生活保護費の追給は、2013年8月から2018年9月に生活保護を受けていた世帯を中心に支払われる差額補償です。現在受給していない世帯は2026年8月1日から申出の受け付けが始まり、受給中の世帯は自治体が順次手続きを進めます。対象になるかどうかは受給していた期間と当時の状況によって条件が分かれるため、自分の世帯がどちらの区分にあたるかを見極めることが最初の一歩になります。

生活保護費の追給は対象世帯によって申出の要否が分かれる
生活保護基準額の引き下げを違法とした2025年6月27日の最高裁判決を受け、厚生労働省は差額の追加給付を進めています。共同通信の報道によると、現在生活保護を受給していない世帯を対象とした受け付けが2026年8月1日から始まります。
対象世帯は大きく二つに分かれます。ひとつは現在も受給を続けている世帯で、こちらは居住する自治体が保護費の支給に合わせて手続きを行うため、本人からの申出は原則不要です。もうひとつは過去に受給していたが現在は受給を終えている世帯で、こちらは当時の世帯主が受給していた自治体に自ら申し出る必要があります。この違いを知らないまま放置すると、本来受け取れるはずの給付を逃してしまう可能性があります。
最高裁判決でデフレ調整の違法性が確定し追給の起点になった
今回の追給の出発点は、通称「いのちのとりで裁判」と呼ばれる一連の訴訟です。2012年の衆院選で当時の自民党が生活保護費の削減を公約に掲げたことを背景に、厚労省は2013年から2015年にかけて3回に分けて生活扶助基準額を引き下げました。引き下げ幅は平均6.5パーセント、最大10パーセントにのぼり、過去に例のない規模の削減でした。
この引き下げに対し、生存権が侵害されたとして、全国の生活保護利用者1000人を超える原告が引き下げ処分の取り消しを求め、全国29地域31件の訴訟を起こしました。最高裁判決までに全国の地裁・高裁で43件の下級審判決が出され、原告側の27勝16敗という結果でした。判断が割れたまま、最終判断は最高裁に委ねられました。
2025年6月27日、最高裁判所第三小法廷(宇賀克也裁判長)は、引き下げの手法のひとつである「デフレ調整」の過程と手続きに過誤や欠落があったとして、生活保護法第3条および第8条2項に違反する違法なものと判断し、減額処分を取り消しました。生活保護基準の改定が最高裁で違法とされたのは、これが初めてです。
当時の引き下げは「ゆがみ調整」と「デフレ調整」という二つの要素で構成されていました。ゆがみ調整は生活扶助基準額と低所得世帯の消費実態との乖離を是正する目的の措置で、こちらは違法とされていません。デフレ調整は2008年から2011年にかけての物価下落を理由に、改定前の基準生活費を一律4.78パーセント引き下げる措置で、最高裁が違法と認定したのは主にこの部分です。
対象世帯の条件は2013年8月から2018年9月の受給歴が中心になる
追給の対象となる条件は、受給していた時期によって二段階に分かれます。第一の区分は、2013年8月から2018年9月までの間に生活保護を受給していた世帯です。この期間はデフレ調整を含む基準額引き下げが実施されていた期間、およびその影響が及んでいた期間にあたります。この区分に該当する世帯は、現在受給しているかどうかにかかわらず、原則として追給の対象になります。
つまり、今は生活保護と関わりがなくても、2013年8月から2018年9月のあいだに受給していた実績さえあれば、対象に含まれる可能性が高いということです。過去の受給歴を思い出せない場合は、当時の自治体に照会することで確認できます。
2018年10月以降の受給世帯は入院や障害者加算などの条件で対象に加わる
第二の区分は、2018年10月から2026年3月までの間に生活保護を受給していた世帯のうち、一定の条件を満たす世帯です。この期間は基準額そのものの違法性が直接及ぶわけではありませんが、過去の引き下げの影響が加算額や各種扶助の算定基礎に反映され続けていたため、条件に該当する世帯は対象に含まれます。
