い、お金をもらうことで仕事に対する責任感を育む
- 達成感や充実感の経験:収入を得る経験を通じて、仕事に対する達成感や充実感を味わってもらう
- 金銭管理の学習機会:お金を扱うことで、金銭管理のスキルを身につける
企業等から委託された請負作業を行っている場合には工賃が発生することがあり、障害者支援施設では生産活動に従事している者に工賃を支払わなければならないとされています。しかし、その金額は月に数千円程度と非常に低額で、生活費としては現実的ではありません。
重要なのは、就労移行支援の本来の目的が「将来の安定した就労」にあるということです。工賃の有無よりも、一般企業への就職という長期的な目標に焦点を当てた制度設計になっているのが特徴といえるでしょう。
Q2:工賃がもらえる就労移行支援事業所はどのくらいあるの?平均金額は?
工賃を支給している就労移行支援事業所の実態について、具体的なデータをもとに詳しく見ていきましょう。
全国の就労移行支援事業所約3,300ヶ所のうち、工賃を支給している事業所は約1割程度という調査結果があります。東京都内100ヶ所の就労移行支援事業所を対象とした調査では、工賃があると確実に確認できたのは「わずか1割」ほどでした。
2024年の最新データによると、工賃を支給している事業所に限定した場合の平均額は月額18,628円です。ただし、これは工賃を支払っている事業所のみを対象とした平均であり、実際に工賃を受け取れる事業所は非常に限られているのが現状です。
他の就労支援サービスとの比較を見ると、工賃の格差は歴然としています:
就労移行支援の工賃は就労継続支援B型とほぼ同水準ですが、支給している事業所が極めて少ないため、実際に工賃を受け取れる可能性は大幅に低くなります。
工賃支給を実施している具体的事業所の例として、ヒューマングローなどがあります。こうした事業所の特徴は以下の通りです:
- 簡単な軽作業に対する工賃支払い:データ入力や封入作業などの軽作業
- 事業所による提供内容の違い:各事業所で工賃業務の内容が異なる
- 極めて低い金額設定:月収1万円程度を目安とした設定
- 教育的目的の重視:仕事に対する達成感や充実感を得ることが主目的
- 金銭管理の学習機会:お金を得る経験や金銭管理を学ぶ機会の提供
これらの事業所では、工賃の金額よりも「働いてお金を得る」という経験そのものに価値を置いています。月額数千円から1万円程度の工賃は、生活費というよりも「働く体験」や「責任感の醸成」といった教育的な意味合いが強いのが特徴です。
2024年度の制度改定により、工賃向上に向けた取り組みが強化されていますが、就労移行支援における工賃支給は依然として限定的な状況が続いています。利用を検討される際は、工賃の有無よりも、事業所の就職実績や提供されるプログラム内容を重視することが重要でしょう。
Q3:就労移行支援で工賃がもらえない理由は?他の就労支援との違いは?
就労移行支援で工賃がもらえない理由を理解するには、他の就労支援サービスとの根本的な違いを知ることが重要です。
就労移行支援が工賃を支給しない根本的な理由は、制度の目的と性格にあります。就労移行支援は「一般就労を目指すための訓練の場」であり、「収入を得るための場」ではないのです。利用者は事業所と雇用契約を結んでおらず、行われる作業はすべて「訓練」として位置づけられています。
この点で、他の就労支援サービスとは明確に異なります:
就労継続支援A型(雇用型)
- 利用者が事業所と雇用契約を結ぶ
- 原則として都道府県ごとの最低賃金以上の給与が支払われる
- 全国3,554ヶ所の事業所で平均工賃は月額76,887円
- 雇用契約があるため「賃金」として扱われる
就労継続支援B型(非雇用型)
- 事業所と利用者が雇用契約を結ばない
- 作業訓練を通じた生産活動に対して工賃が支払われる
- 全国11,750ヶ所の事業所で平均工賃は月額16,118円
- 雇用契約がないため「工賃」として扱われる
就労移行支援
- 事業所と利用者が雇用契約を結ばない
- 訓練が目的のため原則として工賃の支給なし
- 全国3,399ヶ所の事業所のうち工賃支給は約1割のみ
- あくまで「訓練」であり収入獲得が目的ではない
