家族の介護や家事、幼いきょうだいの世話を日常的に担う子どもや若者を指す言葉が、ヤングケアラーです。この課題に対し政府は2026年7月23日、こども家庭庁を中心とした関係省庁のプロジェクトチームを通じて新たな支援プランを取りまとめました。プランの内容は、若者世代への支援拡大、家庭全体を支える仕組みづくり、多様なニーズに応じた支援策という3つの柱で構成されています。ヤングケアラーをめぐっては、当事者自身が自分の状況を自覚しにくく、周囲の大人からも見えにくいという特性があります。学校の教員や地域住民が違和感に気づいても、家庭内の事情に踏み込みにくく、支援が届かないまま子どもが過度な負担を抱え続けてしまうケースは少なくありません。今回まとめられた新プランは、こうした表面化しにくさという根本課題にどう向き合うかを示すものといえます。政府がどのような方針を打ち出し、これまでの取り組みとどうつながっているのか、この記事で整理していきます。

新支援プランは2026年7月23日に3つの柱を掲げて公表
こども家庭庁を中心とした関係省庁のプロジェクトチームは、2026年7月23日にヤングケアラーに関する新たな支援プランを取りまとめました。このプロジェクトチームは2026年1月20日に発足した組織で、正式名称は「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・就労・教育の連携プロジェクトチーム」です。こども家庭庁虐待防止対策課を事務局とし、厚生労働省や文部科学省の担当局長級、課長級職員が参加して、福祉、介護、医療、就労、教育という複数の分野を横断しながら支援策を検討してきました。
今回まとまった支援プランの柱は、次の3点です。1つ目が若者世代への支援の推進、2つ目が家庭のまるごとの支援、3つ目が多様なニーズに応える支援策の推進です。いずれも、これまでの支援が学齢期の子どもに偏りがちだったこと、子ども個人への支援にとどまりがちだったこと、画一的な支援メニューでは対応しきれない実態があったことという、従来の課題を踏まえた内容になっています。
柱1、若者世代への支援は18歳を超えても切れ目なく続く
ヤングケアラー支援は、これまで小中学生や高校生といった学齢期の子どもを念頭に語られることが多い分野でした。しかし家族の介護や世話は、年齢を重ねても終わるとは限りません。進学や就職、独立といったライフステージの変化を迎える若者世代にも、支援を切れ目なく届けることが今回のプランでは重視されています。高校卒業後に大学進学を希望していても、家族のケアのために自宅から通える範囲でしか進路を選べなかったり、フルタイムでの就労が難しくアルバイトや非正規雇用にとどまらざるを得なかったりする若者は少なくありません。学校を起点とした支援体制が中心だったこれまでとは異なり、若者世代への支援では大学や専門学校、ハローワークといった機関との連携が新たに重要になってきます。
柱2、家庭のまるごとの支援は家族全体を対象にする
2つ目の柱である家庭のまるごとの支援は、支援の考え方における転換点といえます。子ども本人への相談支援やカウンセリングだけを充実させても、家庭内に介護サービスや家事支援サービスが行き届いていなければ、子どもは結局家族のケアを続けざるを得ません。家庭全体に対する福祉サービスや医療的ケア、経済的支援を組み合わせて提供できれば、子どもが担うべき負担そのものを軽くしていくことができます。介護や医療的ケアを必要とする親やきょうだいがいる家庭そのものを支える視点がなければ、子どもへの負担は形を変えて残り続けてしまう、という認識がこの柱の背景にあります。
柱3、多様なニーズに応える支援策はケアの内容ごとに使い分ける
ヤングケアラーが置かれている状況は、家庭ごとに大きく異なります。障害や病気を抱える親の身体介助を担う子ども、幼いきょうだいの世話を一手に引き受ける子ども、日本語を母語としない家庭で通訳的な役割を果たす子どもなど、ケアの内容や背景は一様ではありません。身体介助を担う子どもには専門的な介護サービスへのつなぎが必要になる一方、通訳役を担う子どもには行政窓口や医療機関での多言語対応の充実が助けになります。幼いきょうだいの世話を担う子どもには、保育サービスの利用支援が直接的な支えになるでしょう。画一的な支援策ではなく、個々の事情に即した多様な支援メニューを用意していく方針が、今回のプランには盛り込まれています。
