日本社会は今、かつてない高齢化の波に直面しています。その中で特に深刻な課題となっているのが、身寄りのない高齢者の増加です。生涯未婚率の上昇や核家族化の進展により、頼れる家族や親族がいないまま高齢期を迎える方が急増しており、入院時の身元保証、日常的な金銭管理、そして死後の手続きなど、これまで家族が担ってきた役割を誰が支えるのかという問題が顕在化しています。こうした状況を受けて、厚生労働省は2025年に身寄りのない高齢者への支援を全国制度化する方針を決定しました。この画期的な取り組みは、社会福祉法の改正を通じて実現される予定で、すべての高齢者が安心して暮らせる社会の構築を目指すものです。本記事では、この全国制度化の背景、具体的な内容、期待される効果、そして今後の課題について、詳しく解説していきます。

急増する身寄りのない高齢者の実態
国立社会保障・人口問題研究所が2024年に公表したデータは、衝撃的な将来予測を示しています。2020年時点で65歳以上の単独世帯のうち、未婚率は男性で33.7パーセント、女性で11.9パーセントでしたが、2050年には男性で59.7パーセント、女性で30.2パーセントまで上昇すると予測されているのです。この数字は、今後数十年の間に、身寄りのない高齢者が社会の中で大きな割合を占めるようになることを意味しています。
生涯未婚率の上昇には、さまざまな社会的背景があります。経済的な理由で結婚を選択しない若者の増加、働き方の多様化、価値観の変化などが複雑に絡み合っています。また、結婚していても離婚や死別により単身となる方、子どもがいても疎遠になってしまった方など、身寄りのない状況に至る経緯は一様ではありません。核家族化の進展も、この問題をさらに深刻化させています。かつては三世代同居が一般的で、親族ネットワークの中で高齢者を支える仕組みが自然に機能していました。しかし現代では、親子であっても別々に暮らすことが当たり前となり、地理的な距離が支援を困難にしています。
こうした状況の中で、身寄りのない高齢者は生活上の多様な課題に直面しています。入院や施設入所の際の身元保証、日常的な金銭管理、病院への付き添い、重要書類の保管、そして死後の手続きなど、これまで家族や親族が自然に担ってきた役割を、誰にも頼ることができないのです。調査によると、90パーセント以上の医療機関や介護施設が入院・入所の際に保証人を求めているという現状があり、保証人がいないことで必要な医療や介護サービスを受けられない、または受けるまでに時間がかかるという深刻な事態が生じています。
2025年5月の歴史的決定
厚生労働省は2025年5月28日、「地域共生社会の在り方検討会議」において中間とりまとめを決定しました。この中間とりまとめは、身寄りのない高齢者支援の歴史において、重要な転換点となる内容を含んでいます。具体的には、身寄りのない高齢者の生活上の課題に対して相談支援を行う新事業の創設が盛り込まれ、社会福祉法を改正してこの新事業を第二種社会福祉事業として位置付ける方針が示されたのです。
厚生労働省は、2026年の通常国会への改正法案提出を目指しており、法改正が実現すれば、身寄りのない高齢者への支援が法的な基盤を持つ公的な制度として全国で展開されることになります。これは単なる努力目標や自治体の任意事業ではなく、法律に基づいた公的制度として全国統一的に実施されるという点で、画期的な意味を持っています。
この決定に至るまでには、長年の議論と検討がありました。各地の自治体では、身寄りのない高齢者からの相談が増加しており、現場レベルでの対応に苦慮していました。民間の身元保証サービスも増加していましたが、費用が高額であることや、サービスの質にばらつきがあること、事業者の継続性に不安があることなど、さまざまな課題が指摘されていました。こうした状況を踏まえ、公的な支援制度の整備が急務であるという認識が広がり、今回の全国制度化の決定に結びついたのです。
新事業の具体的な支援内容
