福祉避難所を利用できるのは、要介護3から5の認定を受けた高齢者や、身体障害者手帳1級・2級を持つ人などに限られます。個別避難計画は、こうした人が実際に逃げ遅れないよう、誰が付き添い、どこへ避難するかを一人ひとり書き残しておく計画書です。令和3年の災害対策基本法改正で、市町村にはこの計画をつくる努力義務が課されました。とはいえ、内閣府の調査ではケアマネジャーなど福祉専門職が計画づくりに関わっている自治体はまだ2割程度にとどまっています。この記事では、福祉避難所の対象者の具体的な基準、個別避難計画の作成方法と手順、そして全国の進捗状況を数字とともに整理します。

福祉避難所は要介護3以上と手帳1・2級の人が主な対象
福祉避難所とは、バリアフリー化された施設やトイレ、生活相談員を配置し、一般の指定避難所での共同生活が難しい人を受け入れるために市町村が指定する二次的な避難所です。内閣府は福祉避難所の確保・運営ガイドラインを平成28年4月にまとめ、令和3年5月に改定しました。全国の福祉避難所運営は、このガイドラインを土台にしています。
対象となるのは、要介護3から5の認定を受けた高齢者、身体障害者手帳1級または2級を持つ人、療育手帳(自治体によっては愛の手帳とも呼ばれます)でAの判定を受けた人、精神障害者保健福祉手帳1級または2級を持つ人です。指定難病の患者や、24時間人工呼吸器を装着している人も対象に含まれます。妊産婦や乳幼児、けが人や病弱者も、市町村が必要と認めれば福祉避難所を利用できます。
ただし、常時医療的な管理が必要で入院加療が適切な人や、特別養護老人ホームへの入所が本来必要な人には、医療機関や介護施設が優先されます。福祉避難所は、在宅で生活していた人が災害時に一時的な配慮を受けながら過ごすための場所であって、医療や介護の代わりにはなりません。
福祉避難所の対象者チェック表
| 区分 | 具体的な基準 |
|---|---|
| 要介護度 | 要介護3から要介護5 |
| 身体障害 | 身体障害者手帳1級・2級 |
| 知的障害 | 療育手帳A(愛の手帳などを含む) |
| 精神障害 | 精神障害者保健福祉手帳1級・2級 |
| 難病 | 指定難病の患者 |
| 医療的ケア | 24時間人工呼吸器装着者 |
| その他 | 妊産婦、乳幼児、けが人、病弱者など市町村が認めた人 |
福祉避難所は要配慮者10人に生活相談員1人を配置する
福祉避難所の運営体制にも内閣府の基準があります。人員配置の目安は、要配慮者おおむね10人に対して生活相談員1人です。生活相談員や福祉専門職は必ずしも施設に常駐している必要はなく、要配慮者の状態に応じて確保できれば足りるとされています。
市町村は、こうした専門人材を確保するための要請先リストをあらかじめ整備し、福祉関係団体や事業所と協定を結んでおくことが求められます。施設管理者と連携して要配慮者の生活環境を整えることも、ガイドラインが重視しているポイントです。
福祉避難所には二つの種類があります。あらかじめ受け入れ対象者を施設側と調整しておき、災害発生時に一般避難所を経由せず直接避難できる指定福祉避難所と、まず一般の指定避難所に避難したうえで支援が必要と判断された人が振り分けられる協定福祉避難所です。名古屋市など複数の自治体が、この二本立ての仕組みを採用しています。
福祉避難所として指定される施設の数も増えてきました。令和元年10月時点で全国8,683箇所という調査結果があり、市町村が特別養護老人ホームや障害者支援施設との協定を積み重ねてきた結果です。施設数が増えても、実際に受け入れられる人数には限りがあるため、事前の対象者調整が欠かせません。
かつて福祉避難所への直接避難は制度上想定されておらず、必ず一般避難所を経由する運用でした。しかし、避難所を転々とすることで体調を崩す人が相次いだため、内閣府はガイドラインを見直し、個別避難計画とあわせて事前に受け入れ対象者を調整しておけば直接避難できる仕組みを新たに位置づけました。
指定福祉避難所と協定福祉避難所の違い
| 種類 | 避難のタイミング | 特徴 |
|---|---|---|
