生活困窮者自立支援法2025年改正で居住支援はどう変わる?変更点を徹底解説

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2025年4月1日に全面施行される生活困窮者自立支援法等の改正は、住まいの確保に困難を抱える方々への支援を大幅に強化する画期的な制度改革です。今回の改正における居住支援の変更点として最も重要なのは、生活困窮者自立支援法、生活保護法、住宅セーフティネット法という三つの法律を一括改正する「三法一体改革」が実施され、新たに居住サポート住宅という制度が創設されたことです。この居住サポート住宅では、単に住居を提供するだけでなく、入居者への見守りや生活相談といった支援サービスがセットで提供されます。また、生活保護受給者の家賃について代理納付の原則化が図られ、福祉事務所から直接大家へ家賃が支払われる仕組みが導入されました。さらに、家賃債務保証業者に対する国土交通大臣による認定制度が新設され、悪質な追い出し行為の規制も強化されています。本記事では、2025年改正による居住支援の具体的な変更点について、制度の背景から実務的な影響まで詳しく解説します。

目次

改正の背景となる社会構造の変化

日本社会は現在、かつてない人口動態の変化に直面しており、従来の「現役世代の家族が同居して高齢者や困窮者を支える」という社会モデルは大きく変容しています。単身世帯が全世帯の主要な割合を占めるようになり、住宅確保要配慮者と呼ばれる方々が増加し続けています。具体的には、障害者世帯が約90万世帯、外国人世帯が約37万世帯、生活保護受給世帯は約75万世帯にのぼっており、これらの方々は民間賃貸住宅に居住する割合が高いという特徴があります。特に注目すべきは、単身高齢者の65%、ひとり親世帯の60%が借家住まいであるというデータであり、持ち家率が高いとされてきた日本の高齢者像が大きく変わりつつあることを示しています。

こうした状況において、賃貸人である大家側には「孤独死」や「家賃滞納」、「残置物処理」への不安が根強く存在しており、これが入居拒否いわゆるハウジング・ディスクリミネーションを引き起こす要因となってきました。従来の制度では、住宅扶助や住居確保給付金といった金銭的な給付による支援は存在していましたが、入居後の生活上のトラブルや孤立死リスクに対するケア、すなわち「居住生活の質」を担保する仕組みが不足していました。今回の改正は、まさにこのミッシングリンクを埋めるために、住宅というハードと福祉支援というソフトの融合を目指して実施されたものです。

改正の三つの柱と施行スケジュール

2024年5月に成立し2025年4月1日に全面施行される改正法は、大きく三つの柱で構成されています。第一の柱は「居住支援の強化」であり、生活困窮者自立支援法、生活保護法、社会福祉法の改正を通じて実現されます。住宅確保が困難な方に対し、自治体が相談支援を行うことが明確化され、入居時から入居中、退去時に至るまでの一貫した伴走型支援が法的に位置づけられました。第二の柱は「子どもの貧困への対応」であり、生活保護世帯の子どもが高校卒業後に就職して自立する際の新生活立ち上げ費用として一時金を支給する制度の創設や、学習・生活環境の改善に向けた訪問支援の法定化が含まれています。第三の柱は「支援関係機関の連携強化」であり、医療扶助データの分析を通じた健康管理支援や、関係機関間の情報共有の円滑化が図られています。

施行スケジュールについては、準備期間を要するため段階的に設定されています。原則としての施行期日は2025年4月1日ですが、一部の施策については先行して実施されています。生活保護世帯の子どもに対する進学・就職準備のための一時金支給については、法改正の公布日である2024年4月24日から施行されており、適用自体は2024年1月1日まで遡及して行われる措置がとられました。また、被保護者への訪問による学習・生活支援事業については、2024年10月1日から先行実施されています。

新設される居住サポート住宅の制度詳細

今回の改正において住宅政策と福祉政策の結節点として最も注目されるのが、居住サポート住宅(居住安定援助賃貸住宅)の創設です。これは従来のセーフティネット住宅の概念を拡張し、物理的な住居の提供に加えて人的な支援サービスをセットにした新しい住宅供給モデルとなっています。

