障害者グループホームの新規開設を自治体が制限できるようになる総量規制は、早ければ2027年4月(令和9年4月)から適用が始まる見通しです。厚生労働省とこども家庭庁は2025年12月8日の合同会議で、共同生活援助を総量規制の対象に加える方針を正式に示しました。現行の第7期障害福祉計画は2024年度から2026年度までを計画期間としており、次の第8期計画が始まる2027年度から、グループホームも他の障害福祉サービスと同様に供給量をコントロールする仕組みの対象になります。
これまでグループホームは、地域の暮らしの場としての役割の大きさから、総量規制の対象外とされてきました。しかし事業所数は令和4年時点で全国10,150件に達し、年間1,000件近いペースで新規開設が続いてきた結果、地域によっては供給過多や支援の質の低下を懸念する声が強まっています。この記事では、総量規制がいつから始まるのか、対象に加わる理由、例外規定、事業者と利用者への影響を、2026年8月時点で分かっている情報をもとに整理します。

総量規制は障害者総合支援法第36条第5項が拠りどころ
総量規制とは、都道府県や政令指定都市、中核市が、地域内の特定の障害福祉サービスについて供給量をコントロールする仕組みのことです。自治体は障害福祉計画を策定し、その中でサービスごとの利用見込み量を定めています。すでにその見込み量に達している地域では、自治体が新規事業所の指定を拒否できるようになります。
法的な根拠は障害者総合支援法第36条第5項にあります。この条文は、障害福祉計画上の見込み量にすでに達している場合などに、都道府県知事や政令市・中核市の長が新規事業所の指定をしないことができるという、裁量的拒否の規定です。義務ではなく裁量という点は、後述する自治体ごとの運用の差にも関わってきます。
これまで総量規制の対象だったのは、生活介護、就労継続支援A型・B型、児童発達支援、放課後等デイサービスといった通所系の障害福祉サービスが中心でした。事業者の参入がしやすく、報酬改定のたびに新規開設が急増する傾向があったためです。一方でグループホームは居住系サービスという性質上、暮らしの場としての重要性が優先され、規制の枠外に置かれてきました。その位置づけが、いよいよ転換しようとしています。
障害福祉計画そのものは、障害者総合支援法第87条第1項の規定に基づいて国が示す基本指針にのっとり、都道府県や市町村が原則3年を一期として策定する仕組みです。基本指針では、障害福祉サービス等の提供体制や自立支援給付の円滑な実施を確保するための基本的な事項や成果目標が定められており、各自治体の計画はこの指針に即して作られます。地域の実情や報酬改定、制度改正の影響を踏まえて期間を柔軟に調整できる建てつけにもなっており、第7期から第8期への切り替えも、この3年サイクルに沿って進められる形です。
グループホーム急増の裏に事業所10,150件、不正受給261億円
グループホームが総量規制の議論の的になっている理由は、ひとつではありません。複数の要因が同時に進行しています。
まず事業所数と利用者数の急増です。共同生活援助(介護サービス包括型)の事業所数は令和4年時点で全国10,150件に達しており、ここ数年は年間で1,000事業所近いペースで新規開設が続いてきたとされています。株式会社などの営利法人の参入も進み、市場としての魅力が高まったことが急増の一因です。
サービスの質の低下や不適切事例の増加も見過ごせません。厚生労働省の障害者虐待対応状況調査によれば、グループホームにおける虐待件数は近年増加傾向にあります。2024年6月には、あるグループホーム運営事業者の複数の事業所が、利用者から食材費を組織的に過大徴収していたことが発覚し、指定取消処分を受けました。指定基準が比較的緩やかだったため、経験やノウハウの乏しい事業者が参入し、支援の質が伴わないまま運営されるケースが問題視されています。
報酬の不正受給や過大請求も増えています。障害福祉サービス全体における不正発覚に伴う返還金額は、次のように推移してきました。
| 年度 | 不正発覚に伴う返還金額 |
|---|---|