新たに創設される支援事業は、現行の日常生活自立支援事業を拡充する形で実施されます。日常生活自立支援事業は、これまで主に認知症高齢者や知的障害者、精神障害者など、判断能力が不十分な方を対象として、都道府県・指定都市社会福祉協議会が実施してきた事業です。この実績のある事業の対象者を身寄りのない高齢者にも拡大し、より包括的な支援を提供することが計画されています。
新事業で提供される支援の第一は、入院や施設への入所手続きの支援です。多くの医療機関や介護施設では、入院・入所の際に身元保証人を求めることが一般的です。身元保証人は、緊急時の連絡先、医療費などの支払いの保証、本人の身柄の引き取りなどを担うことが期待されていますが、身寄りのない高齢者はこの保証人を確保することが困難です。医療機関や施設側が保証人を求める主な理由は、医療費や施設利用料の未払いリスク、緊急時の連絡先の確保、本人が亡くなった際の身柄の引き取りや遺品の処理などへの懸念です。特に、死亡後の費用回収ができなくなることへの不安が大きいとされています。新事業では、こうした医療機関や施設側の懸念に対応しながら、身寄りのない高齢者が円滑に入院・入所できるよう支援します。
第二の支援内容は、日常的な金銭管理です。銀行での預金の出し入れや公共料金の支払い、福祉サービスの利用に関する契約手続きなど、日常生活に必要な金銭管理をサポートします。また、通帳、印鑑、証書などの重要書類の預かりや保管も行います。高齢になると、特に認知機能が低下した場合、自分で財産を管理することが難しくなりますが、それを支援してくれる家族がいないと、悪質な業者による被害に遭うリスクも高まります。専門的な知識を持った職員が適切に財産管理を支援することで、高齢者の財産を守り、安心して日常生活を送れるようにします。
第三の支援内容は、死後事務の代行です。身寄りのない方が亡くなった場合、遺品整理、葬儀の手配、各種契約の解約、財産の処分など、多くの事務が発生します。従来、これらは家族や親族が担っていましたが、身寄りのない方の場合、これらの手続きが滞ることが社会的な問題となっていました。自治体が民生葬として火葬を行う仕組みはありますが、遺体はすぐには火葬されず、まず遺体安置所に置かれ、子どもや兄弟姉妹などの親族を探す作業が行われます。親族が見つかっても相続放棄や引き取り拒否をするケースもあり、遺体が長期間安置されることもあります。賃貸住宅に住んでいた場合、大家や管理会社が家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立て、その管理人が遺品整理や契約解除を行うことになりますが、手続きには時間と費用がかかります。孤独死の場合の遺品整理費用は、特殊清掃や原状回復を含めて平均約61万円とされています。新事業では、本人との生前の契約に基づいて、これらの死後事務を代行することが計画されており、本人の意思を尊重しながら、尊厳ある最期を支えることを目指しています。
社会福祉協議会を中心とした実施体制
新事業は、社会福祉協議会を主な実施主体として想定されています。社会福祉協議会は、地域福祉の推進を図ることを目的とする民間の社会福祉法人で、全国の都道府県および市区町村に設置されています。これまでも日常生活自立支援事業を実施してきた実績があり、地域に密着した支援を提供できる組織として位置付けられています。利用者にとっても、全国どこに住んでいても最寄りの社会福祉協議会を通じて支援を受けられるという利点があります。
ただし、増加するニーズに対応するため、社会福祉協議会だけでなく、多様な主体の参画も明記されています。NPO法人や民間事業者など、身寄りのない高齢者支援の経験やノウハウを持つ組織も参画できる仕組みが検討されています。事業を実施する組織は、都道府県への登録が必要となり、一定の要件を満たすことが求められます。不適切な運営を行う事業者に対しては、制限や業務停止命令などの措置が取られる仕組みも検討されており、サービスの質の確保と利用者保護が重視されています。
また、事業は第二種社会福祉事業として法的に位置付けられるため、一定の公的な監督の下で運営されることになります。これにより、民間サービスに比べて透明性が高く、信頼できる支援が提供されることが期待されています。都道府県による監督や指導、定期的な報告義務などを通じて、事業の適正な運営が確保されます。