居住サポート住宅とは、都道府県知事等の認定を受けた居住支援法人などが、入居者に対して安否確認や見守り、生活相談などの生活支援サービスを提供する賃貸住宅のことを指します。これまでのセーフティネット住宅である住宅確保要配慮者円滑入居賃貸住宅は、単に「入居を拒まない」という消極的な要件が主でしたが、居住サポート住宅は入居後の生活を支えるという積極的な機能が付与されている点が決定的に異なります。具体的には、社会福祉士などの専門職や地域の民生委員、ボランティアなどが連携し、原則として月1回以上の頻度で入居者を訪問して心身の状況や生活環境の変化を把握することが求められます。この見守り機能が実装されることで、高齢者の孤独死が発見されずに長期間放置されるといった事態を防ぎ、賃貸人の最大の懸念である事故物件化のリスクを低減させることが期待されています。

居住サポート住宅の普及促進策

政府は居住サポート住宅の普及を図るため、強力な財政支援措置を講じています。まず改修費への補助として、居住サポート住宅として登録された物件に対し、バリアフリー化や見守りシステムであるIoTセンサー等の導入に必要な改修費用について、国と地方公共団体が補助を行います。2025年度には「居住サポート住宅改修事業」が実施され、居住安定援助賃貸住宅への改修に対する支援が強化される見込みです。

次に家賃低廉化への補助として、低所得者が入居する場合、市場家賃と入居者が負担可能な家賃との差額を埋めるため、国と地方公共団体が家賃の一部を補助する仕組みが拡充されます。これは経済的な理由で住まいを失うリスクがある層にとって直接的な恩恵となる施策です。

居住支援法人の役割と権限拡大

居住サポート住宅制度の成否を握るのが居住支援法人です。居住支援法人とは、NPO法人や社会福祉法人、不動産関連団体など、都道府県が指定した公的な支援団体のことです。今回の改正により、居住支援法人の業務として入居者の「残置物処理」に関わる権限が明確化されました。

これまで、身寄りのない単身高齢者が死亡した場合、相続人が特定されるまで家財道具を処分できず、部屋を明け渡すことができないという法的な空白、いわゆる「残置物問題」が存在していました。改正後は、入居時に居住支援法人と契約を結ぶことで、万が一の際の残置物処理や原状回復を円滑に行うことが可能となります。これにより、賃貸人は法的リスクを負うことなく迅速に次の入居者を募集できるようになるため、高齢者の受け入れに対する心理的障壁が大幅に低下することが期待されています。

家賃債務保証業者認定制度の創設

住宅を借りる際、日本特有の商慣習として連帯保証人が求められることが多いですが、高齢者や身寄りのない困窮者にとって保証人の確保は極めて困難です。その代替として家賃債務保証会社の利用が一般的となっていますが、一部の悪質な業者による過酷な取り立てや法的手続きを経ない「追い出し行為」が社会問題化していました。本改正ではこの領域にも大きな変更が加えられています。

新たに認定家賃債務保証業者制度が創設されます。これは業務の適正性や財務基盤の安定性など、国が定めた一定の基準を満たす保証業者を国土交通大臣が認定する仕組みです。認定を受けた業者は単に家賃の保証を行うだけでなく、入居者が家賃を滞納した際に福祉部局や居住支援法人と連携し、生活再建に向けた支援につなぐ役割を担うことが期待されています。つまり、保証会社が「追い出し屋」ではなく「早期発見・支援のつなぎ役」へと変貌することが制度設計の意図となっています。

違法な追い出し条項の規制強化

認定基準において、消費者契約法等の観点から問題のある契約条項、いわゆる追い出し条項の排除が求められます。具体的には、鍵交換によるロックアウト条項として賃借人があらかじめ鍵の交換等の自力救済を認容する条項の禁止、免責条項の禁止として家賃債務保証業者が家財搬出等を行った際の損害賠償義務を免除する条項の禁止、事前通知不要条項の禁止として契約解除や保証履行に際して個人の保証人への事前通知を不要とする条項の禁止などが規制の対象となります。これらの規制により、住宅確保要配慮者が不当に住まいを追われるリスクが低減され、居住権の保護が強化されます。

