姉から生活保護の扶養照会を断ってと連絡がきた時の家族の対応法

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疎遠だった姉から突然「生活保護を申請するから扶養照会を断ってほしい」と連絡がきた場合、家計に援助の余力がなければ、断る選択肢を取って問題ありません。夫の年収が1000万円ある家庭であっても、兄弟姉妹の間に生じる扶養義務は「自分の生活に余力がある範囲で援助する」水準にとどまるためです。

生活保護法第4条第2項が定める「扶養優先の原則」により、福祉事務所は申請者の親族に扶養が可能かどうかを問い合わせます。この手続きは援助を強制するものではなく、意思確認の位置づけです。援助が難しいと回答したこと自体が、姉の申請結果を直接左右することはありません。

この記事では、扶養照会の法的な位置づけ、2021年に厚生労働省が示した運用の見直し、扶養届書への具体的な回答方法、そして年収1000万円の家計に隠れがちな支出構造まで整理します。姉や兄弟から同じ連絡を受けて戸惑っている家族が、感情に流されず、家計の実情に即した判断を下すための材料として役立ててください。

目次

扶養照会は生活保護法第4条の「補足性の原則」から生じる手続き

扶養照会とは、生活保護の申請を受けた福祉事務所が、申請者の親族に対して経済的な援助が可能かを書面で確認する手続きです。根拠は生活保護法第4条にある「保護の補足性」で、資産や能力、そして親族からの援助を先に活用したうえで保護を行うと定められています。同条第2項は「民法に定める扶養義務者の扶養は、すべてこの法律による保護に優先して行われる」と規定しています。

扶養照会の対象は実務上おおむね三親等以内の親族で、父母や子といった一親等、祖父母・孫・兄弟姉妹が含まれる二親等、おじ・おばや甥・姪などの三親等が該当します。三親等以内すべてに機械的に照会状が届くわけではなく、二親等にあたる姉に扶養照会が行われるのは比較的一般的なパターンです。

大切なのは、扶養照会が「援助を強制する手段」ではなく「扶養義務の履行が期待できるかを確認する調査」に過ぎない点です。この違いを理解しておくことが、書類が届いたときの不安を軽くする第一歩になります。

生活保護には8種類の扶助が用意されている

生活保護には、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助という8種類の扶助が用意されています。世帯の状況に応じて必要な扶助が組み合わされて支給される仕組みで、受給の可否は収入や資産の状況、就労の可否、親族からの援助の可能性を総合して各自治体の福祉事務所が判断します。

兄弟姉妹の扶養義務は「自分に余力がある範囲」で足りる

民法第877条第1項は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と規定しています。この条文だけを読むと兄弟姉妹にも重い義務があるように見えますが、実務上は扶養義務の内容に強弱の差があります。

法解釈上、扶養義務は「生活保持義務」と「生活扶助義務」の2種類に分けられます。生活保持義務は夫婦間や親と未成熟の子の間に発生する義務で、自分の生活を切り詰めてでも相手と同水準の生活を保障する強い内容です。一方の生活扶助義務は、兄弟姉妹間や成人した子と親との間に発生する義務で、自分の生活に余力がある範囲で援助すれば足りるとされています。

姉からの扶養照会にあたる場合、法的な扶養義務の水準は生活扶助義務にとどまります。夫の年収が1000万円あるという事実だけで、自動的に姉を援助する義務が発生するわけではありません。あくまで「自分たちの家計に余力があれば」という条件付きの緩やかな義務です。

年収1000万円の手取りは約700万〜750万円にとどまる

「年収1000万円」という言葉から連想される裕福なイメージと、実際の可処分所得の間には大きな開きがあります。会社員で年収1000万円の場合、所得税と住民税に加えて、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料が給与から差し引かれます。家族構成や控除の状況にもよりますが、手取り額はおおむね700万円から750万円になる計算です。額面の3分の1近くが税と社会保険料として引かれます。

この手取りから、住宅ローンの返済、子どもの教育費、食費、光熱費、保険料、車の維持費といった固定的な支出が差し引かれます。都市部で住宅を購入している家庭や、私立学校に子どもを通わせている家庭では、教育費だけで年間100万円を超えることが珍しくありません。