孤独死の深刻な実態
身寄りのない高齢者の問題を考える上で、孤独死と社会的孤立の実態を理解することは極めて重要です。2024年、警察庁が初めて全国規模で集計したデータによると、65歳以上の高齢者の孤独死は5万8000人に上りました。全年齢では、2024年に自宅で死亡し、8日以上発見されなかった人は2万1856人でした。これらの数字は、現代日本社会が抱える深刻な課題を浮き彫りにしています。
東京23区では、2019年に65歳以上の一人暮らしの高齢者が自宅で死亡したケースが3936件あり、この数は年々増加しています。2015年と比較すると800件以上増加しており、2003年の1441件から2018年の3867件へと、15年間で約2.7倍に増加しているという統計があります。都市部における孤独死の増加は、地域コミュニティの希薄化や隣人との関係性の変化を反映しています。
社会的孤立の状況も深刻です。一人暮らしの高齢者のうち、50.8パーセントが孤独死を現実的な不安として感じています。2020年時点で65歳以上の単身世帯は702万世帯でしたが、2040年には896万世帯に達すると予測されています。一人暮らしの高齢男性のうち、52.0パーセントが近隣住民とは挨拶をする程度の関係しかなく、親密な関係を持つ人はわずか16.7パーセントにとどまっています。このような社会的孤立が、孤独死のリスクを高める大きな要因となっているのです。
健康状態の変化を見守る人がいない、病院への付き添いや買い物の手伝いをしてくれる人がいない、入院中や施設入所中の日常的な用事を代行してくれる人がいないなど、日々の生活の中で小さな困りごとが積み重なっていきます。こうした日常的な支援者の不在が、生活の質の低下や健康リスクの増大につながっています。
これらの問題に対応するため、厚生労働省は2008年に「高齢者等が一人でも安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議」を設置し、孤独死を防ぐための地域づくりを推進してきました。各地方自治体では、警察、民生委員、ボランティア、NPOなどと協力して、見守り活動などの取り組みを実施しています。しかし、こうした取り組みだけでは増加するニーズに対応しきれず、より包括的な公的支援制度の必要性が高まっていたのです。
民間サービスの現状と課題
身寄りのない高齢者を支援する民間サービスは、近年増加しています。これらは「身元保証サービス」「終身サポート事業」などと呼ばれ、入院・入所時の身元保証、日常生活の支援、死後事務などを有償で提供しています。需要の高まりを受けて、さまざまな事業者が参入していますが、いくつかの深刻な課題が指摘されています。
第一の課題は、費用が高額であることです。サービスの内容にもよりますが、初期費用として数十万円から数百万円、月額費用として数万円を要するケースが多く、低所得の高齢者には利用が困難です。年金だけで生活している高齢者にとって、これらの費用を負担することは現実的ではありません。結果として、経済的に余裕のある一部の高齢者しかサービスを利用できず、本当に支援が必要な低所得の高齢者が取り残されるという問題が生じています。
第二の課題は、サービスの質や信頼性にばらつきがあることです。事業者によっては、契約内容が不明確であったり、預けた財産が適切に管理されなかったりするトラブルも報告されています。特に、死後事務に関する契約では、実際にサービスが提供されるのは契約者が亡くなった後であるため、契約通りに履行されたかどうかを確認することが困難です。悪質な事業者の中には、高額な費用を前払いで受け取りながら、実際には十分なサービスを提供しないケースもあります。
第三の課題は、事業者の継続性の問題です。長期にわたる契約を結んでも、事業者が倒産したり廃業したりすれば、契約が履行されなくなるリスクがあります。実際に、事業者の倒産により、前払いした費用が返還されず、必要な支援も受けられなくなったという事例も報告されています。高齢者にとって、事業者の経営状況や将来性を見極めることは容易ではありません。