住宅金融支援機構によるバックアップ機能

認定家賃債務保証業者が住宅確保要配慮者の家賃債務保証を引き受ける場合、そのリスクを軽減するために独立行政法人住宅金融支援機構(JHF)による家賃債務保証保険の利用が可能となります。この保険制度では、保証業者が代位弁済つまり入居者に代わって家賃を払うことを行った場合、その求償権である入居者に請求する権利が回収不能となった際に、損失の一定割合として最大7割等をJHFが補填します。この公的な再保証スキームにより、民間保証会社は貸倒れリスクの高い低所得者や高齢者に対しても積極的に保証サービスを提供できるようになります。これは市場の失敗を公的信用で補完する経済合理的な措置といえます。

生活保護における住宅扶助の代理納付原則化

本改正の中で不動産オーナーや管理会社にとって最も実務的なインパクトが大きいのが、生活保護受給者の家賃である住宅扶助に関する支払方法の変更です。

これまで生活保護受給者の家賃は、原則として受給者本人に現金支給され、本人が大家に支払う「本人納付」が基本でした。一部自治体では代理納付も行われていましたが、あくまで例外や要請ベースでの対応でした。しかし、受給者が生活費の不足から家賃を流用し滞納に至るトラブルが後を絶たず、これが「生活保護受給者お断り」の主たる原因となっていました。

2025年の改正法施行後、居住サポート住宅に入居する生活保護受給者については、住宅扶助費の代理納付が法律上原則化されます。代理納付とは、福祉事務所である保護の実施機関が支給決定した住宅扶助費(家賃分)を受給者本人を経由させず、直接、賃貸人である大家、管理会社、または認定家賃債務保証業者等の口座に振り込む仕組みです。

代理納付を請求できる主体の拡大

代理納付を希望する旨を福祉事務所に通知できる認定事業者の要件として、居住支援協議会の構成員、居住支援法人、賃貸住宅管理業法の登録事業者、登録家賃債務保証業者、そしてこれらと共同して居住サポート住宅を提供する賃貸人が挙げられています。これにより、賃貸人側は「確実に家賃が入金される」という担保を得ることができ、生活保護受給者の入居審査における経済的な懸念は事実上解消されます。これは福祉施策が不動産経営のリスクヘッジとして機能することを意味し、民間住宅の活用を一気に加速させる可能性を秘めています。

生活扶助費の特例加算の増額

物価高騰やエネルギー価格の上昇を受け、生活保護受給者の生活基盤を守るための措置も講じられます。2025年10月からは生活扶助に対する特例加算が強化されます。具体的には、従来の特例加算額である月額1,000円に加えてさらに500円が上乗せされ、1人あたり月額1,500円程度の加算となる見込みです。少額に見えるかもしれませんが、ギリギリの生活を送る世帯にとっては光熱費等の高騰分を吸収し、家賃滞納等の二次的な困窮を防ぐための生命線となります。

子どもの貧困対策と自立支援の強化

居住支援と並んで改正の重要な柱であるのが、生活保護世帯の子どもに対する自立支援の強化です。これは貧困の連鎖を断ち切るための戦略的な投資として位置づけられています。

これまで生活保護世帯の子どもが高校を卒業し就職して自立しようとする際、大きな壁が存在していました。就職して収入を得始めると生活保護の対象から外れることになりますが、その瞬間にアパートの敷金・礼金、家具家電の購入費などの初期費用を捻出することが困難でした。保護受給中は貯蓄が厳しく制限されており、自立のための資金を貯めることが構造的に難しかったのです。

今回の改正および先行実施により、生活保護世帯の子どもが就職等により自立する場合、新生活の立ち上げ費用に充てるための一時金が支給されることになりました。これにより若者が経済的な理由で自立を諦めたり、劣悪な住環境からスタートせざるを得ない状況が改善されます。これは単なる給付ではなく、将来の納税者を育てるという意味で社会的なリターンが見込まれる施策です。

訪問による学習・生活支援の法定化

金銭的な支援だけでなく環境面への介入も強化されます。生活保護世帯の子どもおよびその保護者に対し、自治体の支援員が訪問等を行い、学習環境の整え方や生活リズムの改善、奨学金制度の活用に関する情報提供や助言を行う事業が法定化されました。これは親世代の困窮や情報不足が子どもの進路選択を狭めることがないよう、早期からアウトリーチつまり訪問支援を行うことで、教育の機会均等を保障しようとするものです。