黄川田仁志こども政策担当大臣はポスターと動画で周知を強化すると表明
新プランの取りまとめにあたり、黄川田仁志こども政策担当大臣は「今後、本プランに基づき、関係省庁、地方公共団体、民間機関等と連携し、ヤングケアラーが過度な負担を抱えることなく自分らしい人生を選択し、将来に希望を持って成長していくことができるよう、支援をより一層進めて参ります」と述べました。
大臣はこの発言に続けて、ヤングケアラー問題の難しさとして、支援が必要であってもそれが表面化しにくいという点を挙げています。この課題に対応するため、ポスターやリーフレットの作成による周知、普及啓発動画による情報発信という具体策が語られました。当事者本人が自分の状況に気づくきっかけを作ると同時に、周囲の大人が早期にサインを察知し、適切な相談窓口へつなげるための土台づくりとして位置づけられています。大臣は、こうした取り組みを通じてヤングケアラー当事者が必要な支援に着実につながるようにしたいという考えを示しました。
ヤングケアラーの定義は2024年6月の法改正で子ども・若者に拡大
ヤングケアラーとは、本来は大人が担うと想定される家事や家族の世話、介護、感情面のケアなどを日常的に行っている子どもや若者を指す言葉です。具体的には、障害や病気のある家族に代わって買い物や料理、洗濯、掃除をこなす、幼いきょうだいの世話をする、家族の入浴や着替えの介助をする、目を離せない家族の見守りをする、日本語が第一言語ではない家族のために通訳をする、アルコールや薬物、ギャンブル問題を抱える家族に対応する、がんや難病、精神疾患など慢性的な病気の家族を看病する、家計を支えるために働いて家族を助けるといった行為が挙げられます。こうしたケアが家族への愛情に基づく自然な助け合いの範囲を超え、子ども自身の学業や友人関係、心身の健康、進路選択にまで悪影響を及ぼすようになったとき、それは看過できない社会課題としてのヤングケアラー問題になります。
この言葉は長らく法律上の定義を持たない状態が続いていましたが、2024年6月5日に子ども・若者育成支援推進法の改正案が国会で可決、成立し、同年6月12日に施行されました。この改正で、ヤングケアラーは初めて「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」として法律上定義されています。国や地方自治体が支援に努めるべき対象として位置づけられたことに加え、対象を子ども・若者とすることで年齢制限が事実上撤廃された点が大きな変更です。これまでは18歳未満を想定した議論が中心でしたが、法改正によって18歳を超えても切れ目なく支援を受けられる枠組みが整いました。家計を支えるための労働や、外国籍の親を持つ家庭での通訳役なども、法律上の日常生活上の世話に含まれ得ることが明確化されています。今回の新支援プランは、こうした法的な位置づけの整備を土台として、より具体的な施策に踏み込んだものです。
全国調査ではヤングケアラーが中学生の5.7%、高校生の4.1%
政府がヤングケアラー支援に本格的に乗り出す契機となったのは、2020年度に厚生労働省と文部科学省が連携して実施した全国調査です。日本で初めての本格的な全国規模の実態調査とされ、結果は社会に大きな衝撃を与えました。世話をしている家族がいると回答した割合は、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%にのぼっています。中学生でおよそ17人に1人、高校生でおよそ24人に1人がヤングケアラーに該当しうる計算になり、推計人数は中学生が約12万人、高校生が約14万人、合計で全国26万人以上とされました。クラスに1人か2人はいてもおかしくない規模で存在する、身近な社会課題だといえるでしょう。
ケアの内容は家事が約7割、身体介助が約2割