こうした状況を受けて、政府は2024年6月11日に「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を公表しました。このガイドラインは、内閣官房、内閣府孤独・孤立対策推進室、金融庁、消費者庁、総務省など、複数の政府機関が連携して策定したもので、契約時の説明義務、財産管理の透明性、本人の意思の尊重、個人情報の保護など、事業者が守るべき基準が示されています。また、金融機関の手続きや携帯電話の解約など、様々な場面での事業者の活動について、関係機関との調整が進められています。
ただし、このガイドラインは法的拘束力を持つものではなく、あくまで事業者の自主的な遵守を期待するものです。そのため、悪質な事業者を完全に排除することは難しく、やはり公的な支援制度の整備が求められていました。新たな全国制度は、こうした民間サービスの限界を補い、すべての高齢者が安心して利用できる公的な支援体制を構築することを目指しているのです。
新制度がもたらす期待される効果
厚生労働省が進める新たな支援制度は、多くの効果が期待されています。第一に、低所得者や資産の少ない高齢者も支援を受けられるようになることです。新事業では、利用料金を所得や資産に応じて設定し、低所得者は無料または低額で利用できる仕組みが検討されています。これにより、経済的な理由で支援を受けられなかった方々にも、必要なサービスが届くようになります。現行の日常生活自立支援事業でも、地域によって減免措置が設けられており、生活保護受給世帯は無料で利用できる自治体もあります。新事業でも同様の配慮がなされる見込みです。
第二に、サービスの質と信頼性の向上です。社会福祉法に基づく事業として位置付けられ、都道府県による監督が行われるため、民間サービスに比べて透明性が高く、信頼できる支援が提供されることが期待されます。事業者は都道府県への登録が必要となり、定期的な報告や監査を受けることになります。不適切な運営を行う事業者に対しては、改善指導や業務停止命令などの措置が取られる仕組みも整備されます。
第三に、全国どこでも支援を受けられる体制の構築です。社会福祉協議会は全国の自治体に設置されているため、都市部だけでなく地方在住の高齢者も支援を受けることができます。これまで、身寄りのない高齢者への支援は自治体によって対応にばらつきがあり、手厚い支援を行う自治体がある一方で、ほとんど支援がない自治体もありました。全国制度化により、住んでいる場所によって受けられる支援に大きな差が生じることが解消されます。
第四に、切れ目のない支援の提供です。生前の相談から日常生活の支援、死後事務まで、一連の支援を一つの事業で提供することで、利用者は複数の事業者と契約する必要がなくなり、安心して生活を続けることができます。これまでは、入院時の身元保証は民間の保証サービス、日常的な金銭管理は別の事業者、死後事務はさらに別の事業者と、それぞれ個別に契約する必要があり、高齢者にとって大きな負担となっていました。一つの窓口で包括的な支援を受けられることは、利用者の利便性を大きく向上させます。
第五に、医療機関や介護施設の受入れの円滑化です。公的な支援制度が整備されることで、身元保証の問題が解消され、身寄りのない高齢者の入院や施設入所がスムーズに進むことが期待されます。医療機関や施設側も、公的な制度による支援があれば、安心して受け入れることができます。これにより、身寄りがないことを理由に必要な医療や介護を受けられないという事態を防ぐことができます。
先進的な自治体の取り組み事例
全国制度化に先駆けて、一部の自治体では独自の取り組みを進めています。これらの先進事例は、全国制度の設計においても参考とされています。
新潟県魚沼市では、入院や入所の際に本来なら家族が担う役割を代わって担う「支援チーム」を作るためのツールとして「役割分担シート」を作成しました。このシートを用いて、本人に関係しそうな機関が参集し、本人のその後の支援をスタートさせるきっかけとしています。医療機関、介護事業所、社会福祉協議会、行政など、多様な関係者が連携して支援にあたる仕組みを構築しており、身寄りのない高齢者一人ひとりに対して、地域全体でサポートする体制が整っています。