このため、年収の数字だけを見て「余力がある」と判断するのは実態にそぐわないケースが多くあります。扶養照会への回答として「援助は困難」と伝えるのは、不誠実な対応ではなく、家計の実情に即した正直な意思表示です。

年収1000万円の家計から引かれる項目のイメージ

項目おおよその額(年額)
所得税・住民税約150万〜180万円
社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険)約120万〜140万円
差し引き後の手取り約700万〜750万円

上記は控除の有無や自治体によって変動する目安の数字です。この手取りからさらに住宅ローン、教育費、保険料、生活費が引かれるため、自由に使える金額はさらに小さくなります。

厚生労働省は2021年に扶養照会を行わないケースを整理した

扶養照会をめぐる運用は、2021年に厚生労働省社会・援護局保護課が発出した事務連絡で見直されました。同年2月26日付の通知で扶養照会を控えるべきケースが具体的に整理され、続く3月30日付では実務マニュアルである「生活保護手帳別冊問答集」の内容が改訂されています。

見直しの結果、次のような事情がある場合には、扶養照会そのものを行わない、あるいは慎重に判断することとされました。親族との間に長期間(目安として概ね10年程度)音信不通の状態が続いている場合、過去にDVや虐待を受けた経緯があり照会によって加害者に居場所が知られるおそれがある場合、親族間で借金や相続をめぐる対立など関係が著しく悪化している事情がある場合、照会対象者が70歳以上の高齢者であるなど扶養が現実的に期待できないと考えられる場合が該当します。

改訂後は「扶養義務の履行が期待できると判断される者」に限って照会を実施する方針が明確になり、申請者が扶養照会を拒む理由を福祉事務所が丁寧に聞き取る運用も徹底されました。姉が申請時点で「扶養は断ってほしい」と伝えていれば、そもそも書面が届かないか、届いても簡略化される可能性があります。

扶養届書には「援助できない」欄に印を付け、家計の実情を1行添える

書類が届いた場合の対応は3つに分かれます。援助が可能な範囲で援助を申し出る、援助は難しいと回答する、照会に対して何も回答しない、の3つです。無回答でも実務上は「扶養の意思なし」と扱われることが多いものの、審査手続きが滞る可能性があるため、簡潔でも書面で意思を返す対応が望ましいとされています。

扶養届書には「援助できる」「援助できない」「一部であれば援助できる」といった選択肢と、理由記入欄、自身の収入と資産の状況を書く欄が設けられています。援助が難しい場合は「援助できない」に印を付け、理由欄に家計の実情を短く書き添えれば足ります。

理由の書き方は、自身の世帯の生活を維持するだけで精一杯であり経済的な援助はできない、住宅ローンの返済や子どもの教育費の負担が大きく継続的な援助をする余力がない、長年にわたり交流が乏しく援助できる関係性にない、といった一文で十分とされています。長文にする必要はありません。

自身の収入や資産の詳細欄はあくまで任意の情報提供であり、すべてを詳細に開示する法的義務はありません。記入に抵抗があれば空欄のままでも、援助の可否についての意思表示さえ明確であれば回答として成立します。書類が届いたら期限内に返送すること自体が、家族と福祉事務所の双方にとってスムーズな対応につながります。

扶養届書に書く「援助できない理由」の記入例

事情書き方の例
家計の圧迫自身の世帯の生活を維持するだけで精一杯であり、経済的な援助はできません
固定費の重さ住宅ローンの返済や子どもの教育費の負担が大きく、継続的な援助をする余力がありません
関係の希薄さ長年にわたり交流が乏しく、援助できる関係性にありません

費用徴収の対象となるのは「客観的に扶養できる資力がある」場合に限られる

扶養照会に関連して家族が知っておきたいのが、生活保護法第77条に定める「費用徴収」の制度です。この条文は、生活保護を受けている人に民法上の扶養義務者がいる場合、その義務の範囲内で、保護費を支弁した自治体の長が費用の全部または一部を扶養義務者から徴収できると定めています。

