令和8年度介護報酬改定案を徹底解説|厚生労働省発表の2.03%引き上げの全容

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令和8年度介護報酬改定案は、厚生労働省が2026年1月16日の社会保障審議会介護給付費分科会で提示した、改定率プラス2.03%という過去最高水準の引き上げを含む抜本的な制度改革です。この改定は2026年6月に施行が予定されており、介護職員等への月額平均1万円相当のベースアップを実現するとともに、訪問看護や居宅介護支援など従来対象外だったサービスへの処遇改善加算の新設を含む画期的な内容となっています。

本記事では、令和8年度介護報酬改定案の全容について詳しく解説します。今回の改定は通常の3年に一度の定例改定サイクルを待たずに実施される「期中改定」という異例の措置であり、政府が掲げる「デフレからの完全脱却」と「構造的賃上げ」の実現に向けた強い意志が反映されています。介護事業者の方々にとって、この改定内容を正確に理解し適切に対応することは、今後の事業運営において極めて重要な意味を持ちます。

目次

令和8年度介護報酬改定とは何か

令和8年度介護報酬改定とは、厚生労働省が主導する介護保険制度における報酬単価の見直しであり、介護現場で働く職員の処遇改善と介護サービスの質の向上を目的としています。今回の改定の最大の特徴は、本来であれば令和9年度に予定されていた定例改定を前倒しして実施する「期中改定」である点にあります。

この期中改定が実施される背景には、他産業において春闘等を通じた賃上げが加速する中、公定価格によって収益が決定される介護事業者が取り残されるという深刻な問題があります。介護業界から他産業への人材流出が進めば、介護保険制度の持続可能性そのものが危機に瀕することになります。こうした危機感から、政府は異例の期中改定に踏み切りました。

改定率の内訳を見ると、全体でプラス2.03%という数字は、介護職員等の処遇改善分としてプラス1.95%、食材費高騰に対応する食費の基準費用額引き上げ分としてプラス0.09%という構成になっています。この数字は介護報酬改定の歴史において過去最高水準であり、国が介護業界の人材確保に本腰を入れていることを示しています。

介護職員等処遇改善加算の拡充内容

介護職員等処遇改善加算制度が今回の改定で大幅に拡充されます。この制度は令和6年度改定で旧3加算(処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算)が一本化されたものを基盤としており、今回さらなる上乗せと対象範囲の拡大が実施されます。

厚生労働省が目標として掲げる賃上げ水準は、介護現場で働く職員に対する月額平均1万円相当、賃上げ率にして3.3%のベースアップです。さらに、生産性向上や協働化に取り組む事業所の職員に対しては、追加で月額7,000円相当、2.4%の上乗せを行う設計となっています。これに各事業所における定期昇給分の約2,000円相当を合わせることで、最大で月額1万9,000円、6.3%の賃上げが実現するシナリオが描かれています。

ただし、この「最大1万9,000円」という数字はあくまでモデルケースにおける最大値であり、すべての職員が一律に受け取れるものではない点に注意が必要です。特に「月額7,000円の上乗せ」部分は、生産性向上やデータ連携などの要件を満たした事業所のみが享受できるインセンティブ報酬という位置づけになっています。

対象職種の拡大と「介護従事者」への転換

従来の処遇改善加算制度において最大の課題とされていたのは、配分対象が原則として「介護職員」に限定されていたことでした。介護現場では、ホームヘルパーや介護福祉士だけでなく、ケアマネジャー、看護師、リハビリテーション専門職、事務職員、送迎ドライバーなど多様な職種がチームとしてケアに従事しています。特定の職種のみ賃金が上昇することで、職種間の分断やモチベーション低下、さらには処遇改善対象外職種からの人材流出という副作用が生じていました。

今回の改定では、加算の対象定義が「介護職員のみ」から「介護従事者全体」へと明確に拡大されました。この変更により、事業者は獲得した加算原資を職種の壁を超えて柔軟に配分することが可能となります。これまで処遇改善の恩恵を受けにくかったベテランのケアマネジャーや、訪問看護ステーションの事務長などに対しても、事業所の経営判断で賃金改善を行う道が開かれました。この変更は「チームケア」の実態に即した修正であると同時に、全職種的な賃上げ圧力に対応するための重要な措置です。

新設される上位区分の設計

既存の加算体系である加算Ⅰから加算Ⅳにおいて、既に最上位の評価を得ている優良事業所に対し、さらなる評価区分が新設されます。具体的には、現在の「加算Ⅰ」「加算Ⅱ」の上に、生産性向上や協働化を評価する新たな区分が設定される見通しです。