具体的には、一定期間、入院または介護施設に入所していた世帯で入院患者日用品費や介護施設入所者基本生活費、介護施設入所者加算が算定されていたケース、障害のある世帯員がいて障害者加算が算定されていた世帯、そして毎年12月に支給される期末一時扶助費が算定されていた世帯が対象とされています。
これらの加算や扶助は生活扶助基準額をもとに金額が算出される仕組みのため、基準額の引き下げが違法とされたことで波及的な影響が生じていたと整理されています。過去に生活保護を受給したことがない世帯であっても、家族の受給歴を通じてこれらの条件に該当していれば対象になり得るため、注意が必要です。
なお、追給の具体的な金額は一律ではなく、当時の年齢や世帯人数、居住していた地域、受給していた期間の長さ、加算の有無などの要素によって個別に異なります。自分の世帯がいくら受け取れるかは、ケースごとに自治体へ確認するしかありません。
現在受給中の世帯は申出不要で自治体が2026年3月から支給を進めている
現在も生活保護を受給中の世帯については、居住する自治体が保護費の支給と合わせて追給の手続きを行う仕組みが基本です。本人からの申出は原則として不要で、自治体からの案内を待つ形になります。
この手続きは2026年3月から自治体ごとに順次始まっており、厚労省によると2026年5月末までに約6万5千世帯への支払いが完了しました。追給の対象となる世帯は全体で約280万世帯にのぼるとされ、これから支給が進む世帯もまだ多く残っています。
現在受給していない世帯は2026年8月1日から自ら申し出る必要がある
過去に受給していたが現在は受給を終えている世帯については、事情が異なります。この場合は当時の世帯主が生活保護を受けていた自治体の窓口、つまり福祉事務所などに本人から申し出る必要があります。この申出の受け付けが2026年8月1日から始まり、受け付け期間は2027年7月末までです。
自治体からの案内を座って待つだけでは給付にたどり着けない世帯があるという点が、この区分の最大の注意点です。対象になり得ると思われる場合は、受け付け開始後、できるだけ早めに申出を行うことがスムーズな受給につながります。
申出先は当時受給していた自治体で受け付けは2027年7月末までとなる
申出先で迷いやすいのが、引っ越しなどで当時と現在の居住自治体が異なるケースです。この場合でも、申出先はあくまで当時、生活保護を受給していた自治体になります。現在住んでいる自治体に問い合わせても、案内される先は結局同じところになるはずです。
長期間が経過していて当時の住所地や受給していた時期の記憶があいまいな場合は、早めに当時の自治体、または厚労省が設置している専用の相談窓口に問い合わせることが望ましいといえます。受け付け期間は2027年7月末までと定められていますが、当時の受給記録の確認には時間がかかることもあるため、期限ぎりぎりに動くよりも早期の行動が安全です。
給付額は世帯構成と地域で変わり単身高齢世帯で7万円台からが目安になる
追給の金額がどの程度になるのか、厚労省が示した例からイメージをつかむことができます。2013年8月から2026年3月まで継続して生活保護を受給していた75歳の単身高齢世帯の場合、生活扶助費にかかる追給額は都市部にあたる1級地で約9万5千円、地方の3級地-2で約7万6千円とされています。
夫婦と子ども2人の4人世帯で受給期間が同様のケースでは、1級地で約23万6千円、3級地-2で約18万4千円という例が示されました。単身世帯全体でみた平均的な追給額は、およそ10万5千円程度になるとの例も示されています。
これらの数字はあくまで一例です。実際の給付額は受給していた期間の長さ、世帯の人数や構成、居住していた地域の級地区分、障害者加算や介護関連の加算の有無によって大きく変わります。自分の世帯がどの程度になるかは、最終的に当時受給していた自治体への確認が欠かせません。
ここでいう級地区分とは、地域ごとの物価水準や生活コストの差を踏まえて生活扶助基準額に段階を設ける仕組みです。都市部ほど級地の数字が上がり、生活扶助基準額そのものが高く設定される一方、地方の3級地では基準額が抑えられています。基準額が違えばそこから算出される加算額も変わるため、同じ受給期間・同じ世帯構成であっても、住んでいた地域によって追給額に差が出るのは、この級地区分の仕組みが背景にあります。単身世帯より多人数世帯のほうが総額として大きくなりやすいのも、世帯人数分の生活扶助費が積み上がるためです。