ケアの内容についても調査結果が示されています。ヤングケアラーが担っているケアのうち、約70%が料理や洗濯、掃除といった家事で、約20%が高齢者や障害のある家族の身体介助にあたるとされています。家事の負担が中心である一方、身体介助という専門性やリスクを伴うケアを子どもが担っているケースも一定数存在することがわかります。
2022年度からの集中取組期間でコーディネーター配置と相談体制を強化
2020年度の全国調査を受け、政府は2022年度から2024年度までの3年間を集中取組期間と位置づけ、社会的認知度の向上や早期発見、相談支援体制の強化に取り組んできました。この期間中には、自治体における実態調査や教育、福祉、医療関係者向けの研修の実施、ヤングケアラーコーディネーターの配置による関係機関との連携強化、SNSを活用した相談窓口の整備、自治体による家事支援サービスの提供、学校現場における早期発見の仕組みづくりといった施策が進められています。
こうした取り組みを後押ししているのが国による財政支援です。厚生労働省は2022年度にヤングケアラー支援体制強化事業を創設し、実態調査や研修に取り組む自治体に財政支援を行ってきました。この事業は現在こども家庭庁に引き継がれています。2023年度からは国の負担割合が従来の2分の1から3分の2へ引き上げられ、自治体が支援に取り組みやすい環境が段階的に整えられてきました。ヤングケアラーコーディネーターは、学校と市町村の福祉部門をつなぐ調整役です。一部の自治体ではコーディネーターや元教員による巡回相談員がアウトリーチ型の支援を行っており、相談を待つ姿勢から積極的に出向いて把握する姿勢へ転換したことで、これまで表面化しにくかったヤングケアラーの把握が進んだ事例も報告されています。
ヤングケアラー家事等支援事業は無料でヘルパーを派遣
具体的な支援サービスとして代表的なのが、ヤングケアラー家事等支援事業です。家事などの負担によって学業や社会生活に支障が生じているヤングケアラーの家庭に対し、無料で訪問支援員を派遣する仕組みが用意されています。子ども自身が担っていた炊事や洗濯、掃除といった家事を専門の訪問員が代わりに担うことで、子どもの負担を直接軽くすることをねらいとした事業です。
当事者同士のつながりを重視した取り組みも広がっています。ヤングケアラー同士が経験を共有し合うピアサポートや、オンラインサロンといった形での交流の場づくりも、自治体による支援体制構築事業の一環として位置づけられています。同じような経験を持つ仲間と出会うことは、当事者が自分だけではないと感じられる機会になり、孤立感の緩和につながるとされています。新プランが掲げる多様なニーズに応える支援策の推進には、こうした当事者交流の場をさらに広げていくことも含まれると考えられます。
経済的支援は生活保護や給付型奨学金など既存制度の組み合わせが基本
ヤングケアラー専用と銘打った給付金制度は、現時点では整備されていません。そのかわり、既存の各種制度を組み合わせて活用する形が取られています。家計が苦しい家庭に対しては生活保護や生活困窮者自立支援制度、非課税世帯向け給付金などが、学費の負担が課題となっている場合には高等学校等就学支援金や給付型奨学金、就学援助制度などが活用可能とされています。
今回の新プランが掲げる家庭のまるごとの支援は、こうした既存の経済的支援策と福祉サービスを、個々の家庭の状況に応じてより効果的に組み合わせていく方向性を示すものと理解できます。制度を新たにゼロから作るというより、すでにある制度の間の隙間を埋め、必要な家庭に確実に届ける仕組みづくりに重点が置かれているといえそうです。
東京都はヤングケアラー相談支援等補助事業で民間団体と連携
自治体レベルの独自の取り組みも進んでいます。東京都などの一部自治体では、独自にヤングケアラー相談支援等補助事業を設け、民間団体と連携しながら相談支援やピアサポート、家事支援サービスの派遣、コーディネーターの配置に対して補助を行っています。国の新プランが目指す関係省庁、地方公共団体、民間機関等との連携は、こうした地方自治体レベルでの先行的な取り組みを全国に波及させていく狙いも含んでいると見ることができます。