自治体の実務における変化

改正法の施行に伴い、地方自治体である都道府県・市町村および現場の支援員には業務プロセスの抜本的な見直しが求められます。

改正生活困窮者自立支援法は、自治体の責務として居住に関する相談支援を明確化しました。これまでは窓口での相談受付が主でしたが、今後は入居時から入居中、そして退去時までの一貫した居住支援を実施することが求められます。具体的には、入居前においては不動産店への同行、保証会社の選定支援、初期費用の確保として住居確保給付金や貸付金の活用が想定されます。入居中においては定期的な訪問による見守り、家賃滞納の兆候把握、近隣トラブルの仲裁、就労支援との連動が含まれます。退去時においては転居先の手配、施設入所への移行支援、死亡時の残置物処理対応として居住支援法人との連携が必要となります。

これらを一人の担当者が行うことは困難であるため、庁内の「断らない相談窓口」と外部の居住支援法人や居住支援協議会との密接な連携体制の構築が不可欠となります。

医療扶助データの活用と健康管理

改正法では、都道府県が医療扶助のレセプトデータである診療報酬明細書を分析し、市町村に提供する仕組みが努力義務化されました。たとえば、頻回受診や多剤重複処方が見られる受給者に対し、保健師が訪問して服薬指導を行ったり、生活習慣病の重症化予防プログラムへの参加を促したりすることが可能になります。健康状態の悪化はそのまま居住継続の困難、つまり入院や施設入所に直結するため、医療データに基づいた健康管理は間接的ではありますが極めて有効な居住支援策となり得ます。

海外の住宅支援制度との比較

本改正の意義をより深く理解するために、海外の住宅支援制度との比較視座を持つことは有用です。イギリスでは「ユニバーサル・クレジット」という制度のもと、住宅費である家賃に対する給付が包括的な社会保障給付の一部として組み込まれています。特筆すべきは低所得者であれば就労の有無に関わらず家賃補助が受けられる点であり、これが広範な住宅セーフティネットとして機能しています。ドイツにおいても住宅手当や住居費の全額支給として求職者基礎保障の一部など、権利としての居住保障が確立されており、受給期間に制限がないケースも多いです。

対して日本の制度は従来「持ち家政策」が中心であり、賃貸住宅に住む低所得者への家賃補助いわゆる住宅手当は恒久的な制度としては存在しませんでした。住居確保給付金はあくまで離職等の緊急時の短期的な救済措置として導入された経緯があり、欧米のような普遍的な家賃補助制度とは性質が異なります。今回の改正で住居確保給付金の対象要件が緩和され、求職活動要件の見直しや低廉な住宅への転居支援としての活用が可能となるなど機能の拡充が図られていますが、直接的な金銭支援の部分では依然として欧米主要国に見劣りする側面があります。今後、居住サポート住宅という現物サービスの供給と並行して、利用者がその家賃を継続的に負担する能力を支える経済的支援をどのように確立していくかが、今後の大きな政策課題となるでしょう。

改正が目指す社会像と今後の展望

2025年の改正は日本の住宅セーフティネットにおける「失われたピース」を埋めるための野心的な試みです。公営住宅の大幅な増設が見込めない財政状況下において、空き家が増加し続ける民間賃貸住宅を活用することは合理的といえます。今回の改正は大家が抱くリスクを、見守りサービスである居住サポート住宅、家賃保証としての認定制度とJHF、直接納付としての代理納付という三層の仕組みで徹底的に除去することで、民間市場の扉をこじ開けようとするものです。

単に雨露をしのぐ場所を提供するだけでなく、そこでの生活を見守り孤立を防ぐという視点は、厚生労働省が掲げる「地域共生社会」の理念と合致します。居住支援法人がハブとなり、不動産事業者、福祉事業者、行政、そして地域住民が連携することで、制度の縦割りを越えた包括的な支援体制が構築されることが期待されています。

この制度が十分に機能すれば、高齢になっても、障害があっても、経済的に困窮しても、住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる社会、すなわち「居住の権利」が実質的に保障される社会への大きな一歩となるでしょう。しかしそのためには、制度を運用する支援員の確保と、家賃補助という経済的支援の課題に対し、引き続き粘り強い政策議論が必要です。2025年4月の施行に向け、各自治体での条例整備や居住支援法人の育成、そして不動産業界への周知が急務となっています。

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