デフレ調整の見直しは4.78パーセントから2.49パーセントへの変更が土台になる
追給の金額の基礎になっているのが、デフレ調整の見直しです。最高裁は、4.78パーセントという減額率を導き出す過程で用いられた物価指数の選び方や算定手法について、厚生労働大臣の判断の過程と手続きに過誤や欠落があったと指摘し、生活保護法第3条と第8条2項に違反すると判断しました。
この判決を受け、厚労省は一律4.78パーセントだった減額率を廃止し、当時の低所得世帯の消費実態に基づいて再算定した結果、新たな水準として2.49パーセントの減額率を設定しました。追給は、旧水準の4.78パーセント減と新水準の2.49パーセント減の差である約2.29ポイント分の差額を、対象期間にさかのぼって支払う仕組みです。
生活保護そのものを打ち切る、あるいは引き下げを完全に撤回するというものではなく、引き下げ幅そのものを圧縮したうえで、その圧縮分を遡って支払うという制度設計になっています。引き下げ自体は形として残るという点が、後述する法律家からの批判の一因になっています。
新たな減額率は、最高裁判決の直後にすぐ決まったわけではありません。厚労省は判決を受け、2025年8月13日に社会保障審議会生活保護基準部会のもとに「最高裁判決への対応に関する専門委員会」を設置しました。委員会は岩村正彦・東京大学名誉教授らを中心に社会保障法や社会福祉分野の専門家で構成され、自治体の生活保護ケースワーカーへのヒアリングも実施しながら検討を重ねています。議論は同年内に方向性がまとまり、11月17日には報告書案が示されて大筋で了承されました。
相談窓口はフリーダイヤル0120-179-445で平日9時から17時に対応する
厚労省は、今回の追給に関する一般的な問い合わせに対応するため、専用の相談窓口「最高裁判決を踏まえた保護費の追加給付相談センター」を設けています。電話番号はフリーダイヤル0120-179-445で、受付時間は平日9時から17時までです。
このセンターが担うのは対象世帯の一般的な要件や申出手続きの案内であり、個々の世帯が対象に該当するかどうかの具体的な判定や実際の給付額の算定、必要書類の確認といった個別の事項は、当時生活保護を受給していた自治体の福祉事務所が窓口になります。自分自身のケースについて詳しく知りたい場合は、当時の受給地の自治体に直接問い合わせる必要があります。
自治体側も、公式サイトで「最高裁判決を踏まえた生活保護費の追加給付について」といった案内ページを設け、対象者への周知を図っています。居住地や当時の受給地の自治体サイトを確認することも、正確な情報にたどり着くための有効な手段です。
厚労省の対応には日弁連など法律家から不平等との批判が続いている
追給そのものは進んでいる一方で、その内容や設計をめぐっては法律家や研究者から批判の声が上がっています。日本弁護士連合会は、最高裁判決を受けた厚労省の対応策について、告示の撤回とすべての生活保護利用者に対する平等かつ全面的な補償の実施を求める会長声明を発表しました。東京弁護士会や神奈川県弁護士会、札幌弁護士会、京都弁護士会など、各地の弁護士会からも同様の趣旨の声明が相次いでいます。
弁護士有志ら約1300人による共同声明では、次の点が指摘されています。原告らが持つ具体的な給付請求権を侵害するものであること、行政府が司法の判断をないがしろにするものであること、紛争を一回的に解決すべきという要請に反すること、そして訴訟を提起した原告にだけ「特別給付金」を支給することで原告と非原告のあいだに不平等が生じていること、の四点です。