この新区分は、従来のキャリアパス要件や職場環境等要件に加え、「令和8年度特例要件」を満たすことで算定が可能となります。訪問介護における最上位区分の加算率は28.7%に達すると試算されており、これは基本報酬の約3割にも及ぶ大きな加算です。事業所経営において、この上位区分を取得できるか否かは、単なる収益差にとどまらず、採用市場におけるブランド力や存続可能性を左右する決定的な要因となります。

訪問看護・訪問リハ・居宅介護支援への新規適用

長年の業界要望であった、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援(ケアマネジメント)への処遇改善加算がついに新設されます。これらのサービスは従来、「介護職員」が主体のサービスではないという理由や、医療保険との兼ね合いなどの事情から対象外とされてきました。しかし、全産業的な賃上げの流れと人材確保の観点から、今回方針転換がなされました。

新たに設定された各サービスの加算率は以下のとおりです。居宅介護支援および介護予防支援は2.1%、訪問看護(予防含む)は1.8%、訪問リハビリテーション(予防含む)は1.5%となっています。

これらの数字は訪問介護等の既存サービスの加算率と比較すると低い水準に見えるかもしれません。しかし、これらは基本報酬の総額に対する比率であるため、事業規模によっては無視できないインパクトを持ちます。

居宅介護支援事業所を例に取ると、ケアマネジャー1人あたり月間35件を担当し、報酬単価が平均13,000円と仮定した場合、月間の基本報酬は約45万円となります。これに2.1%の加算が乗ると、月額約9,500円程度の増収となる計算です。これは対象となるケアマネジャー1人に対し、月額1万円弱の賃上げ原資を確保できることを意味しており、政府の目標とする「月額1万円の賃上げ」と整合する設計になっています。

訪問看護においても、近年の病院看護師の賃上げに追随する必要があり、1.8%の加算は原資確保のために不可欠な要素となっています。

新規対象サービスの算定要件

新規対象サービスにおける算定要件は、既存の「介護職員等処遇改善加算(Ⅳ)」の要件を準用する形で設計されています。具体的には、3つの柱を満たす必要があります。

第一の柱はキャリアパス要件Ⅰです。これは職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系を整備し、それを就業規則等の書面で明文化し、全職員に周知することを求めています。これまで個別の給与交渉や曖昧な昇給ルールで運営してきた小規模な訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所にとっては、明確な「賃金テーブル」や「役職規定」を作成する必要があり、一定のハードルとなります。

第二の柱はキャリアパス要件Ⅱです。資質向上のための具体的な計画として年間研修計画等を策定し、実際に研修の実施または機会を確保することが求められます。

第三の柱は職場環境等要件です。賃金改善以外のアプローチとして、ICT活用による業務負担軽減、資格取得支援、子育てとの両立支援など、職場環境の改善に取り組むことが必要です。

これらの要件整備は事務管理部門を持たない小規模事業所にとって大きな負担となります。そのため、常時雇用する従業員数が10人未満の事業所については、労働基準監督署への就業規則届出義務がないことを踏まえ、内規の整備と周知でも可とするなどの柔軟な運用が認められる見通しです。また、施行当初の混乱を避けるため、申請時点では要件を完全に満たしていなくても、「令和8年度中に対応すること」を誓約書にて確約すれば算定を開始できる経過措置が設けられます。

令和8年度特例要件の内容

本改定において最も戦略的かつ実務的な影響が大きいのが、「令和8年度特例要件」と呼ばれる新たな要件の設定です。これは上位区分や新規対象サービスの加算取得において、従来の要件に追加される条件ですが、その実質は国が構築を進める「介護情報基盤」への参加を強く促す内容となっています。

訪問・通所系サービスにおける特例要件の核心となるのが「ケアプランデータ連携システム」への加入と実績報告です。このシステムは公益社団法人国民健康保険中央会が運営するものであり、ケアマネジャーとサービス事業所の間で毎月交わされる「サービス提供票」を標準化されたデータ形式で送受信する仕組みです。

現状の介護現場では、毎月末になるとケアマネジャーが作成した提供票を紙に印刷し、各サービス事業所へFAXや郵送で送付しています。受け取った事業所側はその内容を目視で確認し、自社の請求ソフトに手入力で転記するという非効率でミスの発生しやすい作業を行っています。ケアプランデータ連携システムを利用することでデータ取込による一括処理が可能となり、事務コストの劇的な削減が期待されます。

上位の処遇改善加算を取得するためには、このシステムへの加入が必須条件となります。単にライセンスを購入するだけでなく、「実績の報告」が求められる点に注意が必要です。つまり、アカウントを作って放置するのではなく、実際に地域の事業所とデータ連携を行っている実態が問われることになります。