費用徴収が発動するのは、扶養義務者が実際に扶養義務を履行しておらず、かつ客観的に見て扶養する資力があると認められる場合に限られます。扶養照会に「援助できない」と回答しただけで、直ちに費用徴収の対象になるわけではありません。徴収額について自治体と扶養義務者の間で協議が調わなければ、自治体の長の申立てにより家庭裁判所が金額を定める仕組みです。

兄弟姉妹に対してこの費用徴収が実際に発動される例は限定的とされています。前述の通り、兄弟姉妹間の扶養義務は生活扶助義務にとどまり、扶養義務者自身の生活を犠牲にしてまで援助することは求められていないためです。過度に恐れる必要はありませんが、制度としてこうした仕組みがあること自体は把握しておくと安心です。

生活保護の申請から決定までは原則14日以内

参考として、生活保護の申請から決定までの流れも押さえておきます。申請者は、居住地を管轄する福祉事務所の窓口で相談と申請を行います。申請の際には資産や収入の状況、就労状況、家族構成についての聞き取りがあり、必要書類の提出を求められます。

申請が受理されると、福祉事務所は預貯金や不動産などの資産調査、年金や各種手当の受給状況の確認、就労の可否に関する調査とあわせて、親族への扶養照会を行うかどうかを判断します。これらの調査結果を踏まえ、原則として申請から14日以内に、特別な事情がある場合には最大30日以内に、保護の要否と内容が決定されます。

扶養照会はこの一連の調査プロセスの中の一つに過ぎず、それだけで生活保護の可否が決まる要素ではありません。判断の中心はあくまで申請者本人の収入、資産、稼働能力、生活状況です。家族として「自分たちの回答が姉の申請結果を左右してしまう」と過度に責任を感じる必要はありません。

2025年9月時点の生活保護受給者は198万5349人で前年同月比1.1%減

生活保護制度の全体像を把握するために、厚生労働省が公表している「被保護者調査」の数値も見ておきます。令和7年(2025年)9月分の概数として、生活保護を受けている実人員数は198万5349人、実世帯数は164万5714世帯となっています。前年同月と比較すると、実人員数で2万2481人(1.1%)減少し、実世帯数でも5088世帯(0.3%)減少しました。

受給世帯の内訳を見ると、高齢者世帯が全体の半数以上を占め、次いで障害者・傷病者世帯、母子世帯、その他の世帯という構成です。高齢化の進展と単身世帯の増加を背景に、身寄りが少ない、あるいは親族との関係が疎遠になった高齢者が生活保護を利用するケースは、今後も一定数見込まれます。扶養照会のあり方については、こうした社会構造の変化を背景に議論が続いています。

これらの統計から分かるのは、生活保護が特別な少数の人だけが利用する制度ではなく、状況次第で誰もが利用しうる社会保障制度の一つだという点です。親族が生活保護を申請したという事実そのものに、家族として過度な負い目を感じる必要はありません。

支援団体などからは「本人の同意のない扶養照会は撤廃すべきだ」という、より踏み込んだ制度改正を求める声も上がっており、扶養照会をめぐる議論は現在も続いています。地域によって運用に差があるという指摘もあり、実際にどこまで柔軟に対応してもらえるかは、申請先の福祉事務所によって異なる可能性がある点は押さえておくと安心です。

家計を圧迫する援助より「連絡を保つ」形のサポートを選ぶ

「断って」と頼まれたとき、「見捨てるようで心苦しい」と葛藤を抱く家族は少なくありません。援助を断る判断は、家族関係を断ち切ることと同じではありません。金銭援助が難しくても、援助の形は他にあります。

定期的に連絡を取って様子を確認する、必要なときに一時的に相談に乗る、行政の相談窓口や支援制度の情報を共有する、といった金銭以外のサポートも十分に意味のある援助です。感情だけで判断せず、自分たちの家計で無理なく支援できる範囲はどこまでか、継続的な金銭援助を行った場合に住宅ローンの返済計画や子どもの教育資金、老後資金にどの程度の影響が出るかを冷静に見積もったうえで判断してください。

