児童扶養手当は、ひとり親家庭の生活安定と自立を支援するための重要な制度です。しかし、実際に申請を検討する際、多くの方が「所得制限」「世帯収入」「別居中の扱い」といった複雑なルールに直面し、混乱してしまうことも少なくありません。
特に、離婚を考えている方や離婚協議中の方にとって、「別居しただけでは受給できないのか」「親と同居すると手当がもらえなくなるのか」といった疑問は切実です。また、所得制限については、単純に年収だけで判断されるわけではなく、養育費の取り扱いや各種控除、同居家族の収入など、様々な要素が絡み合っています。
この記事では、児童扶養手当の所得制限と受給資格について、令和7年度の最新基準をもとに、実務的な観点から徹底解説します。「世帯収入」という言葉の正確な意味、別居中に受給資格を得るための具体的な条件、そして申請時に注意すべきポイントまで、わかりやすくお伝えします。これから申請を考えている方、すでに受給中の方、どちらにとっても役立つ情報を網羅していますので、ぜひ最後までお読みください。

Q1: 児童扶養手当の所得制限はいくら?令和7年度の限度額と計算方法を詳しく解説
児童扶養手当の受給資格を判断する上で、所得制限は最も重要な要素です。令和7年度の基準では、扶養親族の人数によって異なる限度額が設定されており、「全部支給」と「一部支給」の2段階に分かれています。
令和7年度の所得制限限度額
扶養親族の人数に応じた所得制限限度額は以下の通りです。
扶養親族0人の場合
- 全部支給:690,000円未満
- 一部支給:2,080,000円未満
扶養親族1人の場合
- 全部支給:1,070,000円未満
- 一部支給:2,460,000円未満
扶養親族2人の場合
- 全部支給:1,450,000円未満
- 一部支給:2,840,000円未満
扶養親族が増えるごとに、全部支給は約38万円、一部支給は約38万円ずつ限度額が上がっていきます。
判定に使われる「所得額」とは何か
ここで重要なのは、判定に使われるのは年収(額面給与)そのものではないということです。所得額は以下の計算式で算出されます。
所得額 = (年間収入 − 必要経費) + (養育費の8割) − 一律控除 − 諸控除
給与所得者の場合、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」が基礎となり、そこに養育費の8割を加算し、さまざまな控除を差し引いた金額が最終的な所得額となります。
控除の種類と金額
所得額を計算する際、以下の控除を差し引くことができます。
一律控除
- 社会保険料相当額:80,000円
- 給与所得または年金所得がある場合:さらに100,000円
個別控除
- 障害者控除:270,000円
- 特別障害者控除:400,000円
- 医療費控除:確定申告で認められた全額
- 雑損控除:確定申告で認められた全額
- 小規模企業共済等掛金控除:支払った掛金の全額
特に医療費控除は見落としがちですが、確定申告で認められた控除額が児童扶養手当の所得計算でも全額控除されるため、医療費が多かった年は必ず確定申告を行うことをおすすめします。わずかな税金の還付だけでなく、毎月の手当額が増える可能性があります。
一部支給額の計算方法
所得が全部支給と一部支給の限度額の間にある場合、支給月額は以下の計算式で算出されます。
児童1人目の支給月額 = 46,680円 − {(本人の所得額 − 全部支給の所得制限限度額) × 0.0256619}
この計算式により、所得が増えるほど手当額が段階的に減少する仕組みになっています。計算結果の10円未満は四捨五入されます。
令和7年度の手当額
参考までに、令和7年度の手当額は以下の通りです。
児童1人目
- 全部支給:月額46,690円
- 一部支給:月額46,680円〜11,010円
児童2人目の加算
- 全部支給:月額11,030円
- 一部支給:月額11,020円〜5,520円
児童3人目以降の加算
- 全部支給:1人につき月額6,250円
手当は年6回、奇数月(1月・3月・5月・7月・9月・11月)に、前月までの2ヶ月分がまとめて振り込まれます。
Q2: 児童扶養手当で「世帯収入」は関係ある?扶養義務者の所得制限の仕組みとは
児童扶養手当を調べる際、「世帯収入が関係する」という情報を目にすることがありますが、これは正確な表現ではありません。制度が実際に審査するのは、「扶養義務者」個人の所得です。この違いを理解することが、受給資格を正しく判断する上で極めて重要です。
「扶養義務者」とは誰を指すのか
扶養義務者とは、申請者(受給資格者)と生計を同じくする以下の親族を指します。
- 直系血族:父母、祖父母、子など
- 兄弟姉妹
ここで注意すべきは「生計を同じくする」の解釈です。この判断は非常に厳格で、住民票上で世帯分離をしていても、同じ家屋に居住している、あるいは同一敷地内の別棟に住んでいる場合は、実態として生計が同一とみなされ、扶養義務者として所得審査の対象となります。