導入障壁を下げるため、令和8年度中は「システム利用料の無料化」や「導入費用の助成」が並行して実施されます。また、令和8年6月の施行に間に合わない事業所のために、「誓約書」による経過措置が設けられます。申請時に「令和8年度中に加入し、実績報告を行う」ことを誓約すれば、直ちに上位加算の算定が可能となります。

施設・居住系サービスの特例要件

特別養護老人ホームや老人保健施設などの施設系サービスにおける特例要件は、「生産性向上推進体制加算(Ⅰ)または(Ⅱ)」の取得です。この加算は見守り機器等のテクノロジー導入と業務改善の委員会活動を評価するものです。

生産性向上推進体制加算(Ⅱ)は月10単位で、「体制整備」を評価する段階となっています。要件としては、見守り機器、インカム、介護記録ソフトのいずれか1つ以上を導入していること、生産性向上委員会を設置し定期的に開催してPDCAサイクルを回すこと、業務改善の取り組み状況をデータで報告することが挙げられます。

生産性向上推進体制加算(Ⅰ)は月100単位で、「成果」を評価する上位段階です。見守り機器については全ての居室に設置し全利用者の離床等を検知できる状態にあること、インカムについては同一時間帯に勤務する全ての介護職員が使用し連絡調整を行っていること、介護記録ソフトについては記録の効率化に加えデータ連携機能を有することが求められます。さらに、これらの機器活用により職員の総業務時間の短縮や年次有給休暇の取得日数増加、職員の心理的負担軽減といった「具体的な成果」がデータで確認できることが条件となります。

処遇改善の上乗せ分である月額7,000円相当を取得するためには、これらの加算の取得が求められます。特に上位区分を目指す場合、全居室への見守りセンサー導入や全職員へのインカム配備といった大規模な設備投資が不可欠となります。

LIFEのデータ提出ルール見直し

今回の改定では、科学的介護推進体制加算などの算定要件となっている「LIFE(Long-term care Information system For Evidence)」へのデータ提出ルールも見直されます。

これまでLIFEへのデータ提出頻度は加算の種類によって「6ヶ月に1回」や「毎月」などバラバラであり、現場の管理を複雑にしていました。今回の改定により、原則として提出タイミングが「少なくとも3ヶ月に1回」に統一される方向で調整されています。これにより、例えば通所介護において複数の加算を算定している場合、利用者ごとの評価・データ入力を3ヶ月ごとの同月にまとめて行う運用が可能となり、スケジュール管理が簡素化されます。

また、従来は月末に新規利用者がサービスを開始した場合、翌月10日までにLIFEデータを提出しなければ加算が算定できないという厳しいルールがありました。改定ではこうしたケースにおいてデータ提出期限に一定の猶予期間を設ける措置が導入されます。

さらに、LIFEの本来の目的であるフィードバック機能についても改善が図られます。同規模・同種別の他事業所との比較や、利用者属性に応じた層別化など、より具体的で改善アクションに繋がりやすいフィードバック機能の強化が予定されています。

食費の基準費用額引き上げの詳細

処遇改善と並ぶもう一つの改定項目が、介護保険施設等における「食費の基準費用額」の見直しです。世界的な原材料費高騰や光熱費の上昇を受け、施設側の自助努力だけでは食事提供コストを吸収しきれない状況に対応するものです。

基準費用額は現行の1,445円から1日あたり100円引き上げられ、1,545円となります。施行時期については処遇改善加算等の6月施行とは異なり、「令和8年8月」からの施行が予定されています。日額100円の引き上げは月額で3,000円の増収・増額となり、施設の厨房運営収支の改善に寄与します。

基準費用額の引き上げはそのまま利用者負担の増加に直結しますが、低所得者の生活を保護するため、所得段階に応じた負担限度額の見直しが行われます。

所得段階対象者負担限度額の変更月額負担増の目安
第1段階生活保護受給者等据え置きなし
第2段階年金収入80万円以下等の非課税世帯据え置きなし
第3段階①年金収入80万円超120万円以下等日額30円引き上げ約900円
第3段階②年金収入120万円超等日額60円引き上げ約1,800円

この措置により、経済的に最も困窮している層の負担増は回避される一方、中間層に近い低所得者層には一定の負担増を求める形となりました。

訪問介護事業者への影響と対応策

訪問介護事業者は令和6年度改定での基本報酬引き下げの影響を受け、令和5年の倒産件数が過去最多の67件、休廃業を含めると427件に達するなど極めて厳しい経営環境にあります。