千葉県船橋市では、2025年10月1日から「身寄りのない高齢者等サポート事業」を開始しました。船橋市社会福祉協議会に委託して包括的な相談窓口を開設し、亡くなられた後の葬儀、火葬、納骨等に関する死後事務サービス、定期的な安否確認を行う見守り・安否確認サービス、入退院時の付き添いなどを行う入退院時等支援サービスをパッケージで提供しています。これらのサービスを一体的に提供することで、利用者は様々な場面で継続的な支援を受けることができます。
福岡市では、映像通話による高齢者の見守りサービスを導入しているほか、葬儀・納骨・遺品処分など死後の事務処理を実施する取り組みを行っています。ICT技術を活用した見守りは、対面での訪問が難しい場合でも定期的に安否を確認できるという利点があります。
日本総合研究所の調査によると、自治体の7割から9割が在宅生活・入退院・転居の場面で相談を受けた経験を持ち、死後対応では4割前後の自治体が相談を受けた経験があります。自治体は、介護保険の利用に関連する場面や、死亡届や火葬許可書といった公的手続きに関連する場面、転居先の検討場面では支援を実施する割合が高い一方、多くの場面について支援を実施しないと回答した割合も高く、自治体によって対応にばらつきがあることが明らかになっています。総務省では「身寄りのない高齢者の入院、入所に係る支援の取組事例集」を公表し、全国の自治体の参考となる取り組みを紹介しています。
これらの先進事例から学べることは、身寄りのない高齢者への支援には、多機関・多職種の連携が不可欠であるということです。医療、介護、福祉、行政など、様々な分野の専門家が協力し、それぞれの専門性を活かしながら包括的な支援を提供することが、効果的な支援につながります。
成年後見制度との適切な連携
身寄りのない高齢者への支援を考える上で、成年後見制度との連携は重要な課題です。成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方の財産管理や身上保護を支援する制度で、法定後見と任意後見の二つの仕組みがあります。本人の後見人となるべき親族が見当たらないケースが増加しており、市区町村長による申立てが大幅に増加しています。
身寄りのない高齢者等の増加により、各自治体では財源や人員などの制約がある中で、市区町村長申立ての対応が課題となっています。地域共生社会における、身寄りのない高齢者等が抱える課題等への対応および多分野の連携・協働の在り方が検討課題として挙げられています。
医療従事者と成年後見人等が連携する際の具体的役割については、厚生労働省が「身寄りがない人の入院および医療における意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を策定しています。このガイドラインでは、医療機関が身寄りのない患者に対してどのように対応すべきか、成年後見人等とどのように連携すべきかについて示されています。特に、医療行為への同意や延命治療に関する意思決定など、重要な場面での対応方法が詳しく解説されています。
新たな支援事業と成年後見制度の関係については、適切な役割分担が必要です。日常生活自立支援事業は、判断能力が一定程度保たれており、契約の内容を理解できる方を対象としています。一方、成年後見制度は、判断能力が著しく低下し、自分で契約を結ぶことが困難な方を対象としています。したがって、本人の判断能力の状態に応じて、適切な制度を選択し、必要に応じて両制度を併用することも考えられます。
地域包括支援センターをはじめ、医療・介護・福祉の関係機関が相談や連携をしていくことが求められており、新たな支援制度においても、成年後見制度との適切な連携と役割分担が、制度設計の重要なポイントとなっています。
地域包括ケアシステムと地域共生社会の理念
身寄りのない高齢者への支援は、地域包括ケアシステムおよび地域共生社会の構築という、より大きな政策の枠組みの中に位置付けられています。これらの理念を理解することは、新たな支援制度の意義を深く理解するために重要です。