| 指定福祉避難所 | 災害発生時に直接避難 | 受け入れ対象者を事前に調整済み |
| 協定福祉避難所 | 一般避難所を経由してから避難 | 現地で支援の必要性を判断してから振り分け |
個別避難計画は避難行動要支援者名簿と役割が違う
個別避難計画とは、自力での避難が難しい避難行動要支援者一人ひとりについて、誰が支援し、どこに避難し、どんな配慮が必要かをまとめた計画書です。避難支援者の氏名や連絡先、避難先の施設名、避難経路上の危険箇所やスロープの有無などが具体的に書き込まれます。
似た制度に避難行動要支援者名簿がありますが、両者の役割は違います。市町村は平成25年の災害対策基本法改正で名簿の作成を義務づけられ、現在は全国のほぼすべての市町村、約99%で整備を終えています。ただ、名簿に名前が載っているだけでは、実際に誰が助けに行くのか、どこへ逃げればよいのかまでは決まりません。名簿が対象者の一覧だとすれば、個別避難計画はその一覧に載った一人ひとりの避難支援の中身を定める実行計画にあたります。
高齢者の水害犠牲者は台風19号で65%、令和2年7月豪雨で79%
個別避難計画の整備が急がれてきた理由は、過去の水害の犠牲者統計に表れています。令和元年東日本台風(台風19号)では、犠牲者に占める65歳以上の高齢者の割合が約65%にのぼりました。令和2年7月豪雨では、この割合はさらに高く約79%に達しています。被災地全体で見ても、死者数に占める65歳以上の高齢者の割合はおおむね6割前後で推移し、障害者の死亡率は被災住民全体の死亡率のおよそ2倍です。
東日本大震災でも同じ傾向がありました。避難そのものが遅れる人、避難できても避難所の環境に適応できず体調を崩し災害関連死に至る人が後を絶ちませんでした。こうした被災の実態が積み重なり、令和3年の法改正につながっています。
個別避難計画は2021年の法改正で市町村の努力義務に
個別避難計画が全国的な制度になったのは、令和3年5月の災害対策基本法改正です。この改正で、市町村長は地域防災計画の定めに従い、名簿に載った避難行動要支援者ごとに個別避難計画を作成するよう努めなければならないという規定、災害対策基本法第49条の14が新設されました。
背景にあるのは、平成25年に名簿づくりが義務化されたあとも、高齢者や障害者の被災が続いたという現実です。西日本豪雨や令和元年東日本台風の被災状況は、名簿だけでは実際の避難支援につながらないという課題を浮き彫りにしました。あわせて内閣府は、避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針も令和3年5月に改定し、作成手順や優先順位の考え方、市町村・福祉専門職・地域住民の役割分担を具体的に示しています。
優先度の高い対象者からおおむね5年で計画をつくる
個別避難計画の作成対象は、基本的には避難行動要支援者名簿に登録された全員です。ただ、対象者数が多い自治体では一斉に作成するのは現実的でないため、内閣府の取組指針は優先度の高い人から段階的に進める考え方を示しています。
優先度が高いとされるのは、要介護3から5の高齢者のうちハザードマップ上で危険とされる区域に住む人、身体障害者手帳1級・2級を持つ人や重度以上の知的障害者のうち独居や夫婦二人暮らしで身近に支援者がいない人、地域とのつながりが薄い人、過去の災害で避難に支障が出た経験がある人です。市町村は地域防災計画にこうした対象者を定め、おおむね5年程度で計画作成を終えることが目標です。全員を一律に扱うのではなく、支援が急がれる人から着実に仕上げていくのが国の基本方針です。
作成方法はケアマネジャー、本人・家族、地域協力の3通り
個別避難計画のつくり方には、大きく3つの方法があります。
一つ目は福祉専門職による作成です。市町村が委託した福祉事業所のケアマネジャーや相談支援専門員が、本人や家族、地域の関係者と連携しながら作成します。介護支援専門員や相談支援専門員は日頃のケアプラン作成を通じて対象者の心身の状況をよく把握しており、本人との信頼関係も築けているため、内閣府の取組指針はこの方法を効果的だとしています。ケアプランの見直し時期に合わせて計画も更新すれば、災害時のケア継続にもつながります。