地域ごとの福祉資源の充実度にはばらつきがあるのが実情です。都市部と地方とでは利用可能な福祉サービスの量や質に差があり、プランを実効性のあるものにするには地方自治体との連携強化が欠かせません。
イギリスは2014年の法整備で自治体に発見義務を課す
ヤングケアラーという言葉自体は、1990年代前半のイギリスで関係者の間で使われ始めた言葉です。イギリスにおけるケアラー支援の法的根拠となっているのが、2014年に制定された2014年ケア法と2014年子どもと家族法です。前者は18歳以上の成人ケアラーを対象とし、ケアラーが自治体から必要な支援を受ける権利を明確化しています。後者は18歳未満の子どもを対象とし、自治体に対してヤングケアラーの積極的な発見に向けた行動を義務づけている点が特徴です。イギリスの定義では、家族を主に世話する主介護者だけでなく、それを補助する立場にある子どももヤングケアラーとみなされます。この点は、日本の議論との大きな違いです。
日本とイギリスの制度を比べると、次のような違いがあります。
| 項目 | 日本 | イギリス |
|---|---|---|
| 主な法律 | 子ども・若者育成支援推進法(2024年6月施行) | 2014年ケア法、2014年子どもと家族法 |
| 対象年齢 | 子ども・若者として実質的に上限なし | 2014年子どもと家族法は18歳未満が対象 |
| 発見の仕組み | コーディネーター配置や学校での早期発見 | 自治体に積極的発見の義務あり |
| 民間団体の数 | 自治体ごとの相談窓口や補助事業が中心 | 300を超える支援団体が活動 |
イギリス国内には300を超えるヤングケアラー支援団体が存在し、地域ごとの特性に合わせた支援活動を展開しているとされています。行政による法的な枠組みと、民間団体による草の根の支援活動が両輪となって機能している点は、日本が地方自治体や民間機関との連携を強化していくうえで参考になる部分が多いでしょう。今回の新プランが関係省庁、地方公共団体、民間機関等と連携すると明記している点は、こうした海外の先行事例が示す官民連携の重要性とも重なります。
新プランの実効性は財源確保と地域間格差の解消が課題
今回の新支援プランは、集中取組期間や法改正を踏まえた発展的な施策として評価できます。実際にどこまで実効性を持たせられるかは、今後の運用にかかっている部分が大きいのも事実です。
財源と人員の確保は避けて通れない課題です。ヤングケアラーコーディネーターの配置拡大や、家庭まるごとの支援を実現するための福祉サービスの充実には、当然ながら予算措置が必要になります。地方自治体の財政状況によって支援の手厚さに差が生じないよう、国からの財政支援のあり方が問われることになるでしょう。関係機関同士の連携の実効性も問われます。福祉、介護、医療、就労、教育という複数の分野を横断する支援体制は、理念としては優れていても、実務レベルでは縦割り行政の壁が障害になりやすいものです。プロジェクトチームが発足し省庁横断での検討が進んできたこと自体は前進ですが、それを地域の現場レベルでの連携にまで落とし込めるかが今後の鍵になります。
当事者である子ども・若者自身の声をどれだけ施策に反映できるかという点も見過ごせません。支援策は大人目線で設計されがちですが、ヤングケアラー本人が望む支援と、行政が用意する支援との間にズレが生じることは十分にありえます。当事者団体や経験者の意見を継続的に施策に反映させる仕組みづくりも、今後の検討課題です。
黄川田大臣が述べたように、ヤングケアラーが過度な負担を抱えることなく自分らしい人生を選択し、将来に希望を持って成長していける社会を実現するには、今回の新プランを一過性の発表に終わらせず、継続的に検証、改善していく姿勢が求められます。ポスターや動画による普及啓発が実際に当事者への相談につながっているか、家庭まるごとの支援が現場でどこまで機能しているか、若者世代への支援が進学や就労の選択肢をどれだけ広げているか。こうした点を具体的な数値や事例を通じて検証していくことが、政策の実効性を高めるうえで欠かせません。ヤングケアラーという言葉が社会に広く知られるようになった今だからこそ、支援の中身と実効性が問われる段階に入ったといえます。