地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される仕組みです。厚生労働省は2025年までにこのシステムを構築することを目標としています。このシステムは、住まい、医療、介護、予防、生活支援・福祉サービスという5つの要素から構成されています。
これらを効果的に提供するためには、自助、互助、共助、公助という4つの助け合いの仕組みが必要で、地域住民、介護事業者、医療機関、町内会、自治体、ボランティアなどが協力して取り組むことが求められます。自助とは自分自身でできることを行うこと、互助とは地域住民同士の助け合い、共助とは介護保険などの社会保険制度、公助とは税金による公的支援を指します。
既存の介護保険サービスだけでは高齢者を支えることができず、核家族化の進展により単身高齢世帯が増加していることが、地域全体でケアを提供する必要性を高めています。特に身寄りのない高齢者にとっては、互助や共助の仕組みが十分に機能することが、安心して暮らすための鍵となります。
地域共生社会とは、制度や分野の枠や、支える側と支えられる側という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会のことです。この理念は、高齢者だけでなく、障害者、子育て世帯、生活困窮者など、様々な困難を抱える人々が、排除されることなく地域の中で支え合いながら暮らせる社会を目指すものです。
身寄りのない高齢者への支援は、この地域包括ケアシステムと地域共生社会の理念を具体化する重要な取り組みの一つとして位置付けられています。家族がいないからといって必要な支援を受けられないのではなく、地域社会全体で支える仕組みを作ることが、誰もが安心して暮らせる社会の実現につながるのです。
今後の課題と展望
新たな支援制度の創設に向けては、いくつかの課題も指摘されています。第一に、実施体制の整備です。社会福祉協議会を主な実施主体とする方針ですが、増加するニーズに対応するためには、十分な人員と予算の確保が必要です。特に、専門的な知識を持った職員の育成や配置が課題となります。身寄りのない高齢者への支援には、福祉、医療、法律など、幅広い知識が求められます。また、死後事務など、デリケートな問題にも対応できる人材が必要です。
第二に、多様な主体との連携です。社会福祉協議会だけでなく、NPO法人、民間事業者など、多様な主体が参画することが想定されていますが、これらの組織間での連携や役割分担、サービスの質の統一などが課題となります。それぞれの組織が持つ強みを活かしながら、利用者にとって分かりやすく、使いやすい仕組みを作ることが重要です。
第三に、本人の意思の尊重と権利擁護です。支援を受ける高齢者の中には、認知機能の低下により判断能力が不十分な方も含まれます。そのような方々の意思を適切に把握し、尊重しながら支援を提供するための仕組みづくりが必要です。成年後見制度との連携も重要になります。特に、延命治療や終末期医療に関する意思決定、財産の処分方法など、重要な決定については、本人の意思を最大限尊重する必要があります。
第四に、死後事務の法的整理です。死後事務を生前契約に基づいて代行することについて、法的な整理が必要な部分があります。特に、財産の処分や相続に関わる部分については、慎重な検討が求められます。現行法では、死後の事務については本人の意思だけでなく、相続人の権利も関係するため、両者のバランスをどう取るかが課題です。
第五に、制度の周知と利用促進です。せっかく制度が整備されても、必要な人に情報が届かなければ意味がありません。制度の内容を広く周知し、利用しやすい仕組みを作ることが重要です。特に、社会的に孤立している高齢者に情報を届けるためには、地域の民生委員、医療機関、介護事業者など、様々なルートを通じた情報発信が必要です。
今後、2026年の法改正に向けて、これらの課題に対する具体的な対応策が検討されていくことになります。法改正後も、制度の運用状況を継続的に評価し、必要に応じて改善を重ねていくことが求められます。利用者の声を聞きながら、より使いやすく、より効果的な制度へと発展させていくことが重要です。
国際的な視点から見た日本の取り組み