二つ目は本人・家族による自主作成です。多くの自治体が、避難先シート、避難経路シート、持ち物準備シートといった様式をホームページで公開しており、専門職の関与を待たずに本人や家族だけで着手することもできます。
三つ目は地域との協力による作成です。民生委員や自主防災組織、自治会・町内会といった地域の支援者と一緒につくる方法で、身近に頼れる家族がいない一人暮らしの高齢者などにはこの関わり方が重要になります。
個別避難計画をつくる手順
| 段階 | やること |
|---|---|
| 1 | 市町村が名簿をもとに対象者へ作成の案内を送る |
| 2 | ケアマネジャーや家族が本人と面談し、作成の意向を確認する |
| 3 | 個人情報の取扱いを説明し、同意確認書に署名してもらう |
| 4 | ハザードマップで自宅の浸水・土砂災害リスクを確認する |
| 5 | 心身の状況や必要な配慮を聞き取る |
| 6 | 避難支援者を具体的に決める |
| 7 | 避難先(指定福祉避難所、福祉避難スペース、親戚宅など)を決める |
| 8 | 避難経路上の段差やスロープの有無を記載する |
| 9 | 完成した計画書を関係者で共有する |
| 10 | 状況の変化に応じて定期的に見直す |
記載項目は氏名、避難支援者、避難先など8つ
個別避難計画に書き込む項目はおおむね決まっています。本人の氏名、生年月日、性別、住所または居所、連絡先、避難支援を必要とする事由(要介護度や障害の種類・等級、病歴など)、避難支援を行う人の氏名と連絡先、避難先の名称、避難経路上の危険箇所やスロープの有無、緊急連絡先、心身の状況に応じて避難支援者が留意すべき事項です。これらを一つの様式にまとめておけば、災害発生時に支援者が迷わず動けます。詳しい書式は自治体ごとに違うため、居住地の市区町村が公開している様式やマニュアルを確認してください。
全国の着手率は9割超、福祉専門職の参画は2割どまり
令和5年6月の内閣府・消防庁の調査では、個別避難計画の作成に着手している市町村は1,581団体、全体の91.8%でした。未着手だったのは141団体、8.2%です。着手率自体は高い水準に達していますが、実際に作成が完了した対象者の割合や計画の質には課題が残っています。
内閣府の取組指針は、ケアマネジャーや相談支援専門員といった福祉専門職の参画を計画づくりの前提として重視しています。ところが同じ調査の時点で、福祉専門職が実際に参画している自治体は約20%にとどまり、検討中の自治体を合わせても3分の2程度でした。防災部局と福祉部局といった庁内の連携、社会福祉協議会や地域の医療・介護事業者との庁外連携についても、実施中と答えた自治体は36.8%にとどまっています。
この状況を受けて内閣府は、令和6年度に個別避難計画推進全国協議会を開き、庁外関係者との連携強化や優良事例の共有を後押ししました。令和7年1月の同協議会では、庁外関係者との連携による作成推進についての資料が示され、福祉専門職の活用と地域との協働の重要性が改めて確認されました。
自治体事例は明石市の案内、松本市の「私の避難計画」など
自治体ごとに、地域事情に応じた取り組みが進んでいます。明石市は個別避難計画の作成について市のホームページで案内し、対象者や作成の流れを説明しています。松本市は「私の避難計画」という愛称で計画を位置づけ、住民が主体的に取り組めるよう工夫しました。船橋市は自助・共助の観点から作成を呼びかけ、大田区は本人や家族が自ら作成できる様式を公開しています。横浜市は福祉部局が中心となって計画づくりを進め、地域福祉の枠組みに位置づけました。
練馬区は個別避難計画作成支援者向けのマニュアルをつくり、支援者がどのような手順で本人と関わればよいかを詳しく解説しています。大和郡山市は、ケアマネジャーや相談支援専門員、福祉事業者向けに災害時ケアプラン作成の手引きを整備し、通常のケアプラン業務と個別避難計画の作成を一体的に進められるようにしました。これらの事例に共通するのは、本人・家族任せにせず、福祉専門職や地域の支援者を巻き込んでいる点です。
