身寄りのない高齢者を支援する新制度とは?社会福祉法改正案の全容を解説

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身寄りのない高齢者を支援する新制度とは、頼れる親族がいない高齢者に対して、日常生活の支援から入院・入所時の手続き代行、さらには死後事務までを包括的に提供する仕組みのことです。政府は2024年12月に社会保障審議会・福祉部会で報告書をとりまとめ、社会福祉法改正案を通常国会に提出する方針を固めました。この新制度は「第二種社会福祉事業」として法的に位置づけられ、これまで法規制がなかった身元保証や死後事務の分野に公的な監督体制を整備することを目指しています。

本記事では、なぜ今この制度改革が必要とされているのか、その背景にある社会構造の変化から、新制度の具体的な内容、民間事業者に対するガイドラインの概要、そして今後の課題まで詳しく解説します。

目次

身寄りのない高齢者が急増している背景と社会の変化

日本社会は長らく「家族依存型福祉モデル」を前提として成り立ってきました。入院時の身元保証、介護施設への入所手続き、緊急時の連絡対応、そして死後の葬儀や遺品整理といった事柄は、公的な制度ではなく家族の役割として位置づけられてきたのです。しかし、この前提はもはや維持できない状況に至っています。

国立社会保障・人口問題研究所が2024年4月に公表した「日本の世帯数の将来推計」によれば、2050年には全世帯に占める単独世帯の割合が44.3%に達すると予測されています。5世帯に2世帯以上が一人暮らしとなる計算であり、日本は世界でも類を見ない「超・単身社会」へと突入することになります。

特に注目すべきは高齢者層における変化です。2020年から2050年にかけて、65歳以上の男性の独居率は16.4%から26.1%へ、女性は23.6%から29.3%へと上昇する見込みです。さらに重要なのは、単独世帯の「質」が変化している点にあります。これまでの独居高齢者の多くは配偶者との死別によるものでしたが、今後は未婚による独居が急増します。推計では、2050年の男性高齢単独世帯のうち約6割にあたる59.7%が未婚者になると予測されています。

未婚であることは配偶者がいないだけでなく、子供がいる可能性も極めて低いことを意味します。日本総合研究所の試算によれば、配偶者も子供もおらず3親等以内の親族もいない身寄りのない65歳以上の高齢者は、2024年時点の約286万人から2050年には約448万人にまで増加すると見込まれています。この数字は現在の横浜市の人口を上回る規模であり、法的な身元引受人を確保することが困難な状態で老後を迎える高齢者が大量に発生することを示しています。

孤独死の実態と警察庁統計が明らかにした深刻な現実

身寄りがないことの最大のリスクといえるのが孤独死です。長年、孤独死の定義や統計は自治体ごとにばらつきがあり、国としての統一的な実態把握が遅れていました。しかし、2024年に警察庁が動き出し、衝撃的なデータが公表されました。

2024年5月および8月に発表された警察庁のデータによれば、2024年1月から3月のわずか3か月間で、自宅で死亡した一人暮らしの人は2万1,716人に上りました。単純に年間換算すれば約6万8,000人以上が孤独死している可能性があります。そのうち65歳以上の高齢者が約8割にあたる1万7,034人を占めており、高齢者の孤立死が圧倒的多数を占めることが裏付けられました。

発見までの期間も深刻な問題です。男性の孤独死の場合、発見までに長期間を要する傾向が強く、死後15日以上経過して発見されるケースも珍しくありません。遺体の腐敗が進み原状回復に多額の費用がかかる事例が頻発しています。こうした事態は賃貸住宅のオーナーにとって大きな経営リスクとなるため、高齢者の入居を拒否する動きへと直結しています。身寄りのない高齢者は住まいを確保することすら困難な「住宅弱者」へと追い込まれているのです。

医療・介護現場が直面する身元保証人問題の深刻さ

身寄りのない高齢者が直面する切実な壁として、医療や介護へのアクセスにおける身元保証人の要求があります。日本の医療機関や介護施設の運営は、キーパーソンとしての家族の存在を前提としてきました。

総務省行政評価局による実態調査では、調査対象となった病院や介護施設の9割以上が入院・入所時に身元保証人を求めていることが明らかになりました。さらに深刻なのは、身元保証人がいないことを理由に入院や入所を断るケースが存在することです。調査では、身元保証人がいない場合に入院・入所を断ると回答した施設が一定数存在し、病院で約6%、施設で約20%という結果でした。