| 2019年度 | 74億円 |
| 2020年度 | 185億円 |
| 2022年度 | 261億円 |
わずか数年で3倍以上に膨らんだ計算です。公費負担の増大という財政面の問題も背景にあります。グループホームを含む障害福祉サービス全体の給付費は年々増え続けており、財務省も就労継続支援A型・B型とあわせて、グループホームの費用の伸びを問題視する資料を公表しています。
こうした状況を受け、厚生労働省は「入口(指定・参入の適正化)」「中身(人材・支援の質の確保)」「チェック(指導監査の強化)」という三方向からの政策パッケージを検討しています。総量規制はこのうち「入口」対策の柱として位置づけられています。
2025年12月8日の合同会議で対象追加の方針が正式に示された
グループホームへの総量規制導入をめぐる議論は、社会保障審議会障害者部会などの場で段階的に進められてきました。厚生労働省がまず論点を提示し、サービスの質の確保という観点から議論が交わされました。この段階では、供給過多となっている地域がある一方、地方では依然としてグループホームが不足しているという地域差の問題も指摘されていました。
2025年7月頃の障害者部会では、総量規制の導入に対して慎重な意見が相次ぎました。「グループホームは有効な社会資源であり、総量規制の導入は現段階では慎重に検討すべきだ」という意見や、「重度の障害者が安心して入居し続けられるグループホームを増やすなど、必要な人が必要なサービスを利用できる環境整備の方がより重要だ」という指摘が出されています。当事者家族からは「息子の通えるグループホームまで車で1時間かかる。都市部の供給過多という話を聞くと複雑な気持ちになる」という声も紹介されました。都道府県によっては、すでにグループホームの供給量が見込み量を上回っているところが多いというデータも示されています。
こうした慎重論を踏まえつつも議論は前に進みました。厚生労働省は共同生活援助を総量規制の対象に加える案を示し、障害者部会でおおむね了承されています。そして2025年12月8日、厚生労働省とこども家庭庁の合同会議において、障害福祉計画および障害児福祉計画の中で総量規制の対象に障害者グループホームを新たに加える方針が正式に示されました。
総量規制の開始は2027年4月、令和9年度からが有力
もっとも気になる「いつから」という点について、現時点で示されている見通しを整理します。
現行の第7期障害福祉計画・第7期障害児福祉計画は、令和6年度から令和8年度(2024年度から2026年度)を計画期間としています。この期間中に総量規制の対象拡大についての議論と制度設計が進められ、次の計画期間である第8期(令和9年度から、2027年度から)から、グループホームが正式に総量規制の対象サービスに加わる見通しです。
| 区分 | 期間 | グループホームの位置づけ |
|---|---|---|
| 第7期障害福祉計画 | 2024年度〜2026年度 | 総量規制の議論と制度設計を進める期間 |
| 第8期障害福祉計画 | 2027年度〜 | 総量規制の対象に正式追加される見通し |
つまり、実際に自治体がグループホームの新規指定を拒否できるようになるのは、早ければ2027年4月(令和9年4月)以降と見込まれます。業界関係者の間では、この制度変更を踏まえて「令和9年春(2027年4月)までが、比較的自由に新規開業できるラストチャンス」という見方も広がっています。裏を返せば、2026年度末にかけて、総量規制の適用を見据えた駆け込み的な新規開設の動きが増える可能性があります。
ただし具体的な適用開始日や自治体ごとの運用細則については、2026年中もさらに議論が続けられる見込みです。厚生労働省は年内をめどに最終的な方針を固めるとされており、正式な制度化のスケジュールは今後の審議会の議論や通知の内容によって、多少前後する可能性がある点には注意が必要です。
自治体の規制実施率は1割程度、対応は地域でばらつく
総量規制が適用されると、都道府県(政令指定都市・中核市を含む)は、障害福祉計画に定めるグループホームの利用見込み量に対して、実際の供給量(事業所数や定員、利用者数)がすでに達している、あるいは達する見込みがあると判断した場合に、新規の指定申請を拒否できるようになります。