避難支援者は自治会や自主防災組織などの団体も担える
個別避難計画の避難支援者には、自治会・町内会や自主防災組織といった団体もなることができます。特定の個人だけに指名を集中させると、その人自身が被災したり不在だったりしたときに支援が機能しなくなるためです。避難支援者の同意を得る際に、個人だけでなく地域の団体としての関わり方を含めて調整する自治体が増えています。
訓練と個人情報同意が計画の実効性を左右する
個別避難計画は作成して終わりではありません。実際に避難訓練を通じて内容を検証し、必要に応じて見直すことで初めて機能します。常総市や富士市、永平寺町などが公表している啓発資料でも、訓練に参加する、避難を体験する、避難所に行ってみるという段階を踏みながら、本人・家族・避難支援者が計画の内容を実際に体感していくことの大切さが強調されています。マイタイムラインの考え方と組み合わせて、いつ、誰が、どのタイミングで声をかけ避難を始めるのかを具体的にイメージしておくことも役立ちます。
計画の作成には、本人の氏名や住所、心身の状況といった個人情報を避難支援者の候補者や福祉避難所の施設管理者に提供することへの同意も欠かせません。情報が誰に、どの範囲まで共有されるのかを明確にし、本人や家族が納得して署名できるよう、福祉専門職や市町村職員が丁寧に説明することが求められます。
令和6年度モデル事業が直接避難の調整を後押しした
内閣府は、個別避難計画の作成が進まない市町村を後押しするため、令和6年度に個別避難計画作成モデル事業(加速化促進事業等)を実施しました。都道府県や市町村の取り組みを支援し、地域の実情に応じた実施例を集めて、他の自治体が参考にできるノウハウの土台をつくることが狙いでした。
あわせて内閣府は、福祉避難所への直接避難を促す観点から、地区防災計画や個別避難計画の作成過程を通じて、福祉避難所ごとに受け入れ対象者をあらかじめ調整しておくことが適当だとしています。こうした事前調整の積み重ねが、災害発生時に一般避難所を経由せず必要な人が必要な福祉避難所へたどり着ける体制につながります。
別府市や富士市は庁内連携など4つの取り組みで計画を前進させた
内閣府は、個別避難計画の実効性を高めるポイントとして、庁内の関係部署が情報を共有する庁内連携、自主防災組織や民生委員が参画する庁外連携、本人の信頼につながる福祉専門職の参画、計画の見直しに直結する避難訓練の実施の4つを挙げています。この4つがそろって初めて、書類上の計画にとどまらず実際の災害時に機能する仕組みになります。
令和6年度には、こうした考え方を踏まえた取り組みが各地で報告されました。別府市はインクルーシブ防災の観点から計画づくりを進め、四条畷保健所は人工呼吸器を装着する難病児者を対象にした作成支援に取り組みました。青森県小児在宅支援センターは医療的ケア児のための個別避難計画マニュアルを整備し、高知県黒潮町は実効性のある計画の策定に力を入れました。愛知県岡崎市は地域と一緒に育てる計画づくりを進め、静岡県富士市は防災アプリを活用して周知と更新を図りました。対象者の特性や地域の実情に応じて手法を組み合わせることの大切さが、これらの事例から見えてきます。
対象に当てはまるなら担当のケアマネジャーに相談する
要介護3以上の認定を受けている人、身体障害者手帳1級・2級を持つ人、療育手帳Aや精神障害者保健福祉手帳1級・2級を持つ人は、福祉避難所と個別避難計画のどちらの対象にもなり得ます。名簿に載っているだけでは、災害時に誰が助けに来るのかは決まりません。担当のケアマネジャーや相談支援専門員がいるなら、次回のケアプラン見直しのタイミングで個別避難計画の作成を相談してみてください。身近に専門職がいない場合は、市区町村の窓口で様式を取り寄せ、家族や近所の自主防災組織と一緒に記入を進めるのがよいでしょう。
計画は一度作って終わりではなく、要介護度や住環境が変わるたびに見直しが必要です。年に一度の防災訓練のタイミングなどを使って、避難経路や避難先が実際に機能するかを確認しておけば、いざというときに慌てずに済みます。