法律上、医師法第19条に基づく応招義務により医師は正当な事由なく診療を拒むことはできません。厚生労働省も「身元保証人がいないことのみを理由に入院を拒否してはならない」という通知を繰り返し発出しガイドラインも作成しています。しかし現場の現実は複雑です。病院側が保証人を求める背景には、緊急時の連絡先確保、医療費の未払いリスクへの対応、入院中の物品購入や洗濯の支援、認知症等で意思決定が困難になった際の同意代行、そして死亡時の遺体や遺留金の引き取りなど、多くの家族的役割への期待があります。これらすべてを医療従事者が肩代わりすることは労働環境や法的リスクの観点から限界があるのです。

成年後見制度では対応できない支援の隙間

「身寄りがないなら成年後見制度を使えばよいのではないか」という議論がしばしばなされます。しかし既存の成年後見制度と身寄りのない高齢者のニーズとの間には決定的なミスマッチが存在します。

まず成年後見制度は判断能力が不十分な人を対象とした制度であるという点があります。認知症や知的障害などがなく判断能力がしっかりしている高齢者は、たとえ身体が不自由で身寄りがなくてもこの制度を利用できません。しかし入院手続きや引っ越しの手配、死後事務の契約などは判断能力がある段階から必要となる支援です。

次に成年後見人の職務範囲の問題があります。成年後見人の主な役割は財産管理と身上監護(契約行為)に限定されています。入院中の洗濯物の交換、買い物代行、ペットの世話、部屋の片付けといった事実行為は原則として後見人の業務外とされています。また医療行為への同意権も後見人には与えられていません。

さらに死後事務の限界も課題です。成年後見人の任務は本人の死亡によって終了します。法改正により葬儀や火葬などの一部の死後事務は一定条件下で認められるようになりましたが、あくまで限定的な対応にとどまり、家財道具の処分や永代供養の契約などを包括的に行うことは困難です。

コストと硬直性も問題となっています。専門職後見人を選任すれば月額数万円の報酬が発生し続け、一度利用を開始すると判断能力が回復しない限り制度利用をやめることはできません。資産が少ない高齢者や必要な時だけ支援を受けたい高齢者にとって敷居が高い制度となっているのです。

民間身元保証サービスの台頭とトラブルの多発

公的制度の隙間を埋める形で急速に拡大してきたのが民間事業者による身元保証サービスや終身サポート事業です。これらは数十万円から数百万円の契約金と引き換えに、入院時の保証人代行、日常の生活支援、死後の葬儀・納骨までをパッケージで提供するビジネスです。

ニーズの高まりとともに市場は拡大しましたが、法規制が存在しなかったため様々な問題が発生しました。預託金の流用、契約内容の不透明さ、事業者の破綻によるサービス停止、解約トラブルなどが国民生活センターに多数寄せられる事態となりました。必要な支援が公的制度では受けられず民間サービスは高額でリスクがあるという八方塞がりの状況が、社会福祉法改正による新制度創設を不可避にしたのです。

社会福祉法改正案と新制度の全体像

2024年を通じて社会保障審議会・福祉部会で議論が重ねられ、2024年12月に厚生労働省は身寄りのない高齢者支援に関する報告書をとりまとめました。この報告書に基づき政府は通常国会に社会福祉法などの改正案を提出する方針を固めました。

新制度の核心は、これまで法的な定義が曖昧だった身元保証や死後事務といった支援を社会福祉法に基づく「第二種社会福祉事業」として正式に位置づける点にあります。社会福祉事業には特別養護老人ホームなどの入所施設を運営する「第一種」と、デイサービスや訪問介護など在宅サービスを中心とする「第二種」があります。身寄りのない高齢者支援を第二種社会福祉事業に追加することで、事業者に都道府県知事への届け出を義務付け、行政が報告徴収や業務改善命令を出せる体制を整備します。これにより誰でも参入できる無秩序な状態から一定の公的監督が及ぶ事業へと質的転換を図ることになります。

新制度が提供する支援の三本柱とその内容

新事業が提供するサービスは高齢者の生活を切れ目なく支えるため、3つの機能を柱として設計されています。

第一の柱は日常生活支援です。 定期的な安否確認や見守り、日常的な金銭管理として公共料金の支払いや通帳の管理、郵便物の確認、福祉サービスの利用手続きの援助などが含まれます。これは既存の日常生活自立支援事業の機能を拡張し、判断能力の有無にかかわらず利用できるようにしたものです。