今回の上位区分創設により最大級の加算率を得るチャンスがありますが、その条件として「ケアプランデータ連携システム」の導入が必須となります。登録ヘルパー主体の小規模事業所ではシフト管理や実績報告のアナログ運用が根強く、デジタル化への障壁が高い状況です。

事業継続のためには、アナログ運営からの脱却が不可欠です。ケアプランデータ連携システムへの加入を契機に、シフト管理、記録、請求を一気通貫でデジタル化し、サービス提供責任者の事務負担を減らすことが求められます。確保した時間をヘルパーの同行指導や利用者獲得営業に充て、稼働率を向上させる運営モデルへの転換が急務となっています。

通所介護事業者への影響と対応策

デイサービスは「コンビニよりも数が多い」と言われる過当競争市場であり、利用者獲得と職員確保の双方が課題となっています。

処遇改善の上乗せに加え、特例要件としてのデータ連携システム加入は、ケアマネジャーとの信頼関係強化に直結します。「あのデイサービスは実績報告がデータで来るから楽だ」という評価は、紹介数増加の要因となり得ます。

生産性向上への取り組みを単なるコスト削減ではなく、職員への還元と利用者満足度の向上に繋げることが重要です。上位加算による高い給与水準を求人票でアピールし、質の高い人材を確保することでサービスの質を高め、さらに利用者が増えるという好循環を作り出すことが成功への道筋となります。

施設サービス事業者への影響と対応策

特別養護老人ホームや老人保健施設などの施設サービスは、今回の改定で最も大きな変化を求められています。

生産性向上推進体制加算(Ⅰ)の要件である「全室見守りセンサー」は、100床規模の施設であれば数千万円規模の投資となります。補助金を活用したとしても自己負担は大きいものの、これを導入しなければ処遇改善加算の上位区分も取れず、近隣施設との賃金格差が開く一方となります。

機器導入を前提としたオペレーションの再設計が必要です。センサー導入により夜勤職員の巡回頻度を減らせるなら、夜勤配置の見直しや夜勤手当の増額、あるいは日勤帯への人員シフトなど、具体的な「働き方改革」を実行しなければ投資回収は困難です。

協働化とM&Aの動向

今回の改定案には報酬単価の調整以上の強いメッセージが含まれています。それは「小規模・非効率な事業運営からの脱却と集約化」という方向性です。

特例要件の中に「協働化」や「社会福祉連携推進法人への加入」が含まれている点は重要です。国は小規模事業所が単独でICT投資や複雑な事務処理、コンプライアンス対応を行うことの限界を認識しており、連携によるスケールメリットの追求を推奨しています。

この政策誘導は間違いなくM&Aや事業承継を加速させます。資金力や事務処理能力に乏しい小規模事業者は、単独での加算取得を諦め、大手法人や地域の中核法人への事業譲渡を選択するケースが増えることが予想されます。買い手側にとっても、人材不足の中で職員と利用者をまとめて引き継げるM&Aは魅力的な選択肢となります。

特に訪問介護分野では倒産件数の増加が示すように淘汰が始まっており、今後は「地域ごとの集約化」が進むと予測されます。経営者は自社が単独でシステム導入や加算申請の事務をこなせる体力があるか冷静に見極め、困難であれば業務委託や共同組合への加入など外部リソースを活用する道を探ることが生存戦略となります。

令和8年度介護報酬改定に向けた準備事項

令和8年度介護報酬改定は、2.03%という数字以上に介護業界の産業構造を根本から変える力を持っています。「賃上げ」という強力なインセンティブを活用して「デジタル化」と「生産性向上」を推進するこの改定は、従来のアナログな介護経営に大きな転換を迫るものです。

事業者が直ちに着手すべき準備事項として、まず自事業所が狙うべき加算区分を明確にし、収支シミュレーションを行うことが挙げられます。次に、ケアプランデータ連携システムのアカウント取得、または生産性向上加算に向けた機器選定と導入スケジュールの策定を進める必要があります。この際、補助金申請の準備も並行して行うことが重要です。

新規対象サービスにおいては賃金規定・就業規則の策定を優先的に進め、既存サービスにおいてはキャリアパス要件の再確認を行うことが求められます。施行当初から上位加算を算定するための「誓約」の内容を理解し、実行可能な計画を立てることも欠かせません。

令和8年6月の施行は、変化を恐れずテクノロジーと新しい働き方を受け入れた事業者が飛躍し、旧態依然とした運営を続ける事業者が淘汰される転換点となる可能性があります。この改定を乗り越えた先に、持続可能な介護事業の未来が開けています。

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