扶養義務者の所得制限限度額
扶養義務者には、申請者本人とは別の、より厳格な所得制限限度額が適用されます。
扶養親族0人の場合:2,360,000円未満
扶養親族1人の場合:2,740,000円未満
扶養親族2人の場合:3,120,000円未満
この限度額は、申請者本人の一部支給限度額(扶養親族0人で2,080,000円未満)よりも若干高めに設定されていますが、全部支給の限度額(690,000円未満)と比較すると大幅に高い水準です。
「一人でも超過すれば全額支給停止」の厳格ルール
扶養義務者の所得審査において最も重要なのは、一部支給という概念が存在しないことです。扶養義務者の所得が限度額未満か、以上かの二者択一で判断されます。
そして、同居する扶養義務者のうち一人でも所得が限度額を超過した場合、申請者本人の所得がいかに低くても、その年度(11月分から翌年10月分まで)の児童扶養手当は全額支給停止となります。
扶養義務者の所得は個別に審査される
重要なポイントとして、同居する扶養義務者が複数いる場合、彼らの所得は合算されず、一人ひとり個別に審査されます。
例えば、実家に戻って父親と母親と同居している場合、父親の所得と母親の所得は別々に審査され、どちらか一方でも限度額を超えていれば、手当は全額支給停止となります。
なぜこのような厳格な制度になっているのか
この扶養義務者に関する規定は、「家族扶養優先の原則」を法的に体現したものです。つまり、生活困窮者に対する国家の支援は、第一次的な扶養義務を負う家族による支援が期待できない場合に初めて行われるべき、という考え方に基づいています。
しかし、この原則には意図せざる結果もあります。子育ての支援や精神的な支えを求めて実家に戻ることを選択したひとり親が、年金収入のある両親と同居することで両親の所得が限度額を超過し、結果として手当の受給資格を失うというケースです。
世帯分離は有効か
「それなら住民票を分ければいいのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、前述の通り、審査では実態として生計が同一かどうかが重視されます。同じ住所に住んでいながら世帯分離をしても、実質的に生計を共にしていると判断されれば、扶養義務者として所得審査の対象となります。
受給資格を維持するためには、完全に別の住所に住むことが確実な方法ですが、経済的・生活的な理由でそれが難しい場合も多いでしょう。このような状況にある方は、まず市区町村の担当窓口に相談し、個別の状況について判断を仰ぐことをおすすめします。
Q3: 別居中でも児童扶養手当は受給できる?離婚前に受給資格を得る方法
「離婚を前提に別居しているが、まだ離婚が成立していない」という状況で、児童扶養手当を受給できるのかという疑問は、多くの方が抱える切実な問題です。結論から言うと、単なる別居だけでは児童扶養手当の受給資格は発生しません。しかし、特定の条件を満たせば、離婚成立前でも受給できる可能性があります。
なぜ別居だけでは受給できないのか
児童扶養手当の最も基本的な受給要件は、「父母が婚姻を解消した児童」を養育していることです。つまり、離婚届が受理され、法的に婚姻関係が解消されることが原則となります。
法的に婚姻関係が継続している限り、配偶者には婚姻費用(生活費)の分担義務があるとされ、その世帯は「ひとり親世帯」とはみなされません。したがって、離婚調停中であっても、別居しているという事実だけでは支給要件を満たさないのです。
児童手当との違い
混乱を招きやすいのが、児童手当との違いです。児童手当は、離婚協議中であることを客観的に証明する書類(調停期日呼出状の写し、弁護士が送付した協議離婚申入書など)を提出すれば、「同居優先」の原則に基づき、実際に児童と暮らしている親に受給者を変更することができます。
一方、児童扶養手当にはこのような同居優先ルールは存在しません。これは両制度の目的の違いによるものです。児童手当は児童を養育する事実を重視するのに対し、児童扶養手当は配偶者からの扶養義務が法的に、あるいは事実上、履行不能な状態にあることを証明する必要があるのです。
離婚成立前に受給資格を得る3つの方法
ただし、法律は以下の状況において、例外的に離婚前でも受給資格を認めています。
1. 遺棄(いき)による受給資格
配偶者から1年以上にわたって遺棄されている状態にある場合、受給資格が発生する可能性があります。「遺棄」とは、配偶者から連絡がなく、生活費も送金されないなど、扶養義務を放棄されている状態を指します。
この事実を証明するためには、詳細な申立書の提出が必要であり、自治体による調査が行われることもあります。長期化する離婚調停中の別居状態が、この「遺棄」の定義に該当する可能性もありますが、判断は自治体によって異なるため、必ず窓口で相談してください。
2. DV保護命令による受給資格
配偶者からの暴力を理由として、裁判所が発行した「保護命令」を受けている場合、その時点で直ちに受給資格が発生します。
保護命令そのものが、婚姻関係が破綻し、配偶者からの経済的支援を期待することが危険かつ不可能な状態にあることの法的証明となります。これは、離婚成立を待たずに受給を開始するための最も確実な方法です。
DVの被害を受けている方は、まず配偶者暴力相談支援センターや警察に相談し、保護命令の申立てを検討してください。保護命令が発令されれば、児童扶養手当の受給資格だけでなく、住民票の閲覧制限などの保護措置も受けられます。
3. 事実婚の解消
法律婚ではなく事実婚(内縁)関係にあったパートナーと別れた場合も、受給資格が発生します。ただし、この場合は「事実婚解消申立書」の提出が必要となり、多くの場合、民生委員などの第三者による証明が求められます。
「福祉の空白期間」という問題
このように、離婚調停が長期化した場合、実質的にはひとり親でありながら、法的にはひとり親としての支援を受けられない「福祉の空白期間」が生じてしまいます。
この期間の経済的困窮を避けるためには、以下の対応が考えられます。
- 離婚調停において、別居期間中の婚姻費用の支払いを確実に取り決める
- 自治体の生活困窮者自立支援制度や、社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度などの利用を検討する
- DVが理由であれば、速やかに保護命令を申し立てる
まずは市区町村の担当窓口や、弁護士、法テラスなどに相談し、自分の状況で利用できる支援制度を確認することが重要です。
Q4: 養育費をもらうと児童扶養手当が減る?8割加算ルールの詳細解説
児童扶養手当の所得計算において、多くの方が驚くのが「養育費の8割加算ルール」です。このルールは手当の支給額に極めて大きな影響を与え、場合によっては全部支給から一部支給へ、あるいは一部支給から支給停止へと区分を変動させる主要因となります。
養育費の8割が「所得」として加算される
児童扶養手当の所得計算では、前年(1月〜10月申請の場合は前々年)に受け取った養育費の8割相当額が、所得として加算されます。
具体的には、以下の計算式で算出された金額が所得に含まれます。
加算される所得 = 年間に受け取った養育費の総額 × 0.8
例えば、月5万円の養育費を1年間受け取った場合、年間60万円となり、その8割の48万円が所得として加算されます。
「養育費」の定義
ここで言う「養育費」とは、児童の父または母から、児童の養育に必要な費用として、受給資格者である母(父)または児童が受け取った金品等すべてを指します。
現金だけでなく、以下のようなものも養育費に含まれます。
- 定期的な現金送金
- 児童の学費や習い事の費用の直接支払い
- 児童の衣服や学用品などの現物提供(金額換算)
- 児童の医療費や保険料の支払い
逆に、離婚時の財産分与や慰謝料は、養育費には含まれません。これらは一時的な清算であり、児童の養育費用ではないためです。
なぜ8割なのか
「なぜ全額ではなく8割なのか」という疑問を持つ方も多いでしょう。これは、養育費の受け取りには一定のコスト(振込手数料、税務処理の手間など)が伴うことを考慮し、また養育費の受け取りを抑制しないための政策的配慮によるものと考えられます。
ただし、この8割という数字に明確な根拠があるわけではなく、制度設計上の判断によるものです。
手当額への具体的な影響
養育費の8割加算が手当額にどう影響するか、具体例で見てみましょう。
例:扶養親族1人(子ども1人)、給与所得控除後の金額が80万円のケース
養育費なしの場合
- 所得額:80万円 − 18万円(一律控除)= 62万円
- 全部支給の限度額(107万円未満)を下回るため、全部支給:月額46,690円
養育費月5万円(年60万円)を受け取る場合
- 所得額:80万円 + 48万円(養育費の8割)− 18万円 = 110万円
- 全部支給の限度額を超えるため、一部支給となり、計算式により月額約45,000円程度に減額
このように、月5万円の養育費を受け取ることで、手当額が月約1,700円減ることになります。年間では約2万円の減額です。
養育費と手当、どちらを優先すべきか
「養育費をもらうと手当が減るなら、養育費を請求しない方が得なのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、これは誤った判断です。
確かに手当は減額されますが、養育費の方が金額が大きいため、トータルの収入は確実に増えます。上記の例では、月5万円の養育費を受け取り、手当が約1,700円減ったとしても、差し引き月約48,300円の収入増となります。
さらに重要なのは、児童扶養手当は18歳年度末までの期間限定の給付ですが、養育費は親の義務として、場合によっては大学卒業まで継続的に受け取れる可能性があることです。