身寄りのない高齢者への支援は、日本だけの課題ではありません。先進国の多くで同様の問題が生じています。欧米諸国では、社会福祉制度の中で、身寄りのない高齢者への支援が比較的早くから整備されてきました。たとえば、イギリスでは地方自治体が成年後見的な役割を担う仕組みがあり、身寄りのない高齢者の財産管理や身上保護を公的機関が支援する体制が整っています。ドイツでは専門職後見人制度が発達しており、弁護士や社会福祉士などの専門家が後見人として活動しています。
また、北欧諸国では、福祉国家として高齢者福祉が充実しており、身寄りの有無にかかわらず、高齢者が必要な支援を受けられる体制が整っています。スウェーデンやデンマークでは、高齢者向けの住宅や在宅サービスが充実しており、家族に頼らなくても安心して生活できる環境が整備されています。
日本の新たな支援制度は、これらの国際的な取り組みも参考にしながら、日本の社会状況や法制度に適した形で設計されることが期待されます。特に、日本の強みである社会福祉協議会という地域に根ざした組織を活用することは、他国にはない特徴と言えます。一方で、北欧諸国のような包括的な福祉サービスの提供体制や、欧州の専門職後見人制度など、学ぶべき点も多くあります。
制度化がもたらす社会的意義
身寄りのない高齢者への支援の全国制度化は、単に困っている人を助けるというだけでなく、日本社会全体の在り方を問い直す重要な意味を持っています。従来、日本社会では、高齢者の介護や支援は家族が担うものという意識が強く、公的な支援は家族による支援を補完するものと位置付けられてきました。しかし、家族形態の変化や価値観の多様化により、家族による支援を前提とした仕組みは限界を迎えています。
新たな支援制度は、家族がいなくても安心して暮らせる社会を実現するための重要な一歩です。これは、結婚するかしないか、子どもを持つか持たないかといった個人の選択を尊重し、どのような生き方を選んでも、高齢期に必要な支援を受けられる社会を目指すものです。また、家族がいても、様々な事情で疎遠になっている方、家族に頼りたくない方なども、安心して利用できる仕組みです。
さらに、この制度は地域社会の在り方にも影響を与えます。身寄りのない高齢者を地域全体で支える仕組みを作ることは、地域のつながりを再構築し、誰もが排除されることなく、安心して暮らせるコミュニティを作ることにつながります。支える側と支えられる側という固定的な関係ではなく、誰もが何らかの形で地域に貢献し、必要な時には支援を受けられるという、相互扶助の精神が重要です。
まとめ
身寄りのない高齢者への支援の全国制度化は、急速に進む高齢化と家族形態の変化に対応するための画期的な政策です。2025年5月に厚生労働省が決定した中間とりまとめにより、社会福祉法の改正を通じて、新たな支援事業が第二種社会福祉事業として創設される方針が示されました。この新事業は、現行の日常生活自立支援事業を拡充し、入院・入所手続きの支援、日常的な金銭管理、死後事務など、身寄りのない高齢者が直面する多様な課題に対応するものです。
社会福祉協議会を主な実施主体としながらも、多様な主体の参画を促し、所得や資産に応じた利用料金設定により、低所得者も利用できる仕組みが検討されています。民間の身元保証サービスは高額で利用が困難な方も多かったため、公的な制度として全国で支援を受けられる体制が整備されることは、大きな前進と言えます。2024年6月には高齢者等終身サポート事業者ガイドラインも策定され、民間サービスの質の向上も図られています。
今後、2026年の法改正に向けて、実施体制の整備、多様な主体との連携、本人の意思の尊重、死後事務の法的整理、制度の周知など、多くの課題に取り組んでいく必要があります。身寄りのない高齢者が安心して暮らせる社会を実現するため、この新たな支援制度が着実に実施され、真に必要な支援が届く仕組みとなることが期待されます。この取り組みは、家族の有無にかかわらず、すべての人が尊厳を持って生きられる社会の実現に向けた、重要な一歩となるでしょう。









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