第二の柱は入院・入所等の手続き支援です。 これが新制度の最大の目玉といえます。病院への入院や介護施設への入所時に必要となる手続きの代行、契約への立ち会い、そして緊急時の連絡先としての機能を提供します。事実上の公的な身元保証人としての役割を果たすことで、保証人不在による入院・入所拒否を解消することを目指しています。

第三の柱は死後事務の支援です。 本人が亡くなった後の葬儀、火葬、納骨、家財道具の処分、行政への届出、電気・ガス・水道等の解約手続きなどを代行します。従来最も担い手が不明確でトラブルの元となっていた領域を社会福祉事業として明確に定義しました。これにより本人の生前の意思に基づいた尊厳ある最期を実現することが期待されています。

対象者の範囲と利用料金の仕組み

新制度のもう一つの重要な特徴は対象者を限定しない普遍主義的なアプローチを採用している点です。従来の福祉制度は低所得者や判断能力不十分者など特定の要件を満たす人に限定される傾向がありました。しかし身寄りがないことによる困難は資産の有無や判断能力の有無にかかわらず発生します。

報告書案では判断能力や経済状況にかかわらず、頼れる身寄りがいないために支援を必要とする人を広く対象とする方針が示されました。利用料については原則として受益者負担となり、利用者は事業者と契約を結びサービス対価を支払います。

ただし低所得者が利用できないという問題への対応も検討されています。生活保護受給者や低年金者などの資力のない人については無料または低額で利用できる仕組みとして減免措置や公費補助を導入し、経済的理由で支援から排除されないセーフティネットを構築することが検討されています。

実施主体として期待される社会福祉協議会の役割

この新事業を担う実施主体として最も有力視されているのが全国の自治体にネットワークを持つ社会福祉協議会です。社会福祉協議会は公共性が高く、すでに日常生活自立支援事業のノウハウも持っています。

しかし社会福祉協議会の人員体制には限りがあります。爆発的に増加するニーズに対応するためには社会福祉協議会だけでなく、NPO法人や一般社団法人、さらには民間企業など多様な主体が参画できる仕組みとすることが想定されています。ただしそれら民間主体が参入する場合も第二種社会福祉事業としての届け出と規制の遵守が求められることになります。

2024年6月策定のガイドラインによる民間事業者の規律強化

法改正による新制度の本格稼働は早ければ2026年度以降と見込まれますが、現場の混乱は待ってくれません。そこで政府は先行して民間事業者に対する規律付けを行いました。それが2024年6月に内閣府・消費者庁・厚生労働省などが連携して策定した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」です。

このガイドラインは高齢者等終身サポート事業を行う事業者が守るべき行動指針を定めたものであり、消費者契約法などの既存法令の解釈を明確化することで悪質な事業者を市場から排除し健全な事業者を育成することを目的としています。

ガイドラインの特に重要なポイントは3点に集約されます。第一に徹底した情報開示と重要事項説明です。 契約前に具体的にどのようなサービスがいくらで提供されるのか、何が含まれていて何が含まれていないのかを書面を用いて平易に説明することを義務付けています。解約時の条件や返金ルールについても明確化を求めています。

第二に預託金の分別管理と保全措置です。 利用者から預かった葬儀費用などの預託金について、事業者の運転資金と明確に区分して管理することを求めています。さらに信託銀行や保証会社を利用した保全措置を講じることを推奨し、万が一事業者が倒産しても預かったお金が利用者に返還される仕組みの導入を促しています。これは過去に発生した預託金流用事件への反省に基づくものです。

第三に寄付・遺贈の不当勧誘の禁止です。 サービス契約の条件として事業者に全財産を寄付させたり遺言書で遺贈させたりすることを強要することを強く戒めています。判断能力が低下しやすい高齢者の弱みにつけ込み過大な財産移転を迫る手法を封じるための規定です。

ガイドライン自体は法律ではありませんが、これに違反する行為は消費者契約法による契約取り消しの対象となったり特定商取引法に基づく行政処分の対象となったりする可能性があります。業界団体による自主規制ルールの策定や第三者機関による認証制度の導入なども動き出しており、法改正を待たずに業界の健全化が進められています。