工賃と賃金の法的な違いも重要なポイントです:
- 工賃:雇用契約に基づかず、作業に対して支払われる報酬。最低賃金の適用なし
- 賃金:雇用契約に基づいて支払われる対価。最低賃金の適用あり
就労移行支援の社会的位置づけを考えると、この制度は「福祉から就労への橋渡し」という役割を担っています。従来の「保護される」福祉から「自立した」就労への転換を支援し、利用者の尊厳と自立を支援することが最大の目的です。
効果の違いも顕著に現れています:
- 就労移行支援の一般就労移行率:54.7%
- 就労継続支援A型の一般就労移行率:就労移行支援の約半分
- 就労継続支援B型の一般就労移行率:就労移行支援の約4分の1
就労移行支援は圧倒的に高い一般就労移行率を誇り、年間13,000人以上が一般就労を果たしています。これは、工賃支給よりも一般就労への集中的な訓練に特化した結果といえるでしょう。
将来的な収入格差を考慮すると、就労移行支援の価値がより明確になります。就労移行支援を経て一般企業に就職した場合、精神障害者の1ヶ月の平均賃金は149,000円、身体障害者は193,000円以上となり、工賃と就職後の給料には3〜4倍以上の開きがあります。
このように、就労移行支援は短期的な工賃よりも長期的な安定収入を重視した制度設計になっており、その結果として高い就職実績を実現しているのです。
Q4:就労移行支援利用中の生活費はどうする?収入がない期間の対処法
就労移行支援を利用している期間中は基本的に収入がないため、生活費の確保が最も現実的な課題となります。しかし、さまざまな公的制度や支援を活用することで、この問題を解決することができます。
アルバイトは原則禁止であることを理解することが重要です。厚生労働省は就労移行支援とアルバイトの併用を原則禁止しており、利用条件にも「就労を希望する方で、単独で就労することが困難な者」とあります。理由は「就労しているなら、一般就労を目指すための支援は必要ない」とみなされるからです。
ただし、例外的に認められるケースもあります:
- 利用中に資金援助をしてくれていた親が失業した場合
- 週20時間以内の短時間労働の場合
- 内定獲得後、初任給が出るまでの生活費確保の場合
生活費確保の具体的な方法は以下の通りです:
1. 失業保険との併用
就労移行支援の最も有効な生活費確保方法です。障害のある人は「就職困難者」という認定がなされ、給付日数が一般より長くなります:
- 給付期間:150~360日(一般より長期間)
- 給付額:基本手当日額の50%~80%
- 元の給与が低いほど80%に近い金額を受給可能
2. 障害年金との併用
障害年金は失業保険や親族の援助があっても受け取ることができ、失業保険との併給も可能です:
- 失業保険と障害年金は併給調整の規定がない
- 減額や支給停止になることはない
- ただし障害者手帳を持っていても必ず給付されるわけではない
3. 傷病手当金の活用
会社を辞めても支給開始日から通算1年6ヶ月間支給されます:
- 就労移行支援を利用しながら受け取り可能
- ただし雇用保険の基本手当(失業保険)との併用は不可
4. 生活保護との併用
家族からの援助が受けられず、生活費に充てる貯金がない場合に利用可能:
- 受給額:月額10万〜13万円程度(地域・生活状況により異なる)
- 障害者の場合は「障害者加算」が適用される場合がある
- 生活保護受給者は就労移行支援の利用料が無料
5. 家族からの援助
これまで就労経験がない人は、親や兄弟、親戚などからの援助を検討:
- 仕送りや生活費の援助を依頼
- 一時的な経済支援として有効
その他の経済的サポートも確認しておきましょう:
交通費の支援
- 原則として自己負担だが、事業所によっては支給がある
- 自治体によっては一定基準を満たした場合の助成もある
利用料金の負担軽減
- 約90%の人が無料で利用
- 前年の世帯収入により月額0円~37,200円の範囲で決定
- 生活保護受給者は無料
昼食の支援
- 事業所によっては昼食を提供してくれる場合がある
注意すべきポイントとして、アルバイトが発覚した場合は以下の措置があります:
- 必ずアルバイトを辞めるよう指導される
- 最悪の場合、退所を命じられる可能性