ただし、これは裁量的拒否規定であり、必ず拒否しなければならないという義務ではありません。実際に総量規制を導入するかどうか、どの地域・どのタイミングで適用するかは、各自治体の判断に委ねられる部分が大きいのが実情です。現行の総量規制対象サービスについても、全ての自治体が一律に規制を実施しているわけではなく、実施している自治体は全体の1割程度にとどまるというデータがあります。自治体間で対応にばらつきがある点は、グループホームについても同様に起こりうると考えられます。
大阪市や久留米市、姫路市など、一部の自治体ではすでに障害福祉サービス全般について総量規制の実施方針をウェブサイトで公表しています。こうした先行事例が、今後グループホームにも適用されていく可能性があります。
強度行動障害や医療的ケア対応のグループホームは対象外に
一律に新規参入を制限してしまうと、地域によっては必要な人が必要なサービスを利用できなくなる恐れがあります。この点への配慮として、総量規制には例外規定が設けられる方向で検討されています。
具体的には、強度行動障害を有する方への支援や、医療的ケアが必要な方への対応など、依然として受け皿が不足している個別ニーズに対応するグループホームは、総量規制の対象外として扱われる方針です。重症心身障害児者への支援を行う場合や、共生型サービスとして運営される場合なども、例外的な取り扱いとなる可能性が示されています。
つまり、グループホームだからといって一律に規制されるわけではありません。地域で不足している専門性の高い支援を提供する事業所については、引き続き新規参入の道が残される見込みです。どのようなケースを例外とするかは、各自治体が地域のニーズや実情を踏まえて個別に判断していくことになります。
なお共生型サービスとは、介護保険と障害福祉、双方の指定を受けた事業所が、高齢者と障害のある人を同じ場で受け入れながら支援を提供する仕組みのことです。人口減少が進む地域でも福祉の担い手を確保しやすくする狙いがあり、グループホームの一部にもこうした運営形態を採る事業所が出てきています。
令和8年6月の報酬改定で新規開設事業所の基本報酬は972に引き下げられた
総量規制の導入は、これからグループホームの新規開設を検討している事業者にとって、大きな転換点です。「参入すれば一定の需要が見込める」という従来の前提が崩れ、地域によっては新規指定そのものが認められなくなる可能性が出てきます。
開設を検討している地域の障害福祉計画における見込み量と、実際の供給状況を事前に確認することが重要になります。すでに供給過多とされている地域では、通常のグループホームでの新規参入が難しくなる可能性が高いため、医療的ケアや強度行動障害への対応など、地域で不足している専門性の高いサービスを軸に事業計画を組み立てることが、今後は有効な戦略になり得ます。
新規指定の権限を持つのは都道府県だけでなく、政令指定都市や中核市も含まれます。同じ都道府県内であっても、政令指定都市や中核市ごとに供給状況の判断が分かれる可能性があり、開設エリアの選定にあたっては、都道府県単位だけでなく、より細かい行政区分ごとの供給動向を確認する視点が欠かせません。
支援の質そのものを高める姿勢も、これまで以上に重視されます。厚生労働省は2026年2月、「共同生活援助における運営や支援に関するガイドライン(第1版)」を策定し、各自治体に通知しました。障害福祉の基本理念や権利擁護、個別支援計画の作成・活用、支援の質を高めるための取り組み、地域との連携のあり方など、共同生活援助に限らず障害福祉サービス全般に共通する視点が幅広く盛り込まれています。あわせて、事業者が自ら運営状況を点検できる自己チェックシートや、自治体が新規指定審査・運営状況の指導を行う際の留意事項をまとめた通知も公表されており、指定審査や指導監査の場面で実務的に活用されることが想定されています。総量規制とあわせて、質の確保を図るための柱のひとつです。管理者には実務経験3年以上に加えて研修の受講を義務付けるなど、運営基準そのものを厳格化する方向での検討も進められています。