新制度が抱える課題と今後克服すべき論点

立派な制度を作ってもそれを担う人がいなければ機能しません。新制度の最大の懸念材料は深刻な人材不足です。実施主体として期待される社会福祉協議会や介護福祉の現場はすでに慢性的な人手不足に喘いでいます。日常的な金銭管理から死後の手続きまで、高度な倫理観と専門知識そして体力を要する業務を担える人材を全国で確保できるかどうかが大きな課題となっています。

専門家からは介護人材不足が加速する中で地域包括ケアシステム自体が危機に瀕しているとの指摘もあり、処遇改善なき制度拡大は現場の疲弊を招くと警鐘が鳴らされています。全国社会福祉協議会も現状の事業ですら予算不足であることを訴えており、新制度において国による抜本的な財政支援がなければ事業の継続は困難であるとの見解を示しています。

財源問題も大きな課題です。資力のない人でも利用できる制度にするためには公的な補助が不可欠ですが、その財源をどこに求めるかについては明確な答えが出ていません。利用者の自己負担を基本としつつ低所得者分を自治体の一般財源で賄うのか、国が補助金を出すのか、あるいは介護保険のような社会保険方式を導入するのかといった議論が続いています。

医療同意と意思決定支援における法的な壁

新制度で事業者が入院手続きを支援したとしても、医療現場が最も求めている医療行為への同意権や延命治療の方針決定については依然として法的な壁が存在します。ガイドラインや新制度案ではあくまで本人の意思決定支援が原則であり、事業者に包括的な代理権を与えるわけではありません。

しかし本人が意識不明の重体になった場合に誰が手術に同意するのかという問題は解決されていません。医師法上の整理がつかないままでは結局現場の医師がリスクを負って判断するか、あるいは同意者がいないことを理由に治療が手控えられるリスクが残ります。専門職団体からはこの点について慎重な議論と公的な権利擁護支援との連携強化を求める声が上がっています。

利益相反リスクへの対応と権利擁護の重要性

サービス提供者が利用者の財産管理も行うことには構造的な利益相反のリスクがあります。事業者が自社の利益のために不必要なサービスを契約させたり、安い葬儀で済ませて残金を着服したりする誘惑に駆られる可能性は否定できません。

これを防ぐためには事業者を監視・監督する第三者の目が必要です。報告書案では都道府県知事による監督が明記されましたが、日常的なチェック機能としては市町村に設置される中核機関(権利擁護支援センター)や地域連携ネットワークの役割が重要になります。中核機関が司令塔となり事業者と本人との間に介在して適切な支援が行われているかをモニタリングする仕組みが不可欠です。

2040年の多死社会に向けた社会システムの転換

2040年に向けて日本は年間死亡者数がピークを迎える多死社会となります。死亡者数は年間160万人を超えると予測されていますが、その死を受け止める家族の数は反比例して減少していきます。かつては自宅で家族に看取られることが一般的でしたが、現在は病院や施設での死が8割近くを占めています。

身寄りがない場合は病院での看取りや死後の引き取り手が不在となるため、病院側も受け入れに慎重にならざるを得ません。死が家族のイベントから処理すべき行政事務や契約履行へと変質していく中で、誰がその人の最期に寄り添い尊厳を守るのかという問いへの答えが今まさに求められています。

家族依存から社会全体での支え合いへの歴史的転換

この新制度は日本の福祉の歴史において画期的な意味を持っています。これまで家族の愛情というブラックボックスの中に隠されていたケアの負担を社会化し、公的なルールと監視の下に置くという決断がなされたのです。新制度は家族の代わりを完全に務めることはできません。しかし家族がいなくても入院ができ施設に入所でき、そして尊厳を持って死を迎えることができる最低限のインフラを整えることは国家の責務といえます。

データが示すように2050年には単身高齢者が社会の多数派となります。身寄りがないことはもはや特別な事情を持つ少数の人々の問題ではなく、誰もが当事者になり得る普通の未来です。法改正はスタートラインに過ぎません。制度を実効性のあるものにするためには財源の確保、専門職の育成、そして血縁を超えた支え合いを受け入れる社会全体の意識変革が必要となります。民間事業者の活力を生かしつつ公的なセーフティネットで底支えをする官民協働のハイブリッドモデルの成否が、超高齢社会・日本の持続可能性を決定づけることになるでしょう。

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