- 運営費の返還を求められる可能性もゼロではない
これらの制度を適切に活用することで、就労移行支援利用中の生活費問題は解決可能です。事前に市区町村の窓口や事業所に相談し、自分に適した制度を確認することが重要でしょう。
Q5:工賃より重要?就労移行支援を利用するメリットと成功のポイント
工賃の有無に関わらず、就労移行支援には工賃以上の価値がある重要なメリットが数多く存在します。実際の成功事例とともに、制度を最大限活用するポイントをご紹介します。
就労移行支援の圧倒的なメリット
1. 無料でスキル習得が可能
プログラミングやWebデザインなどの専門的なスキルをお金をかけずに学べる点は大きなメリットです。民間スクールでは月額10万円以上、優良スクールでは20万〜60万円することもありますが、就労移行支援なら大半の人が無料で利用できます。
2. 生活リズムの改善
朝の決められた時間から訓練が始まるため、生活リズムが自然と整い、規則正しい生活ができるようになります。これは企業が採用時に最も重視する「体調の安定性」をアピールする重要な要素となります。
3. 就職活動の全面サポート
履歴書や志望動機の添削、面接練習など、就職活動で必要な一通りのサポートが受けられます。個人の特性に合わせた職種を支援員と一緒に考え、得意に合った仕事を見つけることができます。
成功事例に見る具体的な成果
利用期間と就職実績
- 最も多い利用期間:6ヶ月~1年未満(24.5%)
- 90%以上の人が1年未満で内定獲得
- 開所6年間で62名が就職、全員が1年以上継続勤務という優秀な実績の事業所も存在
応募活動の現実的な数値
- 平均応募数:4~5社(最大14社に申し込んだ例もある)
- 一般的な就職活動と比べても現実的な数値
利用者満足度
- 91.0%の利用者が就労移行支援事業所を利用してよかったと回答
- 非常に高い満足度を実現
具体的な成功体験談
事例1:コミュニケーション改善
「就職活動や就職後の環境について、動画や面談を通し理解でき安心できた」「障害特性についてまとめることで、自分のことがわかるようになった」
事例2:生活習慣の劇的改善
「半引きこもりのような生活から、規則正しい生活習慣が身につき、体調も安定して通所できるようになった」
事例3:専門職への就職成功
事務職、Webデザイナー、プログラマー、公務員、特例子会社などでの就職実績が多数報告されています。
工賃と就職後給与の圧倒的な格差
- 就労移行支援の工賃:月額18,628円(支給事業所のみ)
- 就職後の平均給与:精神障害者149,000円、身体障害者193,000円以上
- 3〜4倍以上の収入格差があり、長期的な経済効果は明らか
成功のための重要ポイント
1. 質の高い事業所選び
- 就職実績の確認:平均就職率48.3%に対し、優良事業所では98%の実績
- 運営実績:5年以上の運営歴があり、公式サイトに実績を公表している事業所
- プログラム内容との適合性:自分に合ったプログラムがある事業所を選択
2. 見学・体験の積極活用
- 少なくとも2つ以上の事業所を比較
- 無料見学や体験を必ず利用
- 事業所の雰囲気とスタッフの質を確認
3. 継続的なサポート体制の確認
- 定着支援の有無:就職後6ヶ月間の継続サポート
- 月1回の職場訪問と悩み相談体制
- 職場との調整フォロー
4. 経済的サポートの活用
- 交通費や昼食支給の有無
- 各種公的制度との併用計画
社会的意義と長期的価値
就労移行支援は単なる「工賃をもらう場所」ではなく、以下の社会的価値を創造しています:
- 社会参加の促進:障害者の一般企業就労機会の増加
- 労働力の確保:高齢化社会における重要な労働力活用
- 福祉から就労への転換:自立と尊厳の支援
- 企業の意識改革:多様性と包容性の向上
工賃の有無という短期的な視点ではなく、54.7%という高い就職率と年間13,000人以上の一般就労実現という長期的な成果こそが、就労移行支援の真の価値なのです。工賃以上の価値ある投資として、将来の安定した自立を目指すことが制度活用の鍵といえるでしょう。









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