入口対策は、報酬面ですでに動き始めています。令和9年度の本格的な報酬改定を待たず、令和8年度には障害福祉サービス等報酬の臨時応急的な見直しが実施され、主要な改定事項は令和8年6月1日から施行されました。この見直しでは、障害福祉分野で働く職員を対象に最大月額1万9千円の賃上げにつながる処遇改善加算の拡充が図られる一方、就労継続支援B型・グループホーム・障害児通所支援(児童発達支援や放課後等デイサービス)については、新規開設事業所に対する基本報酬を一時的に引き下げる措置が導入されました。グループホームの場合、新規開設事業所の基本報酬は通常の1000分の972に調整されており、急増する新規参入に対して報酬面からもブレーキをかける狙いがうかがえます。総量規制という量的な参入制限が本格施行される前段階として、報酬調整によって新規開設のペースを抑えようとする動きは、すでに始まっています。
既存の事業所であっても、虐待防止や適正な運営体制の確保、利用者本位の支援の実践など、指導監査の強化を見据えた自主点検を進めておくことが望ましいといえます。総量規制はあくまで入口対策であり、中身の質の向上やチェック機能の強化とセットで進められている政策です。事業者側も総合的な対応を意識する必要があります。
利用者にとって支援の質向上と地域格差解消が今後の焦点
利用者や家族の立場から見ると、総量規制の導入には期待と不安の両面があります。
質の低い事業者の乱立に歯止めがかかり、支援の質が担保されたグループホームが増えていくことは期待される点です。虐待や不適切な運営が疑われる事業所が減れば、安心して長く住み続けられる環境の整備につながる可能性があります。
一方で、地域によっては供給不足が解消されないまま新規参入まで制限されてしまい、必要な人がグループホームに入居できない状況が長引くのではないかという懸念もあります。特に地方では、通える範囲にグループホームが少なく、家族が遠方まで送迎せざるを得ないといった実態がすでに報告されています。総量規制の運用にあたっては、単に数を抑えるだけでなく、地域ごとの実際の充足状況をきめ細かく把握し、真に不足している地域や支援内容は規制の対象外とするなど、柔軟な運用が求められます。
グループホームはもともと、施設や病院からの地域生活への移行を後押しする役割も担ってきました。長期入院や長期入所から地域での暮らしへと移っていく国の方針とも密接に関わっており、単に住まいの選択肢を増やすだけでなく、地域全体で障害のある人を支える体制づくりの一部として位置づけられています。総量規制の議論も、この地域移行の流れを止めない形でどう制度設計するかが、ひとつの焦点になっています。
グループホームへの総量規制は、急増する事業所数と、それに伴う支援の質の低下、公費負担の増大といった課題への対応として検討が進められてきました。2025年12月には、厚生労働省とこども家庭庁の合同会議で、共同生活援助を総量規制の対象に加える方針が正式に示され、次期障害福祉計画が始まる2027年度(令和9年度)からの本格適用が見込まれています。
ただし、総量規制の導入にあたっては社会保障審議会障害者部会などで慎重な意見も相次いでおり、地域による需給ギャップへの配慮から、医療的ケアや強度行動障害への対応など一定の例外規定も設けられる方向です。実際の適用開始時期や運用の詳細については、2026年中も引き続き議論が続けられる見通しであり、今後の厚生労働省の通知や自治体の対応を注視していく必要があります。
事業者にとっては、令和9年(2027年)春までが比較的自由に新規開設できる期間と捉えられている一方で、単なる駆け込み的な参入ではなく、地域のニーズに合った専門性の高い支援体制の構築や、ガイドラインに基づく運営の質の向上が、これからのグループホーム経営で重要になっていきます。利用者・家族にとっても、総量規制が単なる新規参入の抑制にとどまらず、必要な地域でサービスが確保され続けるための制度として機能していくかどうかが、今後の注目点です。