姉自身が「扶養照会を断ってほしい」と申し出てきた背景には、経済的な負担を家族にかけたくないという配慮や、扶養照会によって家族関係にこれ以上の負担をかけたくないという気持ちがあるのかもしれません。その気持ちを受け止めつつ、自分たち家族の状況を正直に伝えることが、双方にとって納得感のある対応につながります。

迷ったときは福祉事務所や弁護士に相談できる

姉の生活状況や扶養照会への対応に不安がある場合、家族だけで抱え込まず専門機関に相談する方法もあります。福祉事務所には生活保護制度を説明するケースワーカーがおり、扶養照会に関する疑問にも応じてもらえます。

生活困窮者向けの支援を行う自立相談支援機関や、弁護士・司法書士への相談も選択肢に入ります。扶養照会への回答内容が家庭裁判所での手続きに発展する可能性がある場合など、専門的な判断が必要な場面では、早めの相談が安心につながります。

扶養照会をめぐる家族からのよくある疑問に答える

姉から「生活保護を申請したから扶養照会を断ってほしい」と連絡がきた家族が抱く代表的な疑問について、順に答えていきます。

一つ目は「扶養照会を断ったら姉との関係が悪化しないか」という疑問です。援助が難しいと回答することは、家族関係を法的に断ち切る行為ではありません。家計の実情を正直に伝えたうえで、金銭以外の形で連絡を取り合うなど、無理のない距離感で関係を続けている家庭は多くあります。

二つ目は「扶養照会の書類を無視し続けたらどうなるか」という疑問です。無回答が続くと実務上は「扶養の意思なし」とみなされることがほとんどですが、福祉事務所から確認の連絡が入ったり、姉の審査に時間がかかったりする可能性があります。援助が難しい場合でも、その旨だけは簡潔に回答しておく対応が望ましいとされています。

三つ目は「兄弟姉妹が複数いて意見が分かれたらどうなるか」です。扶養照会は親族一人ひとりに個別に行われる手続きで、他の兄弟姉妹の回答内容が自分の回答を左右することはありません。それぞれの家庭が、自分たちの家計状況に照らして援助の可否を判断し、個別に回答する形になります。

四つ目は「扶養照会は一度断ったら二度と来ないか」です。申請時点での状況をもとに一度扶養照会が行われた後、家計状況が大きく変化しない限り、同じ申請に対して繰り返し照会が届くことは通常想定されていません。ただし生活保護は継続的な制度のため、状況の変化によっては将来的に改めて確認の連絡が入る可能性は残ります。

五つ目は「援助を求められたら必ず応じなければならないか」です。扶養照会に対する回答はあくまで援助の可否に関する意思表示で、これをもって直ちに法的な支払い義務が確定するわけではありません。仮に費用徴収の対象となる場合でも、扶養義務者と自治体との協議や、場合によっては家庭裁判所の審判といった手続きを経る必要があります。

「断る」判断は家計の実情に照らした正当な選択肢

扶養照会は親族に「援助できるかどうか」を確認する手続きで、援助を強制するものではありません。民法上、兄弟姉妹にも扶養義務は定められていますが、その内容は配偶者や親子間の扶養義務に比べて緩やかな「生活扶助義務」にとどまり、自分たちの生活に余力がある範囲での援助が想定されているにすぎません。

夫の年収が1000万円あっても、税金や社会保険料、住宅ローン、教育費などを差し引いた実際の家計状況によっては、援助が難しいと判断することは家計の実情に即した合理的な選択です。扶養照会に対しては、無回答にするのではなく、援助が難しい理由を明確に伝える対応が望ましく、その回答が姉の生活保護の申請結果を直接左右することもありません。

「断って」と頼まれたときは、感情だけで判断せず、自分たち家族の家計状況と生活設計を冷静に見つめ直したうえで、無理のない範囲で対応してください。金銭援助が難しくても、連絡を取り合う、情報を共有するといった形でのサポートは十分に可能です。扶養照会への回答一つで家族関係のすべてが決まるわけではないことを覚えておくと、書類を前にした重い気持ちが少し軽くなります。

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