長期的な視点で見れば、適正な養育費を確保することの方が、はるかに子どもの利益になります。
養育費に関する申告義務
養育費を受け取っている場合、必ず「養育費等に関する申告書」を提出する必要があります。これを怠ると、後日発覚した際に、過去にさかのぼって手当の返還を求められる可能性があります。
また、毎年8月に提出する「現況届」においても、養育費の受取状況を正確に申告しなければなりません。虚偽の申告は不正受給となり、厳しいペナルティが科されます。
養育費の取り決めや請求については、弁護士や法テラス、自治体の養育費相談窓口などで相談できます。適正な養育費を確保することは、子どもの権利であり、親の責任です。手当の減額を恐れず、しっかりと養育費を請求することをおすすめします。
Q5: 親と同居すると児童扶養手当が停止される?扶養義務者による支給停止の条件
ひとり親になった際、「実家に戻って親の支援を受けながら子育てをしよう」と考える方は少なくありません。しかし、親と同居することで、児童扶養手当の受給資格を失う可能性があることは、あまり知られていません。
親の所得が限度額を超えると手当は全額停止
Q2でも説明しましたが、親(父母)は「扶養義務者」に該当します。同居する親の所得が限度額を超えている場合、申請者本人の所得がゼロであっても、手当は全額支給停止となります。
特に注意が必要なのは、年金収入がある親との同居です。
年金収入のある親との同居に要注意
公的年金(老齢年金、遺族年金、障害年金など)も所得として扱われます。年金収入から公的年金等控除を差し引いた金額が、扶養義務者の所得として審査されます。
例えば、年間200万円の年金を受給している親(扶養親族なし)の場合、公的年金等控除後の所得額が236万円の限度額を超える可能性が高く、その場合は手当が全額停止となります。
両親と同居している場合の審査方法
父親と母親の両方と同居している場合、それぞれの所得が個別に審査されます。どちらか一方でも限度額を超えていれば、手当は支給停止となります。
例:
- 父親の所得:250万円(限度額超過)
- 母親の所得:50万円(限度額未満)
- 結果:父親の所得が限度額を超えているため、手当は全額支給停止
兄弟姉妹との同居も審査対象
扶養義務者には兄弟姉妹も含まれます。親ではなく兄弟姉妹と同居する場合も、その兄弟姉妹の所得が審査対象となります。
例えば、実家に戻り、親は既に他界しているが兄と同居している場合、兄の所得が限度額を超えていれば、手当は支給停止となります。
世帯分離をしても意味がない理由
「それなら住民票を分ければいいのでは?」と考える方もいますが、前述の通り、審査では実態として生計が同一かどうかが重視されます。
同じ家屋に住んでいながら住民票だけを分離しても、実質的に生計を共にしていると判断されれば、扶養義務者として所得審査の対象となります。実際、多くの自治体では、同一住所での世帯分離は認められないか、認められても実態調査が行われます。
完全に別居すれば審査対象外
扶養義務者の所得審査を回避する確実な方法は、完全に別の住所に住むことです。別の市区町村である必要はなく、同じ市内でも、明確に別の世帯として独立して生活していれば、親や兄弟姉妹の所得は審査対象外となります。
ただし、以下のような場合は「生計同一」とみなされる可能性があります。
- 同一敷地内の別棟に住んでいる
- 親が家賃や生活費を全額負担している
- 食事や家事を共にしている
ひとり親を取り巻くジレンマ
この制度は、ひとり親に厳しいジレンマを生み出しています。
経済的に困窮しているからこそ実家の支援が必要なのに、実家に戻ることで手当が停止されるというジレンマです。特に、子どもが幼く、フルタイムで働くことが難しい時期には、親の育児支援が不可欠な場合も多いでしょう。
一方で制度側の論理としては、「親に経済的余裕があるのなら、まず親が支援すべきであり、国家の公的支援は不要」という「家族扶養優先の原則」に基づいています。
実家に戻る前に検討すべきこと
実家に戻ることを検討している場合、以下の点を事前に確認してください。
- 親の所得状況の確認:親の年金額や給与所得を確認し、限度額を超えるかどうかを試算する
- 手当停止による経済的影響の計算:手当が停止された場合、親からの支援でそれを補えるかを検討する
- 他の支援制度の活用:親と同居せずに生活するための、自治体の住居支援制度や保育支援などを調べる
- 将来的な自立計画:実家での同居を一時的なものとし、できるだけ早期に独立する計画を立てる
実家に戻ることを否定するものではありませんが、手当の受給状況に大きな影響があることを理解した上で、総合的に判断することが重要です。
まずは市区町村の児童福祉担当窓口に相談し、自分の状況で手当が受給できるかどうか、正確な判断を仰ぐことをおすすめします。









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