2025年12月8日には123名の法学研究者が緊急声明を発表し、2026年1月には弁護士有志による共同声明が公表されました。批判の背景には、厚労省が示した算定方法が当初想定されていたよりも給付額を抑える内容になっているのではないか、という懸念があるとされています。この議論は事務的な手続きにとどまらず、司法判断を行政がどこまで誠実に履行するか、生活保護利用者の権利保障をどう実現するかという論点を含んでいます。批判を続ける法律家や研究者は、実際に支給された金額や自治体ごとの対応状況を踏まえて、今後さらなる見直しを求めています。
自治体ごとの支給スケジュールには差があり早めの確認が望ましい
追給は全国一律のタイミングで完了するわけではなく、自治体ごとに支給決定や振込のスケジュールが異なります。堺市では給付決定を2026年5月頃から始め、2027年3月末までに完了させる予定としています。愛知県内の町村に居住し現在受給中の世帯については、2026年8月中旬頃までに追給を実施する予定とされています。
現在受給中の世帯への支給は、自治体ごとに準備が整い次第、2026年内から2027年3月にかけて順次進む見通しです。一方、現在受給していない世帯については2026年8月1日から申出の受け付けが始まり、受け付け自体は2027年7月末まで行われます。申出をしてから実際に振り込まれるまでには、受給記録の確認や給付額の算定といった事務手続きが必要になるため、一定の期間がかかると見込まれます。
生活保護制度の現状から見る今回の追給の位置づけ
2025年11月時点で、生活保護を受給している人は全国で約198万人、人口100人あたり1.61人という水準です。被保護実人員数と世帯数は前年同月比で緩やかな減少傾向にある一方、受給世帯の構成をみると2件に1件、約51.4パーセントが単身高齢世帯であり、年金収入だけでは生活を維持できない高齢の単身者にとってのセーフティネットとしての役割が大きくなっています。障害や傷病を抱える世帯も全体の約25.5パーセントを占めており、こうした世帯にとって生活扶助基準額やそれに付随する加算の水準は日々の生活に直結する問題です。
今回の最高裁判決とそれに基づく追給は、こうした単身高齢世帯や障害・傷病世帯を含む生活保護利用者の生活水準に影響してきた基準額の適正性が、司法の場で問われた結果です。生活保護制度をめぐっては、本来対象となり得る人のうち実際に制度を利用している人の割合を示す「捕捉率」が、日本では2割程度にとどまるとの推計もあります。過去に受給していたが現在は受給を終えている世帯にも追給の対象が及ぶことは、こうした制度全体への信頼回復という観点からも意味を持つと考えられます。
対象になり得る世帯が確認すべきポイント
今回の内容を踏まえると、対象になり得る世帯が確認すべき点は次のように整理できます。まず、2013年8月から2018年9月の間に自分自身または家族が生活保護を受給していた事実があるかどうかです。この期間に受給歴があれば、現在受給しているかにかかわらず対象となる可能性が高くなります。
次に、2018年10月から2026年3月の間に受給歴があり、その間に入院や介護施設への入所、障害者加算の算定、期末一時扶助費の算定といった事情があったかどうかです。該当する事情があれば、この期間の受給であっても対象に含まれる可能性があります。
そして、現在受給していない世帯は2026年8月1日以降、当時受給していた自治体の窓口に自ら申し出る必要があるという点です。自治体からの案内を待つだけでなく、対象となり得ると思われる場合は、2027年7月末という期限を意識しながら早めに問い合わせることが望ましいといえます。給付額は当時の年齢や世帯人数、居住地域、受給期間、加算の有無によって個別に決まるため、正確な金額を知るには当時の自治体への照会が必要です。
過去に生活保護を受給した経験がある世帯、あるいは家族に該当者がいる世帯は、今回の受け付け開始を機に、2013年8月から2018年9月の受給歴、あるいは2018年10月から2026年3月における入院・介護・障害者加算・期末一時扶助費の該当有無を振り返り、自身が対象に含まれるかどうかを確認しておくのがよいでしょう。制度の詳細や自身の対象該当性を正確に把握するためには、厚労省の相談センターや当時受給していた自治体の福祉事務所への確認が